第59話 体育祭 15 借り物競争
ふと気まぐれに並走して走る大国先輩の手を見ると黒いもじゃもじゃが握られているのが見えた。
ま、まさか…?
そんな考えが伝わったのか大国先輩は走っているのにも関わらず
「ああコレかァ? 転校生のヤツからもぎ取った」
ぶん盗ってるヤツ…。
転校生は無事なのか? 無事を祈るしかないな。
そうしてオレを背負っているにも関わらず、葬は大国先輩と同着でゴールした。普通に実力を隠しきれていない。体力温存はどうした。
さっきまで4位ぐらいの足の早さだったので会場はざわめきが広がる。まぁお題になにが出てくるか分からないので体力温存していたのではという意見が出て静まったようだが。
そして司会の生徒が近寄ってきたのでオレは葬の背中から降りる。あんな速度で走っていたのに乗り心地は良かった。
『なんと
司会が聞くと大国先輩は鬘を持っている手とは反対の手から紙をポケットから取り出し司会に渡す。
『ふんふん…【黒髪の鬘】ですね! 閣k…じゃなかった。大国様なら色違いだろうと染めて持ってきそうですね! 合格です!』
「おい、なんで余計な言葉を入れたァ?」
『そりゃあ本音を思わずこぼしたから…ってイタァ!? 痛い! 頭がぁ!!』
ミシミシとアイアンクローを司会の生徒にキメる大国先輩。
いやここでは大国様?
なにもここで本音こぼさなくてもいいのに…。
まぁ司会の言う事も分かるがな。
因みに大国先輩が司会にキメている技名は隣に居る葬が先ほど教えてくれた。まさか生で見れるとは…と感心していた。
『はぁはぁ…あ、氷鎧様ありがとうございます。氷貰っちゃって…ふぅ…暑かったので丁度いいですね~。あ、次は氷野選手でしたね。お題の紙を見せてください』
大国先輩は去っていった。まるで嵐が過ぎ去った後のようだ。
頭を手で捕まれた場合どういう怪我…?なのか分からないが対処の仕方は流石に分からないので、取り敢えず氷を渡した。
『ふんふんどれどれ…? …っ!?!? おぉ…! おぉぉ…! コココ、コレは…!』
なんかめちゃくちゃ目が血走っていてヤバい人になっている司会。ヤバいよ…。
『では質問です。氷鎧様に危険が迫ったらどうしますか?』
なんだろうこの質問。
葬はオレの肩を組みながら言った。
「当然俺が身を呈してでも撥ね退ける。…まぁコイツも弱くはないからな、そんな易々と護らせてはくれないんだが」
『なんだこのめちゃくちゃ信頼しあっている主従は…最高だよクソッ。文句無しの合格です! お題は【大事な人】でした~! ひへへ…妄想が捗るぜうへへ…』
ツキリ‥と司会の言った信頼しあっているという言葉を聞いて胸の奥が痛んだ。オレは顔に出ないようにまぶたを一度だけゆっくり閉じゆっくり開く事で心を落ち着けた。
信用…信頼…。オレには似合わない言葉だと思った。
涎を垂らす司会からお題は達成されたということで解放されオレ達は席へ共に戻る。
…否、戻ろうとした。
「結!」
再び呼び止められた。
だが、相手は葬ではなく赤史だった。
「ちょっとええか?」
その言葉に頷きオレは再び司会の下へと戻った。
葬には先に戻っていてもいいと言ったがどうせだから一緒に残ると言われた。
赤史は今白組で敵だが、お題が人の場合、拒否することは誰だろうと出来ない。妨害行為に当たるらしい。厳しいルールだな。じゃないと競技が終わらないというのもあるのだろうが…。
『おや? …唐斗選手がゴール! では早速紙を頂戴して…ふんふん…おぉぉっふ…。なんだ私は夢を見ているのでしょうか? 例え夢だとしても最高だ…っ! えーお題は【s…もがっ!』
「言わないでくれ」
『ガチトーンの唐斗様貴重ですありがとう…そしてこのお題の事は末代まで秘密にします!』
小声で聞こえないが赤史の眼光が鋭いので脅しでもしているように見える。(あながち間違っていない)
まぁ司会の生徒は相変わらず元気なのでそんな気配はしないのだが。
というか末代までだとどれだけ長生きするつもりだ? それともこの生徒が末代になるのか?
結は赤史の焦りを知らずにどうでもいいことに頭を暫し悩ませた。
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