第65話 体育祭 20 障害物競争
”障害物競争”――それは幾つもの障害を乗り越えゴールまで競い走る競技である。
オレは現在選手が並ぶ列に混じって待機している状態だ。
今は委員の生徒が障害物を設置して回っているところ。
次々置かれていく物の中にはよくわからない物も混じっているのが見え、果たしてあれは自分でも乗り越えられるのかと思う物もあった。
え、あれ何? 足つぼ…か…? テレビで見たことがあるような無いような…。健康なら痛くないんだっけ?
曖昧な知識が頭に浮かぶ。
続いての競技だが、結たちの並ぶ列には異様に『とあるランキング』に名前が載っている生徒が殆どを占めていた。
結は知らぬことだが、親衛隊だけでなく一般生徒達も画策して午前の部に終わった”借り物競技”やら今から行われる”障害物競争”に、何のとは言わないが『とあるランキング』に載る生徒を参加させようと学園全体といってもいい規模で動くのだ。
ここまで学園全体の息が揃うのもコレだけだろう。
『とあるランキング』上位者は特に入念に策を労され確実にどちらか一方の競技に入れられる。まさに悪魔の所行といってもいい。本人の意志とは関係なく入れられる事がほとんどなのだから。
――ただ結は、勝手に組み込まれていてもさして気にはしていなかった様だが。
それにしても去年とはまた違う構造になったような気がする。
少なくともあんな大きな跳び箱では無かった。
さては大国先輩の差し金か…?←当然のように疑われる先輩
いやでも何時だったかは忘れたが、障害物のアンケートをいつかにとっていた気がするな。全校生徒に。
あの時は自分もアンケートに答えていた気がする。当然その頃は自分が走るとは夢にも思っていなかったので赤史が思いついたモノを適当に書いた記憶がある。何を書いたかは忘れたが。
ということはアンケートの中にはあの跳び箱もあったということか…?
誰だ書いたの。さては脳筋か?
そんな事を呑気に考えている内に準備が整ったらしく。司会が声を出す。
『続いての競技は”障害物競争”! 今回は事前にアンケートを取り、よさげなものを委員の中で選びました。文句は受け付けません。ですが安心してください! きっと良い絵が撮れることでしょう!!』
何故だかそこで初めて嫌な予感を感じ始めた。
『皆さんもお気づきでしょうが、あちらに見える跳び箱は、常人が跳べる高さのモノではございません。ですので登ってでも乗り越えて頂きます! ついでに命綱はあっても無しでもいいです!』
正気か?
周りに共に並ぶ生徒達も不安げに話す。
…いや周りの生徒達は元から御通やかと思うぐらいに暗い雰囲気を纏っていたな。何か嫌な事でもあったのかもしれない。(現実逃避)
『そしてその跳び箱の前方にあるものは後ほどのお楽しみ…お気づきの方もいるかもしれませんが、最初の選手がボックスに入るまで黙っててくださいね~』
そう、スタートして走り出した先には謎のボックスが建っている。
七本の線の白線の上に跨がるようにしてドデカい黒いボックスが建っており、オレは最後尾に近い方に並んでいるので見えにくいが、同化して黒いドアも見える。
あの中に入るのは分かるが何があるのだろう?
ただならぬ気配を感じる…。
そして同じくそれを見た周りの生徒は何かを悟ったかのような顔をし始めた。
え、怖い。
周りの生徒には分かっているのに自分には理解できていないという事が。
そうして無慈悲に障害物競争は始まった。
◇
障害物競争が始まって数分。
前に並ぶ生徒達が徐々に減っていく。
それと共に減っていくオレの中の何か。
観客となっている選手でない生徒達は歓声を上げ、スポーツ中継でも見ているのかと思う程だ。
まぁ実際どんな原理か、校庭の中央には半透明のモニターが浮かび上がり、アップで選手たちの様子が映し出されている。
恐らく幻術などを操る生徒か機械があるのだろう。よく原理は理解できないのだが。それはいい。
現在オレは後方で目を虚ろにさせてモニターを見ていた。
恐らく他の選手も同じだろう。悟った顔をしていた理由がわかった。
何故ならあのボックスから出てきた者は皆生まれ変わったかのような顔と格好をして出て行くのだから。
中でも一番悲惨なのはこの競技で致命的に動きにくい点を持つ着ぐるみを身にまとっている生徒だろう。
可愛い熊の着ぐるみ。
誰が中に入っているのかが分からないがとりあえず南無…。絶対跳び箱は困難を極めると思う。
しかし司会はこうも言っていた。
『しかしこの高さがダメな人も居るでしょう。なので特別処置として。言われたポーズをこなすというお題を達成できればよしとしましょう! 簡単? そうですよねそう思いますよね…ですが! お題はなんと閣下に下して貰うことになります!! 白組ではありますが、公平な判断を下すのでご安心ください。彼は誰にでもドSです!』
その後司会の彼は案の定大国先輩に絞められていた。
何で言うんだろう、ボケを狙っているのか素なのか…。
素な気がするな。
そして中の人は分からないが、ぽてぽてと走りづらそうに急ぎ大国先輩と司会の彼の元に駆けていった。
よく考えるとコレは着ぐるみでよかったのかもしれない。
顔が見える状態でするのも嫌な事もあるだろうし。
投げキッスとか。
ちょっとあの熊の着ぐるみがしているところ見てみたいな。
『お? 早速贄が来ましたね! 閣下はどんな命令をするのでしょうか』
酷い言いようである。
心なしか熊の着ぐるみも哀愁漂っている。そこが好いという生徒も居るようだが、ここで堂々と性癖は出さないでほしい。
『ふむふむ…え、逆立ち? できる人限られません? …気合い? ソッスカー…。逆立ちだそうです!! 無理ならダメもとで跳び箱へどうぞ!!』
着ぐるみで逆立ち…無理じゃない?
だってあの着ぐるみの頭がそもそも腕の長さより絶対に長いから逆立ちしようにも頭で立つことになってしまうではないか。
コレが世で言うエグいってヤツか。頑張れ熊の人…。
その後懸命に逆立ちしようとしたり跳び箱を登ろうとしたりする熊の着ぐるみの映像が流れてほんわかしていた。
同じくスタートした組の生徒達は死んだ目だったり悟った目だったり、逆にはっちゃけて楽しんでいる生徒達が駆け抜けていた。
それを見て大笑いしていた大国先輩は正真正銘のドSだと思う。粗方笑い終えると物足りないとか呟いているのがマイクに載っていた。やばい人だな。
それぞれ格好の違う状態で走るので、不公平な気もするが、それもまた運。受け止めるしかない。
中には奇抜な格好もあり、準備したのは大国先輩が用意したのだろうか? 人によって骨格も違うのにぶかぶかだったり小さかったりする様子は選手達には見受けられない。
恐ろしいほどにぴったりである。
そうして前に並ぶ生徒が駆け出した。
オレは白線に立ち待つ。
バクバクと今更心臓が騒がしく鳴り始めた。
横には知らない顔の生徒が並んでいるので、恐らく一年生だろう。2,3年生ならば一度は顔を見たことぐらいはあると思うので恐らくそうだ。
どうやら学年関係なく走るらしい。
オレの足は特別早いわけでも遅いわけでもない。
(因みに短距離走の時は限界を越えていたのだと思う)
ただ体力が無いだけで…。
あの跳び箱は…多分着ぐるみがでない限りは行ける気がする。
いや例え着ぐるみだとしても屋上でかまくらを作っていいという許可が貰えるんならオレはイケる気がする。
割と運動神経いい方の結。
ただ体力が無いというだけで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます