第83話 お祭りの後

 逃がさないとばかりに強く握られたかと思えばパッとやけに呆気なく手を放す国真。

 どうしたとばかりに国真に目を向けると、スルッと懐に潜り込むように近寄られ、濡めっとした感覚が首を伝ったのが嫌でも伝わってきた。口…いや、舌…考えない方がいいか。


 突然の奇行に現実逃避する内に目の前に居た国真の姿は既に無くなり、先ほどの事は夢か幻だったのかと疑う。…まぁそれも周りの悲鳴で現実だと突きつけられたのだが。


 無意識にジャージの長袖の袖部分を引っ張り首元を拭う。


 国真の足を蹴りまくってしまった仕返しだろうか。

 だとしたら易しいものだ。キスなんかで許すとは。


 二重人格なのだろうか…?

 隠れて生徒会面々が話していた時の言動を振り返るが、別人かと思うほど違う印象だ。どちらもはっきりした印象のため、余計に違いが目立つ。騒と静といった感じで、どちらにしろクセが強い事に変わりはないか。


 そう締めくくる事で思考を一旦区切り、目の前で問題を起こしそうになっている己の親衛隊達を止めにかかる。


 え? 消毒液…?

 あ、ありがとう…。


 何故か突然渡された。

 とりあえず手を拭った。

 「違う」と食い気味に怒られた。


 ごめん…。

 というか今日謝ってばかりだな。

 なんで謝ったんだっけオレ…。


 

 そうしてごちゃごちゃしながらも音楽は止まず、問題が起きても気にしない生徒達はざわめき立っている生徒達に構わずに踊り続けていた。


 周りが見えていないともいう。


 そんな感じで祭りは終わった。(雑)


 深夜9時になり火は消える。

 祭りは8時ぐらいには終わった。


 オレは事前に決まっていた仕事である消火器として火を消した。


 といっても炎は元から消えていた。

 それでも雪をかけたのは早めに冷ますことが主な目的だ。これで誰かが下手に火傷するということも無いはずだ。


 明日も学校はあるため、片付けは今日のうちに終えるのだ。

 なので急ピッチで委員の生徒達は片付けをして回り大忙し。屋台の方も教師たちが居るとはいえ、人数が圧倒的に足りないためそちらにも行かなければならない。


 オレは今回生徒会としてはあまり関わっていないので、手伝わなくてもいいのだが。ああして忙しそうな様子を見ると無性に何かしたくなってくる。若くして職業病か…。


 近いうちに夏休みに入る。

 だが授業は夏休みが始まる前日までちゃんとあるので恐らく明日も校庭は使われる。


 まぁその辺の片付けは各々に特殊能力があるだけにスムーズにとはいかずとも、素早く終わりそうだ。


 あれから姿が見えなかった生徒会面々も手伝いだし、周りは驚き、ヤバいものを見たかのような反応をしながらも片付けを進め、無事今日中に終わった。その反応も分からなくはない。

 それを見たらしい大国先輩が爆笑していた。相変わらず豪快な笑い方する人だな…。


 辺りには片付けに携わった面々が携帯のライトを点けて闇の中で光を放っている。


 雲がかかっているのか残念ながら星は見えず。辺りは真っ暗だった。この明かりが無ければ互いの顔すら識別出来なくなるだろう。


 片付けに携わった人たちで最後にお疲れ様を言い合い今日一日のお祭りは終わった。


 濃い一日だった。その一言に尽きる。

 我ながら今日はとても頑張ったと自分で自分を褒めてもいいと思う。


 というわけで人波に流されるように早足で寮へと帰る。


 疲れた体と心を休めなければ、明日地獄を見ることになる。なのでそうならないためにも今日は存分に休むのだ。


 オレの暮らす部屋は一人部屋だ。

 他の一般生徒は二人一部屋だが、オレは生徒会に就いているため一人部屋。勉強だけでなく仕事をしているというのもあるし、生徒会という役職に就いているからというのもある。


 生徒会に就くという事はこの学園ではそれだけ生徒達の注目度が高いということ。

 目立てば当然問題ごとも増えてくる。

 だからいらぬ問題を起こさないためという理由もあり生徒会や元生徒会。風紀の長二人と元長二人へ特別に一人部屋が与えられる。


 そして別枠で寮長をしている生徒だ。

 こちらは生徒というよりも、教師達の信頼が厚い生徒が選ばれるのでマトモな人間がなることが常だ。


 言外に生徒たちが選んだ生徒がマトモじゃないと言っているようだが、必ずしもそうという訳ではない。


 オレはマトモだ…とまで言いきるつもりは無いが、会長達を思えばオレもマシな方だろうとは思う。もしオレより会長達の方がマシだと言われたらオレはあまりのショックで寝込むが。


 自動扉を抜けて階段を登る。

 今の時間が時間のため、廊下の備え付けライトは薄暗い。


 カーペット状の床を歩き自身の部屋へと向かう。


 無駄にここの寮部屋はセキュリティーが万全なので侵入者が入る確率はゼロに近い。今日も安心して寝れるのでとても感謝している。ありがとう。


 寮棟は学年ごとに用意されているので、太っ腹なことに4棟建っており。一つは職員用だ。


 鍵はシンプルな鍵穴に差し込んで開けるものだ。


 普通寮部屋に鍵などついていないと思うのだが、ついているだけでも金がかかっていることが伺える。


 そもそもこの学園を視認する事が出来る者が限られているので部屋に侵入する者となると自然とこの学園の住人となる。

 頭が痛いことに生徒達の中でたまに侵入者となる愚か者がいるのである。誠に止めていただきたい。


 まぁ仮に侵入されてもオレの部屋はあまり物を置いていないので盗るとしても価値のあるものは無いと思う。精々服とかじゃないだろうか。家具は備え付けのものをそのまま使っているだけだし。


 親衛隊たちや友人に貰った誕生日プレゼントは消耗品をお願いしているので既に使い終わった物がほとんどだ。


 今日ご臨終してしまったハンカチも貰ったものだ。

 血って洗って落ちるのだろうか…。


 一人部屋はシン‥としていて物静かだ。

 本来二人部屋の所を1人で使っているので広々している。ベッドは一つだがソファーは一人用にしては大きい。


 静かなのは望むところなので気にしていないが、一人部屋にしては広すぎる此処は掃除が大変だ。

 オレは一部屋あれば十分だな…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る