第73話 写真
夏祭りが始まるまでに後一時間程はある。
その間にオレは着替えを済ましに行くことにした。
全校生徒がそれぞれぞろぞろと動くさ中。睨み合うグループがあった。会長の親衛隊隊長を筆頭としたグループと転校生を筆頭としたグループである。
そういえば転校生とは昼頃に会ったが、何故だかもう遠い日の記憶のようだ。多分濃すぎる体育祭種目に疲労したのだろう。
つかれたな…。
そんな二グループを見物――する事はなく。
オレは気配を消して側を通り抜けた。
今真正面から行けば確実に転校生君に絡まれる未来が見えるぐらいにはオレも危機感は持った。
そうしてそそくさと彼らの横を通り抜け(何で昇降口の前で睨み合う?)、邪魔な彼らを颯爽とスルーしたオレは更衣室へと向かった。
ドアの前には風紀の腕章を着けた生徒が二人立ち。腕を後ろに組み、さながら軍隊のようである。
『とあるランキング』に入っている者と一般生徒とは別の更衣室らしく、厳重な警備(風紀委員の監視)が施された中で着替えることになった。
更衣室の中に入れば見覚えのある生徒もおり、手を振った。
中には着ぐるみの彼もおり、ランキングに入っている人物だったのかと衝撃を受けた。
”ドンッ”と、着替えようとしたところで右腕から衝撃がきた。
「だーれだ!」
ふわふわ(?)とした肌触りが頬にふれる。若干くぐもった明るい声が着ぐるみの中から聞こえてきた。
その声はここ一年でよく聞くようになった声だった。
「……赤史?」
「正解!」
そう言ってがぽっと熊の顔部分を外した赤史は汗をかきながらも笑っていた。
なんだかラーメン屋の店主みたいに手拭いを頭に巻いている。
「顔まで真っ赤だけど…」
「クソ暑い!」
なんだか一周回ってハイになっているようである。ただでさえ赤い髪に瞳に加え、顔も赤くなったことで赤鬼のようだ。
冗談だけど。
「…」スッ
「おぉ無言で氷渡してきた。あんがとさん…って血…!?」
見ているだけでも暑いので、持っていたハンカチに氷を包んで渡そうとしたところ。林道が吹っ飛んできた時の血を拭ったハンカチをうっかり出してしまった。
やっちゃった。
「えっ…だ、で…だ、いじょじょぶ…?」
「うん。もう治ったから。だから落ち着いて」
ボトリ‥と着ぐるみの頭部を落とし動揺で噛みまくる赤史にやっちまったなぁ…と思った。気をつけなきゃね。なんだか此方が申し訳なくなるぐらいに動揺して、赤い顔が血の気が引いて青くなりつつあった。ホントごめん。
後これオレの血だから。他の人殺った訳じゃないから。
しばらくして落ち着いた赤史にほっと息を吐き出し自身の名前の書かれたロッカーを開く。中には服が丁寧に畳まれ置かれている。ご丁寧に枷の鍵が一番上に乗せてあった。
そして早速手枷を外そうとしたとき。赤史にストップをかけられた。
「思いでづくりに写真撮らんか?」
「写真?」
どうやら思い出として撮っておきたいらしく、衣装を着たまま写真を撮ろうというらしい。オレは周りを見渡し。邪魔にならない範囲でならと軽く了承した。
赤史が片手で携帯を持ち自撮りする。そこにひょっこり写り込むオレ。着ぐるみの手で持っているためか滅茶苦茶プルプルしているのがツボりオレも影でぷるぷると震えた。おもしろ。
オレが笑っていることには誰にも気づかれなかった。まぁ表情には出ない方だしそうだよね。
そして赤史はそのままの勢いで更衣室に居る生徒達全員を巻き込んで写真撮影を始めた。もうアイツのコミュニケーション能力が天元突破しているとしか思えない。
割とみんなノリノリで写真撮影していた。
オレにもそのコミュニケーション能力分けてほしい。
一足先に写真撮影を終えたオレは今度こそ枷を外す。
鍵が無くなるなどというハプニングが起きなくて良かった。そんなことになったら風紀に知らせて報告書作って、話を通して、鍵を探して…と色々しなければいけなくなるので仕事が増えるところであった。
もうこれ以上仕事が増えるのは勘弁願いたい。
……あれ、コレフラグかな。
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