第78話 キャンプファイヤー

 赤史と食べ歩き周り、フルーツ飴の屋台を開いていた店主に「もうこれ以上は無理だ」と言われ、最後の一本。林檎飴を貰って満足した。


 共にいた赤史は終始口の端がひきつっていたことには気づいていたが、見ない振りをした。だってオレが原因だというのは一目瞭然だし? 分かり切ったことは聞かない。


 別に屋台で出す全ての商品を食い尽くした訳じゃない。ただ一人が食べるには多すぎる量だったためにストップがかかったのだ。


 当然の結果である。

 コレにはオレも納得しているので特段不満はない。


 時間も時間なので、そろそろ校庭の方へと向かおうか。

 キャンプファイヤーの火をつけるのに消火器の役割としてオレは行くのだ。


 最後にあちらに行っても暇になるかもしれないので焼きそばを最後に買って行く。赤史はオレとは違って色々な食べ物に手を出していたので既に食べ終わった後だ。


 オレはというとずっとフルーツ飴を食べていた。

 一生分食べたと思う。


 そういえばあのひょっとこ面の事や射的で当たった黒い和紙の事を話すと「ゆ、幽霊…?」と震えた声で「結は幽霊平気なんやな…」と落ち込んだような暗い雰囲気を出された。


 妖怪の末裔が何を言っている…?

 と思うが、まぁ仕方ないところもある。


 幽霊も人間も妖怪も種族的には全然違うのだし。

 そもそも幽霊は人間からなるイメージなのだし、それが恐怖を煽るのだろう。此処には人間にトラウマを持つ者も少なくない。


 オレにはある意味でも物理的にも強い姉たちが居たので特にそういうことはなかった。むしろ熱狂的な信者や関わらないでおこうというあからさまな態度で避ける者などが多く、半分傍観していたところもあって、生半可な衝撃では動じなくなった。


 あの姉に対する熱狂的な信者は何だったのかと今でも思う。(←人のこと言えない)今でも新たな信者があちらでできているという風のウワサを聞き及んだ。


 姉は世で言う女誑しだと思う。幼い頃、葬も誑かされていたからな、今もそういう意味で好きなのかもしれないが。そこまでは流石に知らないし、首を突っ込むつもりもない。


 そういうわけで焼きそばを御守り、運:二時間持続という効果で交換した。もしかしたらここ二時間の売上が上がるかもしれないな。


 割り箸を付けてもらい受け取る。


「そういえば…赤史はキャンプファイヤー行くの?」


 石畳の道を下って歩きながら聞く。


「そんなん行くに決まっとるやろ! カップルの聖夜祭やぞ!」


 ふんすっ‥と興奮気味の赤史を横目で見つ、腐男子の血が騒いでるんだな…と理解した。


 キャンプファイヤーではダンスだったりまったり火を眺めたりとかなり自由だ。中には去年歌を歌って盛り上げていた者も居た。本当、ノリのいい奴らだよ。


 もっぱらオレのような暑さに弱いものたちはさっさと寮に戻るか遠くから傍観するのが多いのだが。オレは役職に就いているが故に消火器として駆り出されている。


 暑いの嫌だな…ただでさえじっとりとした気温と湿度なのに更に暑さに近づくとか…。


 しかも炎系の妖怪の末裔がテンション上がって飛び込んで行く事があるからそれを止めるのも一苦労だ。


 え、何に飛び込むのかって?

 燃え盛るファイヤーの中にだよ…。


 飛び込みたくなる気持ちは分からなくもないがな…オレも冬になれば雪に埋もれに行くし。こっそりとだけど。

 いやでも普通の概念としては雪に飛び込むのと炎に飛び込むのとでは全く危険度が違うよね?

 炎系の妖怪ってヤバいね…。


 ということでキャンプファイヤー予定地、校庭へとやってきたオレたち二人。


 校庭には安全性を考えて風紀委員と美化委員。今回キャンプファイヤーで活躍する力を持つものたちが寄り集まった。

 中には風紀副委員長の姿もある。あまり登場しないせいでお忘れの方もいるかもしれないが、彼はオレより一つ下の学年で、あの副会長と仲の悪すぎる事で有名な生徒である。


 オレが仕事をするその間、赤史とは別行動だ。

 いつの間に持っていたのか、立派なカメラを構えてすたこらさっさと駆けて何処かへと消えて行ったのが最後に見た姿だった。


 教師は当然の如く居ない。今は殆どの先生が祭りの店主しているから当然と言えば当然なのだが。普通では考えられない事だろう。大人が居ないというのは。


 

 そうしてキャンプファイヤーは特に合図があるわけでもなく始まった。


 マッチ一本の火を投げ入れてからは炎は着々と大きくなっていき、無事轟々と燃えるキャンプファイヤーを遠くから眺める。


 炎から離れた位置に氷の一人掛け椅子を作って静かに焼きそばを食べる。地べたでもいいかと思ったが、今の姿を思い出してやめた。流石に着物を汚すのは忍びない。

 洋服を汚すのもイヤだが、着物を汚す方がよっぽど嫌だと感じる不思議。


 音を立てずに焼きそばを黙々と食す。

 炎も遠くから見る分にはキレイなものだ。

 近づけば火傷ものだろうけど。



 そうして夜は更けて行く。

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