第3話 王者 VS 勇者
二人は岩に隠れ、王の姿を拝む。
黒い鱗が体をおおい、背から翼がはえている。2本の角が頭に立ち、尻尾が長く、4本の足には鋭い爪。
「王者って、ドラゴンだったのか」
「知らなかったのか⁉」フレアはおどろく。
「え、常識なの?」
「そういう訳ではないが……。敵を認識していなかったのか?」
「まあ、闇なら問題ないからな」
「たしかに、そうだが……」
「大丈夫。俺に任せろ」
セロニカは立ち上がり、フレアの不安をさえぎった。
「……分かった。君に任せるが、危ない時はすぐに逃げてくれ」
「ああ、心配するな」
岩影をあとにし、セロニカは王者の元へ歩いた。
勇者の足音が、王者の耳に届く。ドラゴンはゆっくりと目を開け、体を起こす。
「大きいな」
立ち上がったドラゴンは、全長30メートルと巨大だった。
まさに王、圧倒的で偉大な姿。地面にいるセロニカを弱者のように見下す。
長いのどが震え、
「GAAAAAAAAAA‼」
王の叫びで空気が振動し、強風でセロニカの髪がなびく。
「やるか」
セロニカは剣を抜き、握る手に力を込めた。剣の刀身が白い光を放ち――刀身が光をまとう。
「GUUUUU」怯え、ドラゴンがあとずさる。
勇者の光り輝く剣。闇の存在は、それを見ただけで損傷を受け、弱体化する。しかし、ドラゴンは王者。すぐに戦いの姿勢を整え、口の中で炎を燃やす。
セロニカも白く光る剣をかまえ、お互い戦闘態勢で向かい合う。
王者 VS 勇者。先に動いたのはドラゴンだった。
「GA!」
口から炎の球を吐いた。
直径3メートルの火炎弾が、空気を焼きながら、勇者に向かっていく。
セロニカは剣を振り上げ、火炎弾を縦に斬った。左右に別れた火炎弾が、後方に飛んで行き、バン‼ と地面で爆発する。
「GAAAAA‼」
ドラゴンが連続して火炎弾を吐く。
バン‼ バン‼ バン‼ バン‼ バン‼ 鳴りひびく爆音。
身軽なジャンプで、セロニカはすべての攻撃をかわす。
「すごい威力だ」
爆風で飛んでくる小石を防ぎ、フレアは戦いを見守った。
「GAA!」
ドラゴンが体を回転させ、尻尾をスイングするが、弱体化しているせいで動きが遅い。
セロニカは剣先を下に向け、刀身から光を放射する――体が宙に浮き、光が地面に刺さり、高密度な刃となる。ドラゴンの尻尾が刃を通過し、切断され、灰となった。
勇者の剣には浄化作用があり、闇の存在が斬られると灰になってしまう。
「GUGAAAAA‼」
ドラゴンが怒りの咆哮を上げ、前足の爪を振り下ろす。
セロニカはそれを避け、光の放射で刀身を伸ばし、前足を切断した。
「AGAAAA‼」
痛みで王が泣き、暴れ狂い、大地を踏み後退する。
ゴン‼
ゴン‼
ゴン‼
ゴン‼
ゴン‼
ゴン‼
ゴン‼
山が揺れ動く。
突然、泣く王者の全身から黒い煙があふれ、周囲に広がり始めた。
(闇が強い)危険を察し、フレアは岩影を離れる。
広がった闇が辺りを飲み込み、場を暗くしていく――が、勇者の周りに闇が集まることはなかった。剣の光が邪悪を浄化し、持ち主を守るからだ。
「GAUUUUU」
全身を闇で包んだドラゴンが呻り、目を赤く輝かせ、口の中に紫の光を宿す。
紫の光から感じる、強大なエネルギー。
なにかくる! と直感し、
「終わりにするか」
セロニカは走った。目の前の暗闇が、道をゆずり晴れていく。
剣先を下に向け、光の放射で大きくジャンプする。王者よりも高く飛び、剣を振り上げた。
次の瞬間――
「GAAAAA‼」
王者の口から紫の光が放たれた。超高圧の魔力光線がまっすぐ伸び、空中のセロニカをおそう。
「くう!」魔力光線を剣で叩く。
光線が二手に分かれ、直撃を避けるが、すさまじい風圧と振動。手がふるえ、剣が吹き飛びそうだ。
「おおー!」
叫び、光線を斬りながら落下する。そして王者の首元に刃を入れ、光の放射を最大に剣を振り下ろす。
「GUGAAAAA‼」
王者の背から貫通した光があふれる。勇者が地面に着地すると、王の体は灰となって崩れた。
王が死んだ。かといって、闇がすぐに晴れる訳ではなく、黒い煙が周囲に残っている。
セロニカは辺りを見渡し「片づけるか」と剣先を天に向け、力を込めた。
刀身から一瞬、まぶしい光が放たれ、空中に伝わり、闇が浄化され空気が透明になる。
ふと、雲が裂け、太陽がアルプスの頂上を照らす。
「もう、大丈夫だな」セロニカは剣をしまい、空を見上げた。
********
山を降り、二人は整備された道に戻ってきた。左右に木々が並び、暴君の脅威が去ったからか、登る時にはなかった生物の気配を感じる。
「なあ、フレア。なんでドラゴンが王者なんだ?」
「最強のモンスターっていうのと、高い場所に住みつく習性が王座に見えるのが由来だよ」
鱗を作るために岩や金属を喰らい、雲を吸うことで水分を補給するドラゴンにとって、山頂は最高の住処だ。
ザザ! 葉の揺れる音が聞こえ、目を向けると、木の枝の上に生物がいた。
「これはすごい」フレアが足を止める。「カーバンクルじゃないか」
見た目は、黒い鼻のついた、まっ白なフェレット――だが、胴体に緑のツルが巻きついていて、ピンク色の花が数輪咲いている。
「めずらしいのか?」
「もちろん。絶滅危惧種だからね」
枝の上を走り、カーバンクルは森の中へ消えた。
再び歩く二人。
「村長が言っていた。この山にはオリジンが生息していると」
「なんだそれ?」
「同じ種だけで子孫を残している、純粋なモンスターだよ。多くの場合、魔物との交配で血が汚れてしまった」
「そうなのか」
ザザ! 道の端の草木が揺れ、3匹のモンスターが飛びだしてきた。
「スライムか」今度はセロニカも知っていた。
フレアがあごに手を当てる。「最弱のモンスターがおそってくるなんて……空腹なのだろうか」
透明なゼリーが、丸い形をした生物、スライム。スライムは弱き存在として有名だ。魔法に耐性がなく、ほんの少し魔力を当てただけで蒸発してしまう。
スライムの一匹が飛び跳ねジャンプし、セロニカをおそった。
「きたな」
剣を抜いて、刀身に白い光を宿す。そして空中にいるスライムを斬った、が……
「あれ?」
剣がゼリーに食い込んで、斬れなかった。
スライムの体が横に広がり、セロニカを包み込む。
「痛い、痛い! なんだ! このスライム」
顔以外の全身を締められ、地面を転がる勇者。
「なにをしているんだ? 君は」
「フレア、助けてくれ!」
セロニカは必死に叫んだ。
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