第82話 ダンス
~?side~
愉快犯に種類もクソもないのだが、国真は人を困らせ翻弄させ、場をかき乱す事を楽しむタイプであった。
ぶっちゃけ他にタイプがあるかなど知らない。
そのためこの学園に入ったのもそれが目的とも言えた。
まぁ正しくは身内の誰かさんが国真を送り込んだのだがそれを知る人物はごく少数である。
国真自身、知らない大勢の一派ではあるが、当事者ではあるため、全てとは言わずとも、己の立ち位置を理解していた。
そんなわけで今日も今日とて日夜関係なく場を乱そうと波乱の因子が無いか見渡すと、イイモノを見つけた。
結である。
彼は落とそうとした者たちの中でも落ちなかった少数の中の一人だった。
実は彼とは互いが幼少の頃に会っていたのだが、相手は覚えていない…まぁ自身の格好が格好のため見えていないという線もあるのだが、今のところ気づく兆しはなかった。
そんなわけで目を付けた相手の前へと向かった。
どうすれば
そしてどうしたら学園に更なる混乱を起こせるかを考えた。
そして早速考えついたのは簡単だが、僅かな疑惑を生むことができる事だった。
それは結と共に踊ること。
そうすれば他の生徒会面々だけでなく、最後の砦と呼ばれている結まで落ちたのではと少なからず噂するだろう。このようなキャンプファイヤーでは恋人関連のジンクスは多そうなので成功するだろう。
そう思った国真だったが…そう簡単に門屋は下ろさなかった。
「痛っ!」
「ご、ごめん」
「ちょっっ!」
「…ごめん…」
グキッ
「イッテェ!!」
「ホントにごめん…」
国真の手を触れる程度に握る結は、先ほどからステップを踏む度に国真の足を踏んだり蹴ったりとしていた。それはもうやけに攻撃力の高いものを。
国真はこれまでの八つ当たりかと思って結を観察するが、本当に申し訳なさそうな感じであったために「あ、コレガチなんだ…」といつもの余裕綽々な国真の心も流石に真顔になった。
なんだよそれ…とイラッときた国真だが、結の目が少し潤んでいるように見えたので少しスッキリした。イラつく事に変わりは無かったが。
結は壊滅的にペアダンスに向いていなかった。
次のステップに進もうとする度に無駄に鋭いつま先の突きや横凪で国真の足が殴打され、結の涙目で上がったテンションも下がり、国真は苦悶の声を上げるしか無かった。
結は決して身体能力は悪くないはずだ、と事前の情報を思い出しながら思う。…体力は壊滅的らしいが。
にもかかわらずコレはなんだ。
これでは学園の噂が想定していたものとは違うものになってしまうではないか。
翌日の新聞の見出しでは『生徒会書記!体力面に加えて更なる弱点か…!?』などというどうでもいい話題になるに決まってる。
無駄に身体能力のいい部分を攻撃に使うなと言いたい。
思わず無駄に長い相手の脚を恨めしく思い、分厚い眼鏡の奥で睨み付けた。この攻撃は身長差が原因でもあるのかと疑った。
国真はこのままでは演技が解けてしまうと思い至りペースを変えることにした。
曲が変わると同時にガシリと結の手を掴む。
ダンスをリードする男役のように片手を引きもう片方の手を相手の腰に添えた。
そして手を引く。
――否、引こうとして。
”ガッッ”
「イッタッッ!!」
案の定結は狙い澄ましたかのように国真の足を引っかけてしまった。
そして足を引っ掛けられた国真は躓くように転びそうになった。
それを見た結は反射的に繋いだ手を上に引き上げるようにして上に伸ばし勢いのまま国真をワルツの様に回転させる。
見事に綺麗な回転を決めた国真と結は一旦その場で止まった。
「「……」」
結は手を緩めて離そうとする。だがそれを拒むように国真はガッチリと握った。
割と踊り始めた頃からなんとも言えない顔をしていた結は更に眉を下げて困り顔をする。
「ごめん…」
ここまで転けるという事こそ無かったものの、転びかけたり足を強打するなどという事がこう頻繁にあるとロクに踊れない。
国真心の中で結の言葉に「全くだ」と悪態をつきながらも口には出さず「もう満足したからいい!!」とクソデカボイスで言ってギュッと潰すぐらい強く握っていた手を放す。
自分の手をこっそりと見た結はやっぱ怒ってるんだろうな…と心中で思った。
しかし自分が嵌めようとしていたのにも関わらず、こうもうまくいかないとむしゃくしゃするため、最後に置き土産変わりに爆弾を置いていった。
国真は”チュッ”と効果音がかかりそうな動作をしてニヤリと眼鏡の奥で笑いお供二人の元へと駆けて行った。
その一瞬時間が止まったかのように辺りはシン‥となり、数秒後にはその場に残された結の周りや第三線の辺りの遠くで絶叫が轟いた。
こんな事でこの学園はざわつくんだから面白いったらありゃしない。駆けながら嘲笑う国真はさながら悪魔のようだ。
周りにはバレない程度に顔を歪めているだけで口が弧を描くようなへまはしていない。
そしてそんな事を知らない者達はというと…。
未だに発狂していた。
肝心の本人は何てことないようにキスされた部分を拭ってその場を去ろうとしていた。
因みに拭った位置は首である。
どうやら身長的にそこが限界だったらしい。
本人と周りの温度差が酷すぎて風邪を引きそうである。
結は表情を変えずにキスされた箇所をジャージで拭い、キスされた理由は敢えて考えないようにした。知らぬが仏である。
そんな本人を見てか知らずか、結の親衛隊達が恋人との会話やダンスをほっぽり出して…というか恋人両者が結の親衛隊の者がほとんどであるためあまり揉めることなく結の周りに集った。
ただでさえ転校生と結が踊るというだけでもハラハラしていたというのに、最後にあんな置き土産をされてしまえば、それはもうどうぞ怒って下さいと言われたようなものだ。
どこから取り出したのだろう。
一部の結の親衛隊達はその喧嘩買ったとばかりに武器を取り出した。
それを風紀が慌てて止める。ただでさえ変態たちを止めて一汗どころが五汗ぐらいはかいたというのに
こうしてキャンプファイヤーは騒々しくぐだぐだで終わった。
どこぞの
後日。
転校生国真は足の痛みが残っていた。
妖怪の末裔だというのにいつにもまして傷の治りは遅く、そんなにダメージが深かったのかと訝しんだが、昨日の時点で表面上の傷は見あたらなかった。なのに痛みは変わらず、むしろ昨日よりも痛みを訴えているとさえ感じた。
そして早朝足を見てみると、何者かに足を強く掴まれたかのように肌の色が変色していた。
これには国真も思わず小さく悲鳴を零した。
例え結が足を蹴っていたとしても昨日の時点ですでに打撲傷は治っていたように思う。
念のため保健室で診てもらうと、保険医から「お前、なにやらかしたんだ…?」と、異常な者を見る目で見られた。
国真には心当たりしか無かったものの、”王道転校生(アンチ気味)”らしく知らない顔をした。
保険医曰わく。
見るからに呪いだが、神の祟りらしい。
神からしたらちょっとした悪戯みたいな物だという。
「ホントに何したんだコイツ…」という目で終始見られながらも、保険医として足に異常は無いか診られ、手形がある以外時に問題は無いらしい。
数日痛みは続くかもしれないが、人体に影響は無いらしい。
「ならいっか」と、この痛みに終わりが来るならいいというやけに思い切りのいい考えで保健室を後にした。
キャンプファイヤーが終わった翌日の事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます