穴ぼこはそこらじゅう

そうざ

There were Holes Everywhere

 まぁまぁ、にぎやかなこと。今日は大勢で来たのねぇ。そう、みんな同じ学級のお友達なの。またあの話を聞きたいの? もう聞き飽きたんじゃないのぉ? そうか、今日は新しいお友達もいるのよね、それじゃお話ししようかな。

 おばあちゃんがまだみんなくらいの年頃、そう大昔ね。信じられないと思うけど、昔はどこもかしこも穴ぼこだらけだったのよ。まだ舗装道路が少なくってね、この辺も土がむき出しだったの。今はどこも舗装しちゃうからねぇ、この辺りじゃ、うちの庭くらいなもんね、土の地面は。

 どんな穴ぼこかっていうと、色々ね。ひざが隠れるくらいの浅いものから、底が見えないくらい深い穴まで。

 穴ぼこはある日突然現われるの。とてもよけられないわよ、だって音もなく一瞬で出来るんだから。人が落ちたらすぐにふさがっちゃうの。そこに穴ぼこがあったなんて嘘みたいに。近くを歩いてる人も気がつかないくらいよ。

 おばあちゃんもね、何回か落ちかけたことがあるの。ほら、むこうずねにまだ薄っすらと傷あとが残ってるでしょう。穴ぼこのふちにぶつけたの。浅かったから良かったけど、深かったら大変だったわ。一度落っこっちゃったらもうダメ、お陀仏よ。二度と戻ってこられないの。

 そうそう、おばあちゃんの同級生にも穴ぼこに落ちた子がいたのよ。あれは学校帰りだったわねぇ。二人でお手玉をしながら歩いてたんだけど、その子、ちょっとよそ見をしたすきにいなくなっちゃって、お手玉だけが地面に落ちてたの。何が起きたかすぐには分からなかったわ。

 だんだん怖くなって、急いで家に帰ったの。その途中に涙が出てきてね。なんだか知らないけど後から後から涙があふれて……ごめんね、思い出したらまた泣けて来ちゃった。

 穴ぼこに落ちたら……そうねぇ、どうなるのかしらねぇ。当時も色んな人が色んな説を唱えてたわよ。地球の裏側に通じてるとか、異次元につながってるとか、我々の世界全体が最初から穴ぼこに落っこちているのだっ、なぁんて難しいことを言う偉い学者さんもいたわねぇ。結局は分からずじまいだったけど。

 そもそもなんで穴ぼこができるのかも分からなかったの。穴の正体が分からないんじゃ、対処の仕方も何もないわ。だんだんと、落ちた人は運が悪いってことで済まされるようになっちゃったわねぇ。昔は子供の数が多かったから、一人や二人いなくなってもそこまで気にしなかったって言うか、いなくなってもいいように子供をたくさん作ってたって言うか。

 でも、そのうち道路が舗装されるようになってね。被害もじょじょに減っていったの。そうよ、舗装道路っていうのは穴ぼこ対策だったのよ。最近はそのことを知らない人が多くなったわねぇ。私達は、大勢の人達の犠牲の上に平和な時代を生きてるってことを忘れちゃいけないわよ。

 あらあら、つい調子に乗って長々としゃべっちゃったわね。お茶も出さずにごめんなさい、麦茶でいい? えぇと、全部で五人ね。えっ、六人? 五人でしょう? 一人、二人、三人、四人……あら、四人しかいないわ。そんなことないって言ったって確かに四……あら、三人だわ。おかしいわね。陽気のせいで目がおかしくなっちゃったのかしら。自分達で数えてみて。何人だった?

 ……あら、誰も答えてくれない。

 うちの庭もそろそろ舗装しちゃおうかしらねぇ、もうほとんどの人間が入れ代わったみたいだし。

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