第63話 体育祭 18.5

~?side~


”ダンッッ”


「っっ痛! 何すんだよっ!!」


 堅い床に放り投げられた転校生――国真くにま大羅たいらは放り投げた張本人である大国に悪態をついた。


 だがそんな事は聞いていないとばかりに大国は立ったまま国真にガンをつけて言った。


「お前、何が目的でこの学園に来た?」


 冷めた目で何かを探ろうとする目を国真に向ける。


「何かってなんだよ? おれはただ…」

「ただ?」

叔母さん学園長に此処に入るよう言われたから来ただけだし」

「ふーん」


 聞いた割に興味なさげな声を出し、目は嘘を見逃さないとばかりに鋭く国真を目に映している。


「まっ、今回はこれで勘弁してやる」


 あっさりと解放した大国は足を下駄箱の方へと向けた。


 ああそれと、と去り際に付け足す。


「アイツには手を出さない方が身のためだぜェ?」


 最悪呪われるかもしんねぇからな。

 と、大国は国真に背を向けて言った。


「(あっち女子校には化け物が居るって噂、本当かは知らねェが、文化祭の時にでも探ればいいか。大体見当はついてるし。正直転校生なんかどうでもいいが、かわいい後輩に害をなすならしょうがない。牽制になったかは分からないが…まぁいい、出来たらラッキーぐらいに考えておけば損は無い)」


 氷鎧に姉が居て、ソイツが怒ればヤバいということは本人から大国は聞いていた。

 その話をする氷鎧の顔は死人の顔のように青白く血の気が無くなっていた。

 まぁ普段から顔色は真っ白で白粉おしろいでも塗っているのかって程だが。


 女装させても顔色一つ変えないから面白くないし。

 いやこれは関係ねぇか。


 そんな考えを巡らしている大国の後ろでは、去っていく背中をジッと見つめる者が一人いた。

 国真だ。

 

「はぁ…イタタ…。雑だなぁアイツ」


 そう言いながら立ち上がる国真。

 話し方がいつもと違うことは一目瞭然だった。


「ま、そんなこと言われても止めてやる気なんて無いけどね。は自分のしたいようにさせてもらう。俺の行動を他人にとやかく言われたくないし」


 そう言って分厚いレンズの眼鏡を整え、付け直す。


「(会いたかった人は俺のこと覚えて無さそうだし、魅了も効かないし、全く人生は上手くいかないなぁー)」


 むぅと大袈裟に唇を尖らせる。


「(伯父さんはまだ結を狙っているのかな? よく父さんに聞かれるし…正直来て欲しくないのが本音だな)」


 文化祭では身内に限られるが、外から人を招くことが出来る。

 そして女子校の方も同日に同じ様に開放されるのだ。


 国真はそんな文化祭に伯父が来ると聞いており、少し憂鬱だった。別に自身が危害を加えられた訳ではないが、何かと口出ししてくる存在で、鬱陶しかったのだ。


 国真は大国の姿が見えなくなったのを確認してから下駄箱に向かった。外から数人顔のいい生徒が駆けてくるのが見え、笑顔で手を振る。


 別にこれまでの全てが演技な訳じゃない。これも国真大羅の一面だ。

 楽しむことが自分の生き甲斐だから。


 それで言えばこの学園は最高だ。 

 たった一人の生徒が来ただけでここまで荒れるとは…面白くて堪らない。


 これが自分一人の行動だけでは行き着かなかった事に目を瞑れば完璧だった。今があるのは伯父や叔母が居てこそだったからだと思うから。


「(ああでも、思い通りにならなかった生徒もまた多く居たなぁ。やっぱ半端な力じゃ及ばない事もあるな)」


 国真は先ほど共に居た二人や紅組の生徒達を思い出す。


 だが午後の部が始まる合図を聞き国真はいつものようにその顔に笑みを浮かべて林道達の下へと歩き出した。

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