第6話
「良かったな、空条」
「別に」
隣の男子生徒が僕に声をかけてきたので、短く返答する。6-1組の小学校の教室。修学旅行の班が決まってクラスメートたちがはしゃいでいる場面。そんな中、僕は自分の席に座って窓の外を眺めている。……僕は今中学生なのでこれは夢に違いない。でも、どんなに目をこすっても景色は変わらない。どうやら、深い眠りについてしまっているようだ。
「玲ちゃん楓と一緒なんだね。いつも一緒にいる子と同じ班になれるなんて、羨ましい。私なんて、友達全員違う班になっちゃったんだから」
「別に、僕は誰と一緒でも不満はないし」
女子生徒に話しかけられて、再び短い言葉で返す。確か、山田さんだっけ。どうやら心の中もあの頃に戻ってしまっているようで、懐かしい感覚に囚われる。
「えー、そんなこと言わずにさ。せっかくの旅行だよ。楽しまなきゃ損だって!」
「ただの学校行事。わざわざ楽しむ必要なんかない」
「むぅ、相変わらずつれないなぁ。ま、それが玲ちゃんらしいけど」
山田さんは口を尖らせて言った。僕の反応を見て、軽く微笑む。丁度その時、クラス担任の先生が声を発した。
「悪い弓掛。くじ引きさせておいて難だが、3班の山崎と変わってくれ。寺院に詳しい奴が3班に一人もいないんだ。お前が代わりに行ってくれないか?」
「わかりました」
楓は立ち上がると、向こうの3班のところへ歩いていった。そして、その様子を見ていた山田さんが口を開く。
「残念。楓と離れちゃったね」
「別に、問題ないし」
「なんか悲しそうだよ?」
「そんなことないし」
言いつつ、僕は顔をそむけた。すると、山田さんは笑いながら言葉を続ける。
「そんなこと言ってぇ。本当は……」
「すまん、空条。よく見たら3班に柏崎と曽田がそろってる。二人一緒だと問題があるから柏崎と変わってくれ」
再び教師から呼び出しがかかる。僕は無言で立ち上がり、歩き出そうとする。すると、再び山田さんが口を開いてきた。
「よかったね、空条さん。楓とまた一緒になれて」
「別に……」
僕は短く呟くと、楓のいる3班のほうへと歩いて行く。周りの人たちは盛り上がりながら、僕たちの様子を伺っていた。楓は、僕を見ると少し笑顔を浮かべたが、すぐに視線をそらす。
……長い沈黙の後、彼女は僕に話しかけてきた。
「私は玲と一緒になれて、嬉しいですよ」
笑顔で言い放つ。その言葉を聞いた瞬間、僕の心が跳ね上がった気がした。
「空条っ、お前はどうなんだ、嬉しいのか?」
僕達を見ている生徒の誰かが問いかけてくる。
―――もちろん、嬉しくないわけがない。しかし、そんなこと恥ずかしくて言えるはずもなく……
僕は黙って、楓の手を握る。楓は驚いた様子だったが、優しく握り返してきた。……周囲から歓声が上がる。僕の顔が熱くなるのを感じた。
目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。ベッドの上で上体を起こし、部屋の様子を確認する。……うん、間違いなく自分の部屋のようだ。それにしても、懐かしい夢を見たものだ。
カーテンを開け外を見てみると、既に暗くなっていた。時計を確認してみると夜の11時を回っている。……学校から帰宅して、すぐに寝てしまったのだろう。最近慣れないことするようになったから、疲れが溜まってしまったのかもしれない。
本当は寝る時間だけれど、目が冴えて眠れない。……それなら、配信しよう。ゲーム部の部員が増えたことを報告するべきだし、部員を集めるための更なるアイディアを教えてもらえるかもしれないし。早速僕はDWOにログインして配信を始めることにした。
「……という事で、部員を一人確保した。これで、あと3人」
コメント
・おめ!
・乙
・やったぜ
・この調子でどんどん増やしていこう
多くのコメントが流れる。やはり視聴者のみんなも、応援してくれるみたいだ。
コメント
・新入部員かぁ
・どんな子か気になるw
・かわいい女の子希望
・俺は男の娘がいいなぁ
・↑男の娘なんて空想の存在なんだよなぁ
・どうやって部員ゲットしたの?
・ふむふむ……どんな風に勧誘したのか
・これは、新入部員ちゃんによる百合展開くるー!?
どんな新入部員が来たのか、どうやって新入部員を誘ったのか、コメントで質問が投げかけられる。僕はそれに応えるべく、状況を思い出しながら説明することにした。僕たちの部活に興味を持ってくれそうな子を探す為に音楽室でアニソンを演奏して、興味を持ってくれた子に声をかけた。勧誘時期が遅かったせいでなかなか上手くいかなかったけれど、一人の男の子が入部してくれた。……簡単に言うとこんな感じ。詳しく説明すると長くなりそうだったので、とりあえずざっくりと説明したのだが……。
コメント
・まさかの男子生徒だとぉ
・草生え散らかすwww
・女の子でも男の娘でもないなんて……
・何が悲しくて野郎の加入を知らされなきゃいけないんだ
・まぁ、レイちゃん(可愛い子)の声が聞けるからそれで満足だけどさ
・俺も入部すれば、美少女のハーレムができるかな
・♂×♂はちょっと……
・↑↑お前ホモなのかよ
正直に答えただけなのだが、何故かみんな不満そう。どうやら、みんな可愛い娘に飢えているようだ。確かに、最近は男性Vtuberもたくさんいるけど、やっぱり女性キャラのほうが人気だし、声も女性のものが多い。……僕も、そういう目で見られてるのかな?
