第5話
4間の授業が終わり、昼休みに。僕は昼食を持ち高橋を連れてゲーム部の部室へと向かった。部室には既に部長と不知火姉妹、そして何故かお菓子を食べている水瀬さんの姿があった。
「紹介します。こちらが新入部員の高橋です」
「あっ、高橋です。よろしくお願いします……」
高橋は緊張した面持ちで挨拶をする。すると、目院部長が嬉しそうに口を開いた。
「おお、早速一人目をゲットか。これであと二人だな」
「はい。勧誘には苦労しましたが、何とかなりました……口調、もう敬語じゃないんですね」
初めて出会ったときは僕に敬語を使っていた目院だったが、いつの間にかため口に変わっていた。気になったので突っ込んでみることに。
「……気にしないでくれ。今のキミはゲーム部の仲間だから遠慮なく話せるんだ。……そういえば、名前聞いてなかったな」
「二年、空条玲。ファイター志望」
「一年、不知火魔美ですっ。ウィザードです」
「一年、不知火魔子なのっ。ウイザードです」
「お前ら、隙あらば名乗ってんな。……まあいいや。俺は三年の目院順。ナイトをしている」
僕と一緒に自己紹介する不知火姉妹に突っ込みながらも、自分も自己紹介する目院。……この展開、前にも見た。
「それで、高橋はどのポジションにするんだ?」
目院が尋ねる。高橋は少し迷った様子を見せた後、おずおずと答えた。
「えっと、その。……やっぱり、キングがやりたいです。それで、活躍したいです」
「そうか。それじゃ、決まりだな」
「えっ、その、良いんですか?」
「うちの部活、人がいないんでな。他になりたがってるやつがいないんだ。それに、キングは基本的に前線に出なくていいし、他の役割よりは戦いやすいと思うぞ」
戸惑う高橋に目院が優しく語り掛ける。……これで、キング役は決まった。後は残りの部員を探すだけ。
「……ところで、先ほどから部室でお菓子を食べてるやつ。お前も新入部員なのか? どのポジションを目指してる?」
目院の視線が水瀬さんへと向けられる。彼女はもぐもぐとクッキーを頬張りながら答えた。
「入部希望者じゃなくて、陸上部所属の水瀬さんだよ。……おいしそうな卵焼きだね。私にも頂戴」
「そうか。……ったく。ほれ、食うか?」
「ああ、羨ましいのです。魔美にも黄金を恵んで下されぇ」
「部長様は不平等なのっ。魔子にも甘味をよこしやがれぇ」
不知火姉妹が羨ましがる中、目院が卵焼きを半分だけ水瀬さんに差し出す。すると、彼女は大きく口を開けてそれを食べた。
「美味しい。でも、甘いよこれ。塩味が効いてる方が好みかなぁ。……そうだ! 私が料理作ってあげようか?」
「ああ、いいな。しょっぱい卵焼きでも…………ってやかましいっ! なんで入部希望者でもない奴に弁当を批評されにゃいかんのだ!?」
水瀬さんの言葉に目院が怒鳴る。すると、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あはは、冗談だってば。そんな怒らないでよ」
「たく……。とにかく、今はポジションについて話し合うぞ」
目院は溜息をつくと、僕たちに向き直る。僕たちも姿勢を整えた。
「まず、俺はナイト。そして、魔美か魔子がウイザード。高橋がキングでレイがファイター。前衛二人と後衛一人、それとキングが決まった訳だが」
「前衛と後衛?」
目院の話に、水瀬さんが首をかしげる。
「DWOのPVPは7対7のチーム戦だ。近接攻撃が得意な前衛が3人。遠距離から援護するのが得意な後衛が3人。それとキングで構成されている。前衛と後衛で協力して、集団戦を勝ち抜くわけだ」
「ふむふむ、なるほど」
目院の説明に、水瀬さんは納得したようにうなずく。
「今足りないのは前衛の「アサシン」、後衛の「アーチャー」、「ヒーラー」の三つの役割だ。魔子か魔美にどれか押し付けるとして、残り二人が必要。……不遇職ばかりだが、何とか勧誘してくれレイ」
「はい」
僕は返事をする。……勧誘にはあまり自信はないが、それでもやるしかないだろう。ゲーム部がなくなってしまったら、大会に出られなくなってしまう。
「……不遇職?」
水瀬さんが不思議そうに呟く。すると、不知火姉妹が彼女に説明を始めた。
「アサシンとアーチャーは、能力とゲームシステムがかみ合ってないのです」
「忍者と弓使いのふたつは、長所を生かしにくく、短所が目立ちやすいのっ」
不知火姉妹が交互に説明する。確かにその通りだ。アサシンは不意を突いて相手を崩すのを目的としたジョブだし、アーチャーは遠くから矢を放つのが役目。どちらも正面切って戦うには向いていない。高低差があったり、隠れる場所が多いフィールドなら活躍することが出来るのかもしれないが、現在DWOのPVPにそのような物は存在してない。
「そもそも、アサシンは耐久力が低くてすぐやられちゃうし、アーチャーの弓はめったに命中しないしな」
目院が補足するように言う。その言葉を聞いた水瀬さんの表情が曇った。
「……なんだか可哀そう」
「機能しにくいこの二つのロールを、どう活躍させるかが勝利へのカギというわけだ。……俺たちの弱小チームには厳しいけれどな」
自嘲気味に笑う目院。彼はさらに言葉を続ける。
「特にアーチャーは、敵に弓を当てるためにチーム全体で工夫しないと置物になりやすい。でも、俺たちにそれを仕上げる時間的余裕はない。……あ~あ、サポートなしでどんどん敵に弓を命中させることが出来るアーチャーが俺たちのチームに来ればいいんだが。でも、そんな都合のいい人がいるわけ……」
「いる」
目院の言葉を遮るように僕が答える。……まっすぐと彼を見つめながら。
「いるって、どういう事だ? まさか、弓道部から引き抜くつもりじゃ……」
「そう」
僕は目院の言葉にかぶせて答えた。彼の瞳を見据えたまま。
……類稀なる弓道の才能を持つ楓。彼女の力があれば、部活存続どころか大会優勝だって狙えるかもしれない。今は僕と彼女は気まずい関係。しかし、それを乗り越えて協力を頼むことが出来ればきっと……。
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