第55話 体育祭 11 玉入れ
目が合ったら即バトル!――なんてことは無く。
ぐらぐらと視界がぶれて酔った。
「うっ…」
骸加先輩慌てすぎ…。
心なしか副会長に哀れまれている気がするし。
片手で口に手を当てる。
気持ち悪いが吐き気は無かった。手は反射的にだ。
あぁでも気を抜いたら吐きそうになるかもしれないな。
ていうか落ちたらどうしよう…雪でクッション作れば…いけるか? でもどのぐらいの大きさで作ればいいんだ…流石にこんな高さから落ちるなんて経験は無かった。
紅組の方を見ると順調につむ○むしている。
和む…。
玉入れのルールだが、一度入れられた玉を籠を倒して取り出すというのもありだ。点は最終的に時間切れの時までに籠に残っていた玉の数で決まる。
なのでまだまだ逆転勝ちなどがありえるのだ。
紅組陣営
「働け紅組ー!」
「結ばっかに頼るんじゃねぇー!」
「モフモフ最高ー!」
「負けたらブラシしてやんねぇぞ!」
葬の声が聞こえた気がする。主にオレにではなくあっちのモフモフ空間に向かって多くは声をあげているようだった。声を上げている葬の姿はまるでヤクザだった(失礼)。
ブラシについてはオレもやりたいし…。
というかオレを応援する人居なくない?
白組陣営
「相手は一人だぞ白組ぃ!」
「たった一人も止められないのかお前らぁー!」
「あのモフモフ空間壊すんじゃねぇぞ!!」
「がしゃ×雪…? 待って理解が追いつかない…」
「バカ野郎! 7兄弟×雪だろ!」
「7対1は流石に…」
「もう総愛されでよくね?」
敵の筈なのにあのモフモフ空間を守ろうとしている奴が居る。
そして赤史のような事を言う奴が多かった。ロクな奴が居ないな。そういえばチーム分けも赤史と同じ趣味を持った生徒たちがあっちのチームに多く入っていたような…。
あ、深く考えないようにしよう。
うん。それがいい。
とにかく妨害しよう。
未だに不安定に体は揺れているが遠距離に的があるならそこに生み出してしまえばいいのだ。
ということで発射! 雪玉砲!
だが、それは呆気なく不可視の風によって防がれた。
手を離して貰うため
ではどうするか?
上着のチャックを下げ、袖を通っている腕を片腕脱ぐだけで…後は体重と重力で自然に下に落ちる。
中の半袖の服までは掴めていなかったようだ。
雪を下に大量に敷き、そこへ大の字で飛び込む。
だいたい学校の4階ぐらいの高さから落ちたが、大分高い位置まで雪を作ったので痛くはない。…苦しくはあるが。
失敗したな。何故オレは顔を下にして落ちたのか…。
オレが落ちた事で悲鳴が響いたが、直ぐに雪を作り出したことでそれも収まった。
これでオレも晴れて自由の身。
雪を地面に近い方からじわじわと溶かしゆっくり下がる。
トッ‥地面に地に足を着けた。
”パリンッ!”
その時何かがひび割れるような音が聞こえた。
ひびが入ったのは、オレの作った氷のドーム。
”バキ‥パキ‥”
ひびはどんどん広がりこのままでは割れてしまうだろう。というかそもそも何故ひびが入ったのか?
それは姿が見えないと思っていた鎌鼬が氷に切り目を入れて、斜死露兄弟がそこに打撃を加えている姿が見えた。
あの斜死露兄弟は体力が身体能力が揃いも揃っていいようだな。
羨ましいことだ。
だがそう簡単に壊させる訳にはいかない。
オレは紅組の方へと駆けた。
あ、体力ヤバいかも…。
”ビュォォオオッ”
大きく息を吸い込み勢いよく吹き出す。
口元に手を添えて攻撃する方向を定め、
チラリと自身の作った氷のドームの中を見るとかなりの玉が籠に入っているのが見えた。
そして反対に白組の方も見ると、ちょうど副会長が一気に大量の玉を籠に入れているところが見えた。
一瞬であんなに…。
オレの努力は一体何だったのかと言いたくなる。
”ビーーーッ!”
そこで玉入れ終了の合図が響く。
やけに長く感じたが何分程経ったのだろうか?
そう思って校舎に備え付けられた時計を仰ぎ見ると、なんと30分は経っていた。
えぇ…(ドン引き)。
小学生の時なんて数分で勝負終わってなかったか? 30分って…長すぎだろ。
さて結果はというと…?
いーち、にーい…と、小学校の頃を思い出させるかけ声で白組から玉を数えていく。
因みに紅組のモフモフ(生徒)を護るために作ったドームは消した。オレの雪(氷)は任意で作り、消す事が出来るのだ。
そして白組は99個の玉を入れたようだ。
玉は全部で100個。
残りの玉はどこにあるのだろう?
「なっ、見える限りの所にあるもの全部入れた筈…っ!」
副会長はそう言ってこちらを見て不審そうな顔をする。
なんだか怪しんでいるようだ。
この玉入れだが、やってはいけないこともある。
それは相手の玉を盗って隠し持つことだ。まぁ他にも相手を大怪我させるようなものは禁止。多少の怪我は大目に見られる。
もしかしたらオレが最初の方に雪を大量に放出した拍子に遠い場所に行ってしまったのかもしれない。
すまん。
だが…
「す、すみません」
その声の主は小柄な生徒。手には雪玉…ではなく白組の玉。
「服の中に入り込んでて気づきませんでした…!」
大変恐縮な態度で玉を差し出す生徒。
なんかこっちが申し訳なくなった。
だってあれは多分オレが”湿雪――雪崩”とか言ってる時に入り込んでしまったものなのだろうし。いやごめん。
そんな生徒に儚げな笑顔で気にしないで下さいと伝える副会長。
心の中では悔しがっているんだろうなぁ。多分だけど。
というか変わり身早いな。
続いて紅組はというと此方も此方で99個が入っていたらしい。
残りの一つは後少しの所で届かなかったのだとか。
――ということで玉入れの勝負は勝敗はつかず、同点という結果で終わりを告げた。
この際の得点は、お互いに同じ数字が加算されることになっている。例えプラマイゼロだとしても、得点は生徒たちの頑張りの証なので、同点だとしても得点は入るのだ。
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