第47話 体育祭 4

 林子りんねが宣戦布告をして会長が地に伏したとき。親衛隊達から歓声があがる。


 君らの親衛対象じゃないのか…?

 対象が殴られても特に気にしていない…訳ではなさそうだ。涙目の生徒も見える。


 あ、転校生来た。うん、まあそうだよね。誰だって友達が平手打ち食らってるところ見たら駆けつけるよね――転校生が会長達とは友達と言っているのをいつだったか忘れたが聞いた――。殴られた側がよっぽどのクズ男とかじゃない限り。


 会長が平手打ちを食らったのを見るなり転校生は会長を心配して駆けてきた。

 ついでに転校生が行くならと会長をさして心配していない面々もついてきた。会長…。


 そんな近寄ってくる面々を見るなり好戦的ににらめつける林子りんね


 そして会長を叩いた事に対する文句を転校生が言う。


「おい! なんでそんな事するんだ! ちゃんと謝れよ!」


 アヤマレヨ…あやまれよ…謝れよ…。

 ………正、論?

 言葉を理解するのに時間を要しながら結はしばし何が正しいのか考えた。主に転校生のこれまでの行いを振り返っているのだろう。


 そして転校生の言葉が頭にきた林子は目尻を吊り上げ更に鋭く睨み言った。


「何でかって…? 元はと言えばお前が原因なんだよ!!」


 転校生の言葉に耳を疑うように聞き返したかと思えば早口でまくし立てるように早口で言った。口調からかなり苛立っていることが伝わる。


 結の隣に立つ赤史は”情緒不安定やな~”と呑気に言うので結は思わず真顔で吹き出した。変なところでツボる結だった。

 そんな結に”え?笑った?…え?笑った?”と困惑する赤史。

 こちらはこちらで少し騒がしかった。


「ぽっと出の素姓もわからない、顔も分からないお前が、ずかずか口を挟んで! ~~ッ生意気!」


 途中で何を言っていいのか分からなくなるぐらい頭に血が上っているのか、振り絞るように悪役のような言葉を吐き捨てた。


 その言葉に言い返そうと転校生一行が口を開こうとしたとき、一人の生徒が口を挟んだ。


『ちょちょちょっ待って待って! 総隊長様!? いきなりそんなこと言われても困るんですけど! こちらも事前に用意してきた流れを急に変えるなんて…このお祭りを滅茶苦茶にするおつもりで!?』


 口を挟んだのは司会席に居た生徒。生憎オレは彼の名前を知らなかった。

 司会の生徒はマイクを持ったままで、全て声は拾われている。

 そしてそんな司会の生徒をゲシッ‥と横から蹴りを入れマイクを奪う大国。

 痛そう。


『面白そうじゃァねぇか。いいぜェ、多数決で決めれば文句はねぇだろ。なァ?お前ら』


 大国はそう言ってマイクを校庭に並ぶ生徒たちに向ける。テンションが上がっているのかサングラスを外していた。

 そんな彼に歓声を上げる生徒たち。


 みんなノリがいいな…。オレは暑くてそれどころじゃない…。


 結がバテているのはだんだん日が昇ってきているからである。


『よし。多数決を取る。コイツ林子恭の考えに賛成の奴は手を挙げろ! 一度しか言わねェからな』


 その言葉にシュバッ‥!と手を挙げる一般生徒たち。中には勢い余って両手を挙げているものもいた。それで二人分になったりするのか…?


『ほぉ。もう決まったようなモンだが、念のため聞く。この戦いに反対の奴は…?』


 一人も話すことなく静寂が辺りを包む。


『決まりだなァ』


 そう言うなり赤史の親衛隊員らしい司会の生徒にマイクをバトンパスする大国。大国に蹴られて痛めていた脚をさすりながら困惑した表情でマイクを受け取る司会の生徒。


 余りの扱いに周囲の生徒は同情…するわけではなかった。むしろ楽しそうなことになりそうだと胸を躍らせていた。


 ”クッ。薄情な奴らめ…”と、まるまる顔に出ている司会は気を取り直してマイクを握り締めて立ち上がった。


『ふぅ。まったく…一番滅茶苦茶なのはこの人じゃないか…』


 全くもってその通りである。

 後方で”その通り”だとばかりに結は深く頷いた。

 しかしその言葉が聞こえていたのか司会の生徒はまたしても大国に脚を蹴られていた。


『イテッ!……とんだパワハラだよまったく…いえ何でもないですスイマセン! オッホン。えーでは只今を持ちまして、体育祭は本来の流れを変えて親衛隊VS…えっと、なんの一団と呼びましょうかね? 何か意見ある人~?』


 司会の質問に、”まりも隊”とふざけて叫ぶ者、”生徒会一行”とオレも含まれていそうな事を言う者。”台風の目”などの割と的を射ているようなものなどが話に上がった。


『ふんふん…なるほどなるほど…うーん…閣下どれにします? …え?台風の目?オッケーでーす!』


 軽い。ノリが。


『気を取り直して…親衛隊vs台風の目の対決です! ではバトルスタート!…と、行きたいところですが。警備体制や体育祭の流れを見直す必要があるので、一時間ほどの小休憩挟みます! 皆さん木陰やテント、校舎で休んで下さい。時間になったら放送致しまーす』


 その言葉を合図に一般生徒達は各々好きなように動き散り散りになっていった。

 かく言うオレは、開会式の時に、校舎と朝礼台の方に来ていたのでバリバリ日の光が当たり瀕死である。目の前で会長が倒れるという光景を目にしても少しぼーっとしていてリアクションが皆無であった。


 すると横から声が掛かった。

「おい…大丈夫か?」


 白いキャンパスに青い絵の具を塗ったかのような白と青が合わさったような髪の生徒が結に声をかけてきた。


そう…」

「ほら、保健室行こうぜ。直ぐ其処だしよ」

「うん」


 彼はオレの親衛隊隊長兼付き人の葬。ちょくちょく話に上がっていたが登場といえる登場はしていなかった人物である。


 彼は結にとって見れば幼なじみだが、兄貴分的な目で見ているところもあった。幼い頃から葬は同い年ながら頼れる兄のようだったのだ。例え唯一信用する姉に恋していたとしても。


 因みに会長を大勢の前で叩いた林子りんねは風紀に見逃される筈がなく、連行されて行った。果たして彼は体育祭に出ることは出来るのだろうか。


 会長は転校生が駆けてくるのを見るなり何事も無かったかのように立ち上がっていた。本当にタフだな…。


 それにしても叩かれるほどに不満をため込むとは…親衛隊との間に何か問題があったのか…。

 疑問に思ったが、それはこの体育祭改め戦いで解る気がしたため、何も言うことは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る