第54話 体育祭 10 玉入れ

”ヒュッ”


 頭のすぐ近くを風が通っていく。

 どうやらあちらには風神の副会長だけでなく、鎌鼬かまいたちの末裔も居るようだ。


 なんとなく妖力が見えるので分かるのだが、籠められた妖力が少ないと逆に見えずらく当たりやすい。濃いと逆に見えやすく威力は高いが当たらない。


 不可視の風は怖い。

 逆にオレの能力は見えづらいとしても見えるし、加えて今日の暑さで溶ける。イコール威力が下がるのだ。


 それに人数が人数だ。

 一対多数。圧倒的不利である。


 まぁやるしかないのだが。


”ゴォ!!” 

 かなりの勢いで白い骨(手)が迫ってきたのでコレは押さえられるか定かじゃ無かったので避けた。スケートの様に滑って。


 だがそれを見越したかのように七人同行の末裔――斜死露ななしろブラザーズでいいか。彼らの名字は共通して斜死露で、名字に死が入っているのがあれだが名前に入っていないだけいいだろう。葬など埋葬の葬だし。名付け親はどういう考えで付けたのだろうか。――斜死露兄弟がいつの間にか後ろで囲むように居た。


 それを見て雪を360度大量に放出する。

 そして押し流される斜死露兄弟――かと思いきや、雪は斜死露兄弟を飲み込んだまま固まり何かにせき止められるかのように動きを止めた。


 そう――まるで檻の様に。

 

 そして開いた上から骨(手)が迫って来るのが見えた。


 ――そうか…これを狙って…。


 恐らく斜死露兄弟がオレを囲むように来たのも、それがオレの手によって止められることも見越していたのだろう。


 そしてその雪をそのまま動かなくしてしまえば…オレに逃げ場は無くなる。唯一残された道は上。その道は餓者髑髏によって塞がれた。


 迫る餓者髑髏の手を避けようにも、今オレを囲む雪を無くしてしまえば七人同行が自由の身になる。というか今も抵抗して破壊されそうな気配がして背中に冷たい汗が流れる。

 強いよ斜死露ブラザーズ…。


 えぇー…詰んだか? オレ…。


 雪に埋もれて動ける人などいないと思っていたが…まぁ大国先輩や委員長。会長も怪力で行けそうなんだよな…副会長は能力で突破しそう。現に今雪をせき止めているのは副会長だろうし。


 せめてもの抵抗としてしゃがみ込むがあえなく失敗。借りてきた猫のように上にしていた襟首を掴まれ持ち上げられた。


  チョット苦しいデス…。

 持ち上げられ宙ぶらりんの状態で高所へ運ばれる。


 オレ高所平気で良かった。

 今までで一番スリリングな遊園地だな。


『ちょっと冷たいね氷鎧君』


 どこから声が…?

 キョロキョロ探すこともなく餓者髑髏の腕が動き、でかい髑髏の前に移動する。


 声の主は餓者髑髏だったようだ。


 もうオレ完全に借りてきた猫状態。

 オマケに背景に宇宙背負っちゃってるよ。

 これ以上混乱状態にしないでくれ…。


『ふふ…僕? がしゃどくろの末裔の骸加がいか詩雨しう。まぁ見れば分かるか。よろしくね』


 聞いていないことに答える骸加に此方も相応に返す。

 因みに彼が冷たいと言ったのは結の人柄とかではなく、物理的にひんやりしていたために零した言葉だ。


 骨で温度感じるんだな…。


「よ…ろ、し…く」


 ぺこっとただでさえ下がっていた頭を下げて下の状況を見る。

 下を向いて状況把握をしたのは単なる偶然であった。


 下では七人同行の動きを止めていた雪が崩れ、七人同行が動こうとしていた。副会長が風を解除したのだろう。元々七人同行に向けた雪は目くらましのようなモノだったので直ぐに崩れるモノだ。


 あんな至近距離で氷投げたら危ないしな…。


 副会長は玉入れの方に行こうとしているのが見え、斜死露兄弟は紅組の妨害へ向かおうとしているのが目に映る。


 ヤバい。――はて、オレは何の競技をしているのだったか忘れそうになる。何故こんな異能力バトル展開を繰り広げているのか。だが、そんな考えは捨て置くとして――モフモフ!!(紅組)


 多分セリフを間違えているのだろうが、危機が迫っていることに変わりはない。


 さてここで選択肢だ。

 これからオレのする行動はどれでしょう?


一、紅組への妨害をしようとする斜死露兄弟を放って置いて、白組の妨害をする。


二、紅組を妨害しようとする斜死露兄弟を対処する。


三、1と2どっちも。


四、全てを諦めて骸加先輩(推定)とお話に興じる。


 答えは…三。

 四を選べば葬に怒られてしまうという単純な考えだ。


 まぁ二つ同時に行うのは難しい…今のままだと。


 今までオレはジャージの下で何をしていたか?

 それはジャージの中を真冬に変えていた。


 そしてそれをオレは――切る。

 いや、服を切った訳ではない。オレにそんな能力は無いので不可能だ。いやでも頑張れば氷を勢いづけて投げでもすれば切れるか…?


 そうではなくて、真冬モードを切ったのだ。


 これで此方に振っていた妖力も気力も集中力も余裕が出来た。

 とても暑いが。余熱ならぬ余冷で数十秒ぐらいなら保つだろう。


 その短い時間を無駄にしないためにもオレは動く。


 左手を紅組。右手を白組の方へ向ける。

 そして視線は紅組。右手は適当に雪玉を出して気を散らせる。

 視線の先には積み上がる紅組チームのモフモフ――じゃなくてチームメイト。そんな彼らに迫る斜死露兄弟の前で即席の雪の柱を建てる。


 だが、それだけは彼らを止められない。

 だから氷で雪の周りをコーティングするように凍らせる。


 距離が離れているせいか妖力の消費が心なしか多い気がした。


『あっ! やられた!?』


 ガクン‥!と視界どころか体が揺れる。揺らさないで…。


 いつの間にか紅組陣営の籠と積み上がった小動物たち(生徒たち)の周りには、彼らを護るようにしてドーム状の氷が張られていた。

 言わずもがな。これをやったのは結である。


 骸加は一足遅く気づき声を上げた。


 その声に副会長も気づいたのか紅組陣営の方を見て目を見開いた。普通こんな短時間で出来上がる代物で無いことは一目瞭然で、ではそれを誰が作ったかというと副会長には1人しか思い当たる人物が居なかった。


 結を見上げた副会長はちょうど次は白組の邪魔をしようと動こうとしていた本人と視線がバッチリあった。


 それが第二ラウンド目の合図となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る