第75話 苺飴

 からん‥ころん‥下駄が石畳を踏む音が歩く度に鳴る。


 祭りが始まってから早数分。

 辺りには街の夏のお祭りのように人が道にひしめき合い、完全にお祭り状態だ。

 意外にも浴衣の生徒が多く、どこでその服を手に入れたのかと聞きたくなるような派手な浴衣を着た生徒も居た。


 まぁ実家がお金持ちの生徒も少なくないので不思議ではないか。


 パキ‥パキ‥と手に持った串に刺さる苺飴をかじり口に含む。

 飴部分がとても甘かった。


 苺飴は残り三つ。

 それもすぐに食べ終わる。

 片手で御守りを作りつつ苺飴を平らげた。

 この御守りはあの時赤史と和主保険医にあげた御守りの劣化版で、前に言った代金代わりのものだ。


 質が良すぎるとオレも疲れるし。

 価値も上がって苺飴を貰うとすると何10本と交換になってしまうのでこのぐらいがちょうどいい。

 ちなみに効果は数時間の運気が上がるというもの。


 多分良いことが店主に起こるだろう。…多分な。


 どういう原理か店主たちは観察眼が鋭く適正価格を言ってくるので手抜きをし過ぎるのも力を入れすぎるのもダメだ。

 手抜きをし過ぎると店側が侮られ、安く見られたと思われ不機嫌になる。要するに好感度が下がる。(いや店主の好感度を上げてどうするという話になるけども、彼らは教師だし上げておくに越したことは無い…?)

 逆に力を入れすぎるとカモだと思われたり、良くてもそれと同価値のもの(量)を返される。


 相手が先生とあって少し勉強をしているような微妙な気分になる。

 仮面をしているのもあるが、誰が誰なのかは伺えない。

 今は祭りで楽しむ時間。誰が誰なのかを探るのは野暮だろう。


 時たま店主の中に妖怪が混じっているらしいし…。知ってしまえばどうなることか分からない。


 因みにこの御守りの制作方法は秘密だ。

 オレの作ったお守りなのでいつか溶けるように消え去るが、効果がなくなるとともに消えるのでゴミが出てしまうよりかはいいだろう。



 オレは次なる店へと足を運んだ。

 道すがらイチャつくペアが多く目に付いたがそれも今なら気にならない。…嘘だ。気になる。


 路上でキスしないでくれ…。羞恥心が無いのか?

 でも林道だとでも思えばなんてことはなくなった。凄いね会長。あの人転校生が来る前から貞操概念が大分おかしな方向だったから、あの食堂事件からはマシになっている気がするのだ。


 その点は転校生に感謝しよう。

 …いや、なんでオレが礼を言わなきゃいけないんだ?


 同級生の貞操概念なんて知りたくも無かったけども。

 まぁそれも忘れれば良いことだ。

 問題はない。



 平らげた苺飴の串を近くのゴミ箱に捨ててフランクフルトを1つの御守りと交換して買う。

 何気にフランクフルトは初めて食べる。苺飴もだけど。


 去年は仕組みもよくわからずにうろうろしていただけだったので今年が初めて来たのと同じことだ。


 何かいい店は無いかと一人食べ歩きながら吟味する。

 一人だと始めはそわそわしたが時期に落ち着き楽しくなってきた。


 フランクフルトをものの数分で食べ終わり、人生初の射的を体験することにした。着物の袖を台に乗せて引き金に手をかける。


 辺りにいた生徒はゴクリと息を呑んだ。


 ……。

 いや何してるんだ君たち親衛隊


「デートじゃなかった?」

「はいっ。ですが親衛対象のアナタが輝いているように見えたので引き寄せられました」

「(オレは誘蛾灯だった…?)」


 いやそう言うと彼らが蛾になるから言わないで正解だったな。

 さり気なく非道い奴になるところだった。


 オレの親衛隊達には彼氏持ち…止めとこうこの言い方。

 オレも大概この学園に毒されてきているな。誰のせいだろう。

 言い直すと恋人持ちが他の親衛隊に比べて多いのだ。


 多分オレに対して恋愛感情を持つものが居ないんじゃないか?(←そんなことはない)オレの何かが誰かしらの癖に引っかかっただけで恋愛感情を持つまでには至らない…そんな感じか。


 赤史が言うには彼らのような人種をドM、マゾヒズムというらしい。

 里に居た頃は一度も聞いたことの無かった言葉で、外の世界にはまだまだ知らないことが多いのだと少し不安に思った。里ではもう学び尽くしたんじゃないかってほどに机に向かっていたが、知識は無限大だと思い知った。


 パンッと乾いた音と同時に何か軽い物が倒れる音が聞こえた。

 そちらを見ると一等賞と書かれた箱が倒れているのが目に映る。

 どうやら自分がよそ見をしている間にうっかり引き金を引いてしまったらしい。


 リーンリーン‥とこの店の店主が「一等賞当たり!」と声を張り上げて言った。福引きか?


 そうして渡されたのは黒い和風なデザインの和紙だった。

 これは…カードか?


 なんだこれ。

 そう思って店主に目を向けるも、店主は次なる客へと目を移していた。仕事を遮るのもアレかと思い、素早く引き下がった。


 着物なのでポケットは無い。ので懐にカードを差し入れ仕舞った。

 親衛隊達もそれを見届けるなりデートに戻っていった。

 なんか遠慮が無くなったというか…まぁいいんだけどね。


 オレはまた次なる店へと歩いた。

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