第81話 一年生三人組

 キャンプファイヤーも終盤にさしかかる頃。


 教師たちの開く祭りは既に閉まり。祭りに行っていた生徒たちは皆校庭に集まっていた。

 だが、体育祭の時よりも人口密度は低い。何故なら寮に既に帰っている者も居るからだ。体育祭は全員参加だが、祭り事態は自由参加なので当然帰る者も中に居るのだ。


 恐らくオレも中学生の頃であったなら既に帰っていただろうと思うので気持ちはわかるっちゃわかる。まぁ人に寄って事情は異なるだろうが。


 校庭にはクラシックな音楽が流れたかと思えば有名なアニメソングが流れ、次はロック、そして次は卒業ソング、ラブソング。などなどと。有名なところしか共通していない音楽が脈絡もなく淡々と流れている。


 特にノリのいい生徒たちはキャンプファイヤーの一番近くで円を描いて輪を作り曲が代わる代わるで歌を熱唱しているのが遠目でも見える。この生徒達は間違っても火の中に飛び込んで行く訳ではないので心配は無いだろう。ここを仮に第一線と呼ぶ。


 そして第一線の周り…第二線では二人組を作って踊っている生徒達が多かった。今更同性同士で…だとかは思わない。カップルは幸せな風に見えるのが一番平和だろう。そこに男女の差などない。


 そして第二線の更に外側。第三線では先ほどの自分のようにのんびりとしている生徒達が多い。


 食事をとったり写真を撮ったり土下座をしたり縛られていたり…後半二つは些か可笑しい気もするが、大抵気づけばその問題の場所には風紀委員が居るので大きな問題にはならないだろう。


 そしてそんな生徒達を遠目で眺めているオレはというと、現在第三線より更に後ろの校舎の壁側に寄りかかり転校生の国真達に絡まれている所であった。


 そう、”達”である。

 彼ら転校生一行は生徒会役員を除いた3人になっていた。


 ちゃんと言葉の通り目が覚めたのか。少し疑っていたので目が覚めたというのも本当なのかもしれない。


 しかし今問題なのは目の前に立っている3人だ。

 周囲に居た生徒達は事なかれ主義の生徒が多かったのか、ほとんどが面倒事の空気を感じ取ってはけていった。残ったのは所詮野次馬。面倒事大好きな者たちだ。


 ああ…面倒事の予感しかしない。

 そんな思いを抱えながら目の前に立つ3人を見下ろした。


 今になって成長期が来たのかオレの身長は今では180cm近い。生徒会の仕事に加えて成長痛というのは流石に辛かった。


 そんな事を頭の隅で考えながら3人の特徴を思い出す。


 まず一人目。左端から一番目の目つきが鋭くガンをつけているとしか思えない一年生。ジャージの姿なので体育祭の頃から着替えていないのだろう。まぁそういう自分も今はジャージだが。


 名前を思い出そうとしたがすぐには思い出せなかった。

 確か【送り狼】という妖怪の末裔だというのは聞いている。なんかストーカー予備軍らしく、気にかけてやってくれと風紀委員長が言っていた。その言葉が印象的で名前よりも妖怪の名前の方を覚えていた。


 そして右端に居た生徒はいかにも爽やかです、という顔の男子生徒。人付き合いが上手そうな印象を受ける生徒だった。


 此方は実は先ほどの体育祭でも対戦相手として出てきている。

 確か玉入れの時に出てきていた鎌鼬。彼は【鎌鼬かまいたち】という妖怪の末裔だ。こちらも名前までは知らないがなんの妖怪の末裔かは知っていた。


 そして最後に二人の真ん中で仁王立ちして腕を組んで如何にも怒っていますという様子の国真。


 此方は二人とは真逆で名前は知っているが、なんの妖怪の末裔かは知らなかった。生徒会面々の事もあり、魅了系なのではと疑っている。顔を隠している風なのも整った顔を隠すためだと思えば納得がいく。実際整っているらしいのは体育祭の騒動で聞き及んだ。


 そんな三人はオレに何のようなのかと思うと、あちらから勝手に話し出す。


 おれが呼んだのに無視しただろ!…らしい。


 初め彼が何を言っているのか理解できなかったが。

 呼ぶ、という部分で思い出した。


 祭りの時に人混みの中で名前を呼ばれた覚えがあった。

 てっきり赤史が呼んだとばかり思っていたが。赤史はオレの事を見かけても声を掛けたのは階段を上がってからみたいだったので、確かにつじつまは合う。


 下の名前で呼ばれたのでオレもてっきり身近な人物だと思いこんでいた。


 あの人混みの中でも聞こえる声量を出せる人物だとしたらぶっちぎりで国真だなと変なところで納得した。


 素直にそこは無視してしまった形になるかもと思い謝った。


 すると彼は「ん!」と無言で手を差し出して何かを要求した。


 それに首を傾げるオレ。


「一緒に踊ってくれたら許す!!」


 …らしい。


 それだけでいいのかと思い手を取った。若干彼の両脇からの視線は鋭かったが、これで清算が取れるならいいかと甘んじて受け入れた。


 人を無視した代償は大きい。


 そんな訳でかなり身長差のある相手を引かれる手を視界に入れながら歩く。


 歩きながら思うのはそう――自分が踊れたかという肝心な部分であった。


 冷や汗が背を伝った気がした。

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