第84話 閑話 メリーさん
時系列的に転校生が転校してきてから数ヶ月後で、8月より前の時期です。大分あやふや。(新入生歓迎会と体育祭の間で起こった事)
何気に一匹狼君と爽やか君の名前が初登場する。by作者
□ □ □ □ □
プルルルル‥プルルルル‥
賑やかだった空間で、電子音がやけに響いて聞こえた。
◇
その日、転校生一行こと生徒会5名と一年3人組――
8人はその日も遊び尽くしていた。
7人は、転校生がやってくる以前はまだ真面目に授業を受けて学園側の評価もそこそこ高かった。
だが、転校生がやってきてからは今日のように遊び呆ける日々が増えていた。
当然授業に出ていないこともあり、どんどん評価が悪くなっていく一方だったことは彼らの頭で考えることは無かった。
普段の彼らからは考えられない事である。
そしてそんな彼らが居ないだけで問題が巻き起こっている事など知る由もなかったのだ。
生徒会室では一人でやるには多すぎる量の書類が増えて休みもほとんどない書記。風紀委員室では書類は勿論、実働隊と呼ばれる普段問題を起こした生徒に対応している委員が毎日駆けずり回る事になっていた。
…ただ一人この中でその事を知っている人物が居るが、肝心のその人物はそもそもこの時転校生から離れる気など一ミリも無かったが為に他の面々にも言わず、口にも出さなかった。言わずもがな副会長のことである。
そんなわけで今日は国真と一匹狼で有名な
そこでふと誰かの携帯から電話がかかってきた。
誰だと思い互いが互いの顔を見るが、誰も自分の携帯を見てはおらず、埒外が明かないとばかりに国真は自分の携帯を確認した。
それを皮切りに他の面々もそれぞれポケットやカバンから取り出し確認する。
プルルルル‥プルルルル‥
止まない音にそれぞれの感情を抱きながら音の鳴る方向へ目を向ける。
音の発信源は林道の携帯からだった。
「会長。誰からでしたか?」
「…氷鎧からだ」
林道がそう答えた瞬間。生徒会面々の顔が強張る。
生徒会に入っていない狛寺と風上は、そんな5人に構わず早く出たらどうだと顔で訴えた。
そんな彼らの中で異彩を放つ反応をしたのはイカレた人間性で有名な国真。彼は内容が気になるから此処で出て欲しいとお願いした。
そしてその言葉に疑う余地が無いかのように、林道はその場で電話に出た。モードをスピーカーにして。
普通ならばその場を離れて電話に出るのが通常だ。
数ヶ月前までの林道ならば此処で出る事など有り得ない。むしろそんな考えがあるのかと驚愕するぐらいだろう。彼は箱入り坊ちゃんだったので。
国真に魅了されていると言っても行き過ぎている。
常軌を逸していると言ってもいい。
ピッ
「なんだ」
自然と部屋の中で私語は行われず、林道の声だけが音になった。
『ザッ――わ、たし――
ザザッおれ、ユイ―め、―ぃ―ザッ
――今、2-Sクラスに――居る―の―』
ブツッ‥
シンとした空間で通話が切れた音がやけに大きな音で響いた。
感情の籠もっていないノイズ混じりの以前はよく聞いていた声に困惑の表情が隠せないでいる生徒会の5人に、内容の意図が分からずただただ無言を貫くしかない狛寺と風上。そして、胸中で「これメリーさんか…?」と、流石の唐突ホラー展開について行けない国真。
そして何秒そのまま経過しただろうか。
いい加減無言の状況を変えたく思った国真が口を開こうとしたその時。
再び数秒前に聞いたばかりの音が響いた。
プルルルル‥プルルルル‥
皆が林道が持ったままの携帯を見るが、林道は首を振って画面を全員が見えるように持って行く。
その画面は真っ暗だった。
プルルルル‥プルルルル‥
音は止まない。
ふと副会長の天辺が携帯を鞄から取り出した。
画面を見たその時。目を大袈裟なほどに見開いた天辺は音を奏で震える携帯を握りしめた。その画面には氷鎧の名前が載っている。
ピッ‥と通話ボタンを押した。
『ザザ―わたし。おれ―おれ―今ザザッ―下駄箱に居る――の――』
ブツッ‥
「……」
再び暗くなった携帯画面に沈黙する天辺。他の面々も同じようだった。
「も、もうさ、出なければいいんじゃない~?」
「そうだよ!出なければいいんだ!」
「でも…でもさ、もし…だけど。ずっと鳴り止まなかったら、どうしよう…」
ありえそうで笑えない内容を言う双昏弟、左騎子に思わず怒る兄の右騎子。
「もう!なんでそんな事言うのさ!そんなこといったら絶対来ちゃうって!!」
そして案の定――ピロン♪
メールだった。次は双昏右騎子の携帯から。
そろっとなんだかんだ言ってやはり気になった右騎子は携帯を取り出した。手が震えたのは仕方のない事だろう。例え見知った人が相手だとしても。
メール
氷鎧結:俺。今。第一寮棟前。居る。
単語で連絡が来るとは思わなかった。
思わず右騎子は「何でだよ!」と突っ込んだ。
しかし明らかに近づいている事に、【メリーさん】を知らない面々も気づいた。
とんでもない圧が近付いてきているかのようである。
そもそも何故一年の寮棟に居ることを知っている?
プルルルル‥プルルルル‥
また、電子音が鳴った。
相手が誰かを知っているが故に、本当に彼がやっていることなのか。それが結を知る彼らには疑問だった。
彼がやったというよりも、別の誰かが成り代わっていると考えた方が違和感が無い。(ちゃんと結がやっている)
今度は弟の左騎子の携帯からだった。
ポケットから震動する携帯を取り出した左騎子は、出るのが怖かったのか携帯をテーブルに置き放置した。
シン‥とした空気に戻る。
左騎子が「止まった…?」と口にした。
プルルルル‥プルルルル‥
再び鳴った携帯。
だが左騎子の携帯の画面は暗いまま。
音の発信源は会計貴鳥の鞄からであった。
貴鳥は躊躇いながらも携帯を開いた。
ピッ
『わ たし メリーさん
今
二階 の 階段
に 居る の』
途切れ途切れだが、先ほどよりもハッキリと聞こえる声。
第一寮棟ときて二階となると、確実に今彼らのいる場所が知られているということになる。
部屋に居る8人は流石にここまでくるとタチの悪い事をされているのではと考え始めた。
プルルルル‥プルルルル‥
また鳴った。
けれどその音は先ほども鳴っていた林道の携帯からであった。
生徒会一周したからか…?
誰かが考えた。
手早く林道は通話ボタンを押して、何故こんな真似をするのか聞き出そうと口火を開いた。
ピッ
「っおい。お前…『わたし、メリーさん』
ぺた‥
窓に手陰が映る。
窓に背を向けていた林道以外はそれを見た。
窓に映る人影を――
『今、あなたの後ろに居るの』
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