第53話 体育祭 9 玉入れ

 いつからこの小説はバトルものになったのだろう…まぁ能力あったらバトっちゃうよね。いやでもこれはバトル…なのか?

 by作者


□ □ □ □ □


 そんなこんなで時間は過ぎて行き、徒競走は全て終わり、玉入れが始まる。


 再びオレの出番だ。


 因みに徒競走では長距離走が特に白熱していた。

 葬は中距離走で勝っていたが置いておく。


 というか転校生君の頭…じゃなくて鬘が取れて騒ぎになっている。うるさい。というか誰でも見れば分かるだろう?


 こんな暑い日もあんな格好をしてきた事も驚きだが転校生君の足が早すぎて走る勢いの突風で鬘が取れるとはオレも予想していなかった。一昔前の鬘じゃないんだから…。


 鬘が取れたことで慌てた転校生君は眼鏡も衝撃で落としてしまい、整った素顔が露わになった。→そして会場騒然。→カオス。


 というわけだ。もう体育祭は滅茶苦茶である。


 とりあえずオレは次の出番に備えてベンチから立ち上がり顔にタオルをかけてくれた親衛隊隊員に礼を言って返し、再び日の下に出る。


 他の徒競走を見る余裕が無く、最後の方になっていた長距離走を見ることができただけだ。当然大国先輩が一位を取っていた。


 そして今オレはサングラスを掛けている。大国先輩から借りたのだ。使わないならくれと言ったらくれた。ラッキー。

 まぁ玉入れでぶつかったりでもしたら危ないから始まる前に外すのだがな…。


『落ち着いて下さい。…あの…落ち着いて…落ちつ…。……。落ち着けやオラァ!?』


 そして騒々しすぎる生徒たちにキレた司会は遂に言った。


キーーン‥

 校庭に音割れした音が響く。


 生徒たちは無事大人しくなった。


 この司会者は人を動かす力を持っているな…。少々特殊だが。


『はぁはぁ…。え~静かになるのに5分16秒47掛かりました! 次、行きますねー。はい、次の種目は玉入れです。既に並んでいる人は偉いですね~並んでない人は早く並んでくださーい!』


 褒められた。


 どこぞの小学校の先生のような事を言っていたが何で計っていたのだろう。


『白組と紅組の皆さん。準備はよろしいですか? …では、玉入れスタート!!』


 そうして――の玉入れが始まった。



”ドテッ”

”バキッ!”

”ヒュンッッ!!”

”ドンッ”

”チュドーーンッッ!!”


 校庭の中央では様々な音が飛び交い荒れ狂っている。

 去年の会長と風紀委員長の喧嘩と違い、様々な能力を持つ者が居るだけにカオスを極めている。


 因みに能力ありと聞いて真っ先に長袖長ズボンを着て冷を得ている。ありがたや…。


 サングラスは葬に預け、今は葬が顔に装着している。

 見た目(も)完全な不良であった。中から不良味がにじみ出ていたといおうか。オレと似た見た目しているにも関わらず、この違いは何なのだろう。経験の差か?


 他の親衛隊隊員に言ってみたらそのままで居てくださいと言われた。まぁ今更自分を変えようとは思わないけども。


”バキンッッ!”


 そんなことを言っている間にも、風やら砂やら何やらが飛んでくる。それらを氷柱つららで相殺したり雪を大量に流して完全に緩衝させたりして防ぐ。


 ジャージの中を涼ませながら能力を使っているので妖力の減りは早いが、まだ余裕はあった。構わず能力を使い、妨害を防ぐ。


 …おかしいな。

 オレは玉を投げ入れる手はずだったのだが…。

 チームが変わったからか?


 現在オレは妨害をしようとしてくる白組を紅組の方に近づけさせないようにしていた。


 相手方には副会長の姿も見える。

 コレ副会長の力使ったら一瞬で玉入れ終わりそうじゃない?

