第8話

 今朝の事で頭がいっぱいになり、授業の内容はほとんど頭に入ってこないまま1限目、2限目、3限目と時間が過ぎていく。……楓にあんな風に言われたのは初めてだ。どうして彼女は怒ってしまったのだろう。もしかしたら、僕が何かしてしまったのかもしれない。


 それに、彼女は言っていた。「隣の禍瑠徒学園に転校すれば良かったのでは」と。言われてみればそうだ。DWOの大会で優勝を目指したいならば、隣の高校に行けばよかったのだ。なのに、僕はあえて遠い学校を選んだ。……それはなぜか? 


 ―――楓と離れたくなかったから。


 その事に気づき、思わず苦笑する。まさか自分がこんなに楓の事を思っていたなんて。でも、仕方がない。ずっと一緒に居た幼馴染なんだから。もしかしたら、彼女と一緒の道を進みたかったのかもしれない。


 強いから仲間にしたかったという気持ちも確かにある。けれど本当は、楓と一緒にゲームをしたかったのだと思う。そして、同じ目標に向かって進んで行きたかったんだ。彼女に断られてから気づくとは情けないけれど。友達らしく、素直な気持ちで誘えばよかったのかな。でも、以前誘った時は…………あっ。


 そういえば楓は、最初に誘った時のことについて何か言おうとしていた。あれはどういう意味なんだろう。……分からないけど、きっと大切なことだったはずだ。僕たちが疎遠になってしまったことに関係する事なのかもしれない。それを聞かずに終わってしまったことに後悔を感じる。……楓ともう一度話をしたい。


 よしっ!と気合を入れて4限目の授業を受ける。先生の話を聞き流しつつ、これからのことを考える。怒らせてしまった以上、気軽に話しかけるのは難しい。適切な対応で会話のチャンスを作れたらいいのだが、僕はそういったことがあまり得意ではない。僕一人ではどうしようもない状態。……水瀬さんに、相談するしかない。


 昼休み。僕は近くの席に座っている水瀬さんの方に顔を向ける。声をかけようとしたが、彼女は席を立ちどこかへ行ってしまった。……普段なら諦めて弁当を食べるところだが、今日は違う。すぐに彼女を追いかける。




「水瀬さん」

「あっ、レイちゃん。来てくれたんだね」


 追いかけた先は、ゲーム部の部室だったようだ。扉を開けると、彼女は椅子に座りながら笑顔で出迎えてくれる。ゲーム部でない癖にゲーム部であるかのように振る舞う水瀬さん。……とりあえず、隣に座るように促されたので、大人しく従う。


「早くお昼ご飯たべちゃお?」

「……うん」


 部室にはせっせと昼食を食べている目院や高橋、不知火姉妹がいる。……僕も早く食べたほうが良さそうだ。鞄の中からコンビニおにぎりを取り出し、封を開け中身を食べる。しばらくすると、水瀬さんが口を開いた。


「うーん、そろそろかな」

「そろそろ?」


 突然発せられた言葉の意味が分からず、首を傾げる。すると、彼女はニコニコとした表情のまま口を開く。


「今日の中休みにね、弓掛ちゃんに声をかけたの。『今日の昼休みゲーム部でDWOを体験してほしい』って。……もちろんOKされたよ!」

「えっ!?……そうなの?」


 嬉しそうに語る水瀬さん。僕は驚いてしまい、手に持っていたおにぎりを落としそうになる。……だが、よく考えてみると楓は今朝僕の誘いを断っていた。だから、来るはずがない。恐らく冗談だろう。そう思うと、少しだけ心が軽くなる。


 しかし、そう思ったのもつかの間。部員が全員そろっているのにもかかわらず、部室のドアが開く音が聞こえてきた。……ドキドキしながら振り向くと、そこには今朝と同じ仏頂面の楓が立っていた。


「失礼します。……早速私に弓を引かせてください」

「おお、体験希望者か。……よし、みんな。先にDWO内にある部室に集合していてくれ。俺たちは後から向かう」


 目院が立ち上がり指示を出す。すると、他の人たちも動き出す。


 ……楓が、来た。朝怒らせてしまったはずの楓が、僕達のいるゲーム部へ。


 本当はいろいろと聞きたいのだが、彼女は今目院とやり取りしている。……今はとりあえず、みんなの元へ向かわなくては。早速DWOにログインして指定された場所へ向かう。

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