第71話 体育祭 25 決闘

 頭を強打し何となく痛い。


 林道がぶつかった拍子にオレごとベンチは倒れ、足部分が破損している様子が視界の端に写り込む。弁償は林道か委員長がやってよね。オレ今回何もやらかしてないし。むしろ貢献したと思う。


 何だか恩を仇で返された気分だ。

 まぁいいけどね。オレが払うんじゃなければ。


 オレの体の上に被さるように倒れている林道は一時避難していた親衛隊達によって穴の空いた氷の結界内へと運ばれた。


 ピクリとも動かないが意識が無いんじゃないか…?

 

 赤子のように手を空に伸ばせばその手を葬が掴みオレは立ち上がる。


「血ぃ出てるぞ」


 葬に指摘され後頭部に振れてみると、手に血が付いているのに気づく。もうほとんど治りかけで直ぐに止血は済むだろう。

 妖怪の末裔で良かったと思う。


 そういえば何故葬がオレを庇わなかったかというと、オレに攻撃を避ける意思を感じなかったからだろう。

 避けようともしない相手を庇うほど葬は優しくない。


 まぁ面倒見はいいためハンカチを渡すぐらいはするのだが。


 礼を言って受け取ったハンカチで後頭部を抑え、そのままベンチをガタガタと立てる。歪んでぐらつく部分は氷で調整して安定させた。


 再びベンチに座り直すと氷の結界を作り直しクッション素材として出した雪を消す。

 本当は自然に溶けて無くなる方がコスパはいいのだが、まぁ妖力を大量に持っているオレからすれば大した量では無いため遠慮なく使う。


 雪を消すのにも妖力は必要なのだ。


 視線を前に向けた。

 氷の結界内では林道が目を覚まし起き上がっているところだった。風紀委員長は林道を投げ飛ばした場所から動かずこちらを申し訳無さそうに見ているように見える。鬼の顔で分かりづらいが。


『林道会長が場外に出たので咲江木風紀委員長の所属する紅組に得点が入ります!』


 司会の言葉から察するに、まだ戦いは続くのだろう。


 林道は飛び、委員長の下へと突進した。


”ガッ”


 委員長は殴りかかってきた林道の拳を真正面から受けて立ち、自らも拳を突き出し殴った。


 親衛隊達から悲鳴が上がる。

 実は先ほども血が流れる度に親衛隊達は自分のことのように悲鳴を上げていた。宣戦布告しようと下克上をしようと彼らはどうしようもなく彼ら親衛対象が好き…なのだろう。


 林道の手は砕けたかのように血が噴き出し、委員長の拳は皮膚が抉れている。鬼の委員長と天狗の会長とでは丈夫さが違った。

 それでも続くこの殴り合いは、林道が望んで始まったものだろう。そしてそれを受け入れたのは対戦相手の委員長。


 この戦いに口を挟むのはうまく言い表せないが良くないことだということは分かる。

 オレの安直な予想だと、彼らの因縁は家の事情が関係しているのだと思う。


 つくずくこの学園は色々問題を抱えた生徒が多いなと思う。

 むしろ無い方が珍しいぐらいだ。

 まぁそれはオレたちも人の事は言えないのだが…。


 その後はほとんどが咲江木委員長の独壇場で、林道がよく吹き飛ばされていた。

 なんだか去年に比べて弱くなった…? いや年月が経てば普通強くなるはずだ。林道もまだまだ若いのだし。


 なんだか近頃…いや、転校生が来てから違和感の連続というか、微妙に変わったことが多いな。恋にうつつを抜かすとこうなるのだろうか…。恋って良いことばかりじゃないんだね。


 日も傾き始める頃、唐突に戦いは終わりを告げた。


『終ーー了ーー!!』


 キーーーンと音が割れるぐらいの音量で司会が終わりを告げた。


 その音に耳のいい生徒達、動物系統が苦しんだ。

 紅組はその系統が多かったのかこちらの席に座っている生徒たちは一斉に耳を押さえた。葬も耳がいい方なので眉をしかめてクレームを言っている。

 もうガラ悪過ぎて不良越えてヤンキーだね。


 そしてそんな音だと流石に戦っている二人の耳にも届いたのか、同時にピタリ‥と動きを止めた。


 砂埃が収まった頃合いを見計らってオレも氷の結界を解き、気をゆるませる。もう何時間と気を張って見守っていたからか肩が凝った気がした。


 校庭は嵐が過ぎ去ったかのように荒れており、特に二人が戦っていた中央部分は陥没しているように凹んでいる。そして飛んでいった砂は氷の結界に沿って山が出来ていた。


 何で殴り合いで砂がこんなにも舞うのか…これぞ妖怪クオリティー。


 コレ修繕費とか平気? 突然チーム変わるし(恐らく)種目も変わっているだろうし、学園がお金払ってるんだよね? 学費増えたりしないよね?


 って、そもそもオレたちは免除してもらっているから関係ないか。

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