第66話 体育祭 21 障害物競争

 旗を持った生徒が旗を上げ、スタートする。

 これまでのスタートの合図で使われていた空砲が無くなった(在庫切れ)らしく、分かり易く旗でスタートを切った。


 オレたちは駆け出しそれぞれ黒いボックスの中に入って行く。

 どうやら共に走っている生徒達は足が早いようでオレより一足先に黒いボックスに入っていくのが見えた。


『お次の選手達がシークレットボックスへと入りましたー。中には注目株の一人の氷鎧様に一瀬ひとせ様が居ますね! どのような格好になって出てくるのでしょうか』


 外から司会の声が聞こえてくる。


 自分以外にもランキングに入っている人が居たのだとここで初めて知った。お互い大変だね。


 そしてボックス内では複数の生徒が常駐していた。構えているモノはヘアアイロンやふわふわしたメイク道具っぽいモノを持った生徒達。


 なるほど。彼らが今までセットアップしてきたのだろう。

 誰も見苦しいものをわざわざ見せたい訳でも見たいわけでも無いのだからこれぐらいはするのかもしれない。


(だとするとあの着ぐるみの生徒は何もされていないのか…?)


 ボックスに入るなり彼らからススッ‥と衣類の入っているであろう籠を渡され無言で衣類店にあるようなカーテンの中に誘導される。

 オレは素直に頷きパッパとジャージを脱ぎ捨て衣装に着替えた。


 幸い着替えやすい衣服で直ぐに終わった。


 ただインナーまで用意されていたのが驚きだった。

 下まで用意されていたら流石のオレもドン引きだったが無かった。良かった。


 シャッとカーテンを開けると再びススッ‥と我がしもべのように誘導され席につく。そしてヘアアイロンやら何やら持っていた生徒が手早く髪を整えて行く。


 オレはとりあえずする事がないので目を瞑って待っていた。


 そうして数分も経たずに「終わりました」と声がかかる。

 なんとも静かな生徒達だ。


 いつの間にかブカブカだった長袖を捲られいい感じになっていた。ただ一つ納得いかないとすれば上まで閉じていたボタンを5つほどは外されたのが不服だったことぐらいか。


 中にはシンプルな黒いインナーを着ているので直射日光が胸に当たることはない。


 …まあいっか。


 ということで最後に回していた黒い重厚感のある枷を手足に装着しいざ出陣。


 整えてくれた彼らに礼を言って扉を開けた。


 彼らははわわ‥という顔をして結を送り出した。まるでとんでもないものを生み出してしまったかのような反応である。


 ガチャっと扉を開け眩しい光が顔にかかる。


 前髪が無い…オールバックか。

 そう言えばはちまきを付けていないが平気なのだろうか?


 そして聞こえる歓声が大きくなった。


『な、なんと! 氷鎧様は『囚人服』です! 印象とは全く真逆。いつもの儚げクール美人が荒々しく近づきにくい肉食系イケメンにー!?』


――此処からはモブたちの出番である。


「キャァーーー!!」

「ぶっ…グハァッ?!」

「赤史くーん? あれ、息してない」

「結様ーー!! 今日もカッコイイですね! 写真撮って良いですか!?」

「ふっ…俺の見立てにハズレは無い」

「流石ッス!」

「手枷…だと…?」

「手錠じゃないところがポイント高いな」

「肌が白すぎて神々しい…」

「じゅるっ…」

「キタねぇ寄るな」

「(´・ω・`)ぴえん」

「メイド服が至高だと思っていたが…囚人服もまた、アリ…だな」

「アメリカ系なのもいいよね」

「なんで詳しいの??」

「重そうだけど実際どうなんだろう?」

「見た目だけだろ。じゃなかったら本当に枷じゃん」

「いやあの着ぐるみ思い出してみろよ。ガチだとしてもおかしくねぇ…」

「確かに」

「裸足で怪我しないかな…オロオロ」

「いや、よく見ろ。包帯巻いてるぞ」

「(よく見てんな…)」

「だ、誰か俺の分まで写真撮って…くれ…ガクッ」

「タトゥーがリアルでイイな」

「枷が無かったらただのつなぎだな」

「あそこまでボタン外してるのも珍しいよね」

「受けなのは譲らねー!」

「どう見ても攻めじゃん!?」

「いーや! 攻めと見せかけた受けだね!」

「なぁ本人に聞こえるぞ?」

「「おっと」」

「囚人…ときたら誰か警官服着るのかな?」

「絶対攻めじゃん?」

「ここでCPの名前は出さないでおこう…争いが起こる…」

「戦争じゃぁーー!!」

「既に手遅れッスね」

「誰だ大×結とか言ったヤツぁ?! 地雷じゃボケ!?」

「荒れ狂ってるよぉ」

「転校生はね…無い」

「草」

「なんかもうハロウィンだね」

「確かに」


 ――モブたちはざわついた。それはそれはかなり。


 どこかで戦争も起こった。

 だが一つ地雷原という共通点を見つけ和解した。


 結は気にせず駆け出した。

 助走をつけ跳び箱に向かい――そして跳んだ。


『と、跳んだーーー!? なんと斜死露ななしろ兄弟に続きジャンプで飛び越える者が居たーー!!』


 ダンッ!と力強い力で踏み台を踏み、飛び越えた結は跳び箱の白い頂上部分を手で軽く触れ、通り過ぎた。


 その先には数メートルもの高さが待っている。


 結は運動神経をフルに使い、落ちる途中で跳び箱を蹴り。落ちる衝撃を弱めくるくる器用に回転してスチャッと着地した。


 まさにその姿は脱獄囚。

 だがその後体力を削りすぎたのかふらっとしていた。


『おっと体力尽きたか氷鎧選手ー!? そして氷鎧選手に続き一瀬ひとせ選手も跳んだーー!! というかいつの間に着替え終わっていたのかー!』


 どうやら他にも跳んだ生徒が居たようだ。

 横を見ると警官服を来た生徒がスタッと軽やかに着地していた。


 クッ…負けた…。


 そうしてよろよろとしながらも次の障害に立ち向かう結であった。

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