コメント
・レイちゃんは僕っ子。つまり、レイちゃんは男の娘枠
・↑お前天才かよ
・レイちゃんは女じゃなくて男の娘の枠
・レイちゃんは性別:れいちゃんだから
・↑初耳なんだけれど
・↑俺たちのレイちゃんに変な設定をつけるな
・↑すまんかった
何だか話が変な方向に向かっている気がするので、僕は慌てて軌道修正を図る。
「とにかく、ゲーム部に新入部員が一人来てくれた。でも、あと二人必要。今はもう4月の後半だから、もうすでに部活に入部してしまった一年も多く、せっかくゲーム部に興味を持ってくれる子がいても、既に他の部に入部している状況。このままでは、生徒会長のチームと戦う事すらままならない」
コメント
・なるほど
・生徒会長www
・部を存続させるため生徒会長と対立なされる剣姫様
・生徒会長は権力を持っているからなぁ
・↑さすがに草
・レイちゃんの生徒会入りはいつになるのか
・生徒会長とレイちゃんによる百合展開に期待
・↑生徒会長が女とは限らないぞ
・試練を課すタイプの生徒会長は女に決まってるだろ。
・↑だよな
・……お前ら、アニメに影響されすぎだろ
好き勝手に語るコメントを見ていると、少し楽しくなってくる。どうやらみんな、僕が生徒会長と対立するのが面白いようだ。まぁ、僕の本職はゲームプレイヤーであって、学園ラブコメの主人公じゃないけど。それに、生徒会長が百合思考の持ち主とも限らないし。……どうして、僕の視聴者たちは変わったことを書く人が多いのだろうか。
コメント
・でもさ、何でゲーム部が廃部にされかけているの?
・あぁ、それは気になる
・俺も気になってたわ
・↑ゲーム部は今年の入学式で、ある問題を起こしたらしい
・え、何やったん?
・なんか、校長のカツラを吹っ飛ばしたとか
・↑はぇ~……そりゃ怒られるわけですわ
・花壇のコスモスを、すべて食用菊に植え替えてしまったことも忘れてはいけない
・↑ヤバいな、ゲーム部
何故ゲーム部が廃部の危機になってしまったのか、無茶苦茶な噂が飛び交っている。当然だが、それは間違いだ。僕は一度深呼吸をして、落ち着いた声でコメントに応えていく。
「……そんな話は聞いたことない。生徒会長が結果を出してないゲーム部を潰して、貴重なVR装置を強い運動部に使わせようとしているだけ。だから、力を証明する必要がある。……数日後に、戦いの場がある。それに勝利して、力を示せたのなら廃部を免れられる」
コメント
・レイちゃんから凄い熱意を感じるよ
・これは、勝たないといけませんなぁ
・勝てば廃部を免れるってこと?
・でもさ、その話だと負けても力を見せればOKじゃないか?
・部員集めすらしなくてもいいんじゃないかな?
・↑どういうことだ?
・力を示すことさえできれば廃部にはしないんでしょ? だから、もしかしたら部員が欠けていてもどうにかなるかも
視聴者の反応を見ていると、気になるコメントが目に入る。部員が欠員していても大丈夫? 確かに、生徒会長からは部員を集めろとは言われなかった。……でも、試合をするためにはどうしても人数が足りない。
コメント
・人数不足の状態で戦うの? 確かにレイちゃんは強いけれど……
・↑いや、それはさすがに無茶だろ
・レイちゃん一人で、相手チームの5人くらい倒せるんじゃね?
・↑いや、無理でしょw
・……そうか、友達に頼めば良いのか
・助っ人の手を借りるという手もあるな
・レイちゃんの交友関係の広さならば、何とかなりそうだな。
・↑レイちゃんの交友関係www
・レイちゃんには沢山の知り合いがいるからなwww
・↑レイちゃんの人脈が広すぎてワロタ
何故か、僕を煽るようなコメントが多くなってきた。少し腹が立つが、ここは冷静に。……助っ人か。確かに、誰かに手伝って貰えば試合ができるかもしれない。助っ人の力を借りてもいいかどうか、明日の朝生徒会長に確認してみよう。
希望が見えたことによって、不安が和らいできた。今なら眠れる気がする。配信は、ここまでにしよう。
「助っ人はいいアイディアかも。みんな、ありがとう。……眠くなったので、今日はここまで。お疲れ様」
コメント
・乙!
・おつかれー
・おつでした
・乙
・頑張ってね、レイちゃん
・おつかれさま~
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