第48話 体育祭 4.5

 暑い外から保健室へと避難した二人。

 保健室には校庭からも体育館の方からも行けるようになっているので簡単に入ることが出来る。


 それはそれとして結はというと――。


 ピトリ‥と冷蔵庫に張り付くように引っ付いていた。


「それ、逆に熱くないか…?」


 尤もなことを言う葬に、思わず保健室に居た面々も頷く。


 現在保健室には、結、葬、保険医の和主わぬし、先ほど叩かれたために念の為此処に居る会長――林道と、付き添いの会計――貴鳥。

 副会長はというと、体育祭の話に参加しているため会長の側には居ない。多分”台風の目”の一員として一番話せそうな人物だったのが大きいのだろう。


 会計は少し居心地の悪そうな顔をしていたのが見えた気がしたが、興味が無かったので深追いする事はなかった。


「この熱さと保健室の冷たさがちょうどいい…」

「そ、そうか…」

「うん」


 因みに葬とは幼い頃からの付き合いのため、流石に普通に話す事が出来る。


 生徒会でもここまでスラスラと言うことは珍しく、結に自然と視線が集まった。


 結はそんな視線よりも冷蔵庫の熱に頬を寄せて引っ付いていた。


 偶然近くに居た葬は幸せそうな顔をしている結の顔が見えていたが、他のメンツには見えなかった様子。

 視線が苦手な割に視線を集めるのが上手い結だった。


 そうして本来なら結が気まずさを感じる空間は別の人物達が先に音を上げて早々に退出した。


「失礼した」

「失礼しました~」


 校庭の方に繋がるドアから出て行った二人の生徒。

 言わずもがな会長と会計である。


 残ったのは3人。


「よかったのか? 声かけなくて」

「うんまぁ…というかオレに話しかける勇気があると思う?」

「無いな」

「即答…お前ホントにコイツの親衛隊なのか?」


 立ち去った二人を目だけで追っていた葬は結に聞く。

 そして答えたわかりきった答えに即答する。

 

 そんな葬に信じられないとばかりの目で葬を…二人を見やる和主。


「というか具合が治ったんなら教室にでも行けばいいだろ」


 本来保健室は怪我人や具合の悪い生徒が居る場所である。

 和主の言うことは最もだった。


「それもそうだ…ほら結。放送掛かるまで教室で待ってようぜ」

「えー…」

「えーじゃありませーん」


 駄々っ子のようにゴネる結にまったくしょうがないヤツめ…とため息を吐いた葬は行動に移した。完全に保護者というか兄である。


「そんなに立つのが嫌なら俺がお姫様抱っこしてやろうか?」

「……それは嫌」

「お前迷ったろ今」


 歩いて行くエネルギーの消耗と、お姫様抱っこされて行く精神の消耗を天秤に掛けた結果。結は体力的な消耗を選んだ。

 結はすでに委員長にお姫様抱っこされているという事実は知らないでいた。

 仮に知ったとしたらそれはそれで受け入れそうではあるが…数日後には忘れていそうだ。気合いで。


 そして渋々立ち上がった結は会長達に続いて葬と共に保健室を後にした。


 残った一人。

 保険医和主はポツリ‥と。


「あいつ等二人は兄弟なのか…? 顔似てたな…」


 至極どうでもいいことを呟き軽く数10分ほど頭を悩ませたという。

 暇だったからというのもあった。

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