 いやそうしたらオレが妨害するんだけども。


 殺傷力の高い氷柱は人に向けることは当然出来ない。なら進んで使うのは雪だった。まぁ妖力の消費も雪の方が少ないから好都合だ。


”ゴゴゴゴ‥”


 辺り一帯から地響きのようなうなり声を上げる。


湿雪しっせつ――雪崩なだれ


 なんか技名みたいだがやったことをそのまま言っただけである。

 湿雪とは湿った雪。水を多く含んだ湿った雪で、気温が高いと溶け気味になり、水っぽくなるのだ。

 夏だと特に外の温度に左右されるので、もうほとんど水になり、波のようだった。


 とまぁコレを雪崩のように敵陣白組に向かって流し、押し流そうという魂胆だ。


 あまり妖力を送っていないので”軽い”かもしれないが、少しでも妨害できればいいので怪我をさせない範囲だ。


 その冷たい波に流された白組はというと…。


「つめたっ!?」

「おぼぼぼぼ」

「田中ぁ!」

「きもちいぃ」

「キャー!水浴び!」

「おぼ、ぼ…」

「田中ぁ!?」

「ふへへへへ…」


 とてもお見せできないような恍惚こうこつとした表情でうっとりする者も居れば、あの一瞬で溺れる者もいた。

 若干の罪悪感が…。


 それに正常な反応をしてくれている人がほとんど居ない…。


 溺れた者に関してはまぁ…平気だろう。直ぐに雪は溶けきり消えるだろうし、量も既に腰あたりだ。


 だが中には雪崩に流されることなくその場に留まっている者も当然居た。


 副会長だ。それに他にもちらちらと…。

 副会長の他には7人似たような帽子を目深に被った生徒達に、オール骨の骸骨姿――餓者髑髏がしゃどくろが残っている。

 いや、餓者髑髏デカいんですけど(真顔)。


 そしてあの7人は噂程度に聞いたことがある。

 七人同行しちにんどうぎょうの末裔だったか?

 彼らは兄弟だったり従兄弟だったりと、血が繋がってはいるが、全員が全員全く同じ血が通っている訳ではない。

 それに顔を見た者はほとんど居ないらしい。

 噂では皆同じ顔をしているのではないかと言われている。まぁ似た顔が世界に確実に3人居るなら7人居ても可笑しくない…?

 全員揃いも揃って帽子を被っている。唯一違うのは色ぐらいだ。


 さてどう対処しようか。


 こちら紅組には何故かオレ以外小動物系しかおらず、今はせっせと玉を集めてはつむ○むのように積み上がり頑張って高い位置にある網に玉を入れている。積み上がっているのは赤い玉もそうだが、小さな動物姿になったチームの生徒たちも同じである。


 では何故ずっと小動物の姿なのか?

 それは変化するのにも妖力が消費されるためだ。オレのこの多すぎるほどの妖力が備わっていること事態がかなりの異常なのである。


 なら玉を籠に入れやすい人型のままと玉を拾いやすい小動物とに別れればいい…オレはそう思った。

 ――だが遅かったのだ。


 そう…今更あのモフモフふわふわした空間。

 癒やし空間をオレの一声で壊す事など出来なかった。


 恐らく声を掛けてしまえば盛り上がっている観客から石を投げられ罵声を浴びせられ…ボコボコだろう。←(仮にあったとしても確実にその石は結の親衛隊が跳ね返し、罵声のばの字も言えないようにボコりに行く)


 あれ…? なんだろう急に。

 今過激派親衛隊の歓声が聞こえた気が…?

 幻聴かな。聞き過ぎたせいで。


 ……いやずっと歓声響いてるな。

 集中してて気づかなかった。


 多分あのモフモフ空間に声を押さえきれずに(喜びのあまり)叫んでしまっているのだろう。


 そう、オレの役目はハナから決まっていたのだ。

 彼らモフモフを護るという役目が。


 戦いはつづく――。

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