第38話 閑話 しょうもない喧嘩(の割に過激)
なっげ。
何時もの3倍ぐらいの文字数…。
なんか楽しくなっちゃって…。by作者
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~
――それは去年の事であった。
あれはオレがまだ生徒会に入る少し前の出来事。
その日オレは一人、担任教師に頼まれた書類を抱えて廊下を歩いていた。
書類の量が、些か1人で持つには多すぎる気がしたが、それは持ち前のガタイの良さを生かして落とさないようにしている。
まぁガタイが良いだけで鍛え抜かれた筋肉がついている訳ではないので数分後には腕が小鹿の足の様になっていることだろうが…。
実は担任に書類を頼まれた時。赤史に手伝うと言われたが、断った。赤史はつい最近赤点を取っていたので。
アイツは一つの教科だけがてんでダメなのか、高確率で赤点を取る。何故かかけ算は全て満点だというのに、別のものが絡んでくると、とんでもない数字になっている。
なので現在アイツは教室で補習を受けている。窓から夕日の光が差し込み外からは部活中なのか快活な声が聞こえてくる。アイツは無事にかけ算以外を覚えることは出来るのか…オレは沈みゆく夕日を見ながら数少ない知人のことを思った。
途中、親衛隊達に持つと言われたが、それも断った。彼らの時間を奪うわけにはいかないと思ったから。
――いや本当のことを言うと、見返りが怖かったのだ。
この頃の自分は今よりも人を疑って、そのくせ頼ってしまえばオレは今後何を失うのかと思っていた。
まぁ今では人を使うことの方が彼らが喜ぶと分かったので、人手が必要な時は力を借りているが。オレに頼みごとをされてあんなにも喜ぶのは彼らぐらいだ。
さてこの両腕に抱えている書類だが、生徒会に届ける為の書類らしい。だからこんなにも難読な字並びなのだろうか。
生徒会室だが一階にある。
特殊な部屋は揃って一階に集まっているのだ。
唯一の例外として食堂は別の建物としてある。
前にも言ったかもしれないが、生徒会室は職員室を挟んで風紀室がある。その方が色々早く進むそうだ。オレが現在書記になった切っ掛けでもある先輩に教えてもらった。
生徒会室が近づくにつれ、人通りも少なくなってきた。
そのことにソッと息を吐く。此処に来るまでに視線がこれでもかと集まって突き刺さっていたのでいい加減我慢の限界だった。
目的地である部屋のドアをノックする。
”ガチャ”
出てきたのはオレより一つ上の学年の先輩。そして当時生徒会長を務めていた
そして、何故かオレを書記に勧誘しまくる先輩だった。まぁ生徒会に入った切っ掛けの人ともいう。
「書類…届け…に、き、ました」
「お? 氷鎧だ」
はい、オレですが何か。
まだこの頃は今より他人と喋り慣れていない時期の事だったので今より聞き取りづらかったことだろう。
しかしこの反応はなんだ。よくわからないと自分の中の自分が答えた。だよね…オレだもの。
「ちょうどイイところに来たなァ。アレ見てみろよ」
そう言って大国越しに生徒会室の中を覗くが、誰も居ないぐらいで何かおかしなところがあるようには見えなかった。
「…?」
「ああ…こっからじゃ見えねェか…」
そう言って入れよと続けて言われてしまえば、断る事もできず、失礼しますと呟くと部屋へと入室した。
大国についていき窓際まで来ると、校庭が見える。
「アレだよアレ。面白いコト起きるだろォなぁ」
「…はぁ」
ため息とも困惑とも取れる声を出しながら促されるままに校庭を見ていると、二人の生徒が下駄箱のある方向から出てくるのが見えた。
そして視界の端にもう一人。
初めに出てきた二人はこの1学年どころか3学年の方にまで広まり渡り、名が知れ渡っているという有名どころの二人であった。名前は確か…
――この頃のオレは二人の下の名前までは流石に知らなかった――
そして二人の後ろから呆れたような顔を隠しもしないで優雅な歩きで此方の方に歩んでくる生徒がまた一人。
こちらもまた有名どころの一人。名前は
天辺は二人から離れてこちらに歩んでくる様子であった。時期生徒会委員候補と噂されているが、本人はやりたいと思っているのかは彼自身にしかわからない。
そして天辺が生徒会室の窓の前で立ち止まると窓をノックした。恐らく開けろという意味だろう。
”ガラッ”
そしてオレが窓を開けるなり天辺は言った。
そう、オレの方を見て。
「手を貸してください」
「……?」
オレ?
すると思っていることが伝わったのか、それとも顔に出ていたのかは知らないが、天辺は頷いた。
そして不意に浮遊感がオレを襲った。「…ぇ」と突然の出来事に目を白黒させるとすぐに浮遊感は収まり、地面に足が着いた感覚が戻り安心する。
どうやら大国がオレを持ち上げたらしい。一瞬の早業であった。一瞬の間にオレは窓の向こう側――校庭の方へと出ていた。
おかしいな…身長は同じほどの筈なのだが…。これが鬼の末裔の力か…なにか負けた気がした。
しかし先ほどの出来事に一切慌てることなくいる天辺を見て、オレも直ぐに平静を戻した。慣れているのかな…。
そしてオレをジッと見つめる天辺にオレはどうすればいいのか聴いた。天辺が真剣な顔で見つめてきていたからだ。
「これから起こる騒動に備えて欲しいんです。具体的には校舎を守るように対処します。それに私だけの力では恐らく足りないので…あなたの力が必要です。もう一度言います。手を貸してください」
「わか、った」
なにやら緊急性がありそうだ。側に居た強いと評判の大国ではなくオレに言ったのなら、オレでなければいけない条件があったのかもしれない。
仮にそうでなくても、クラスメイトの切羽詰まった願い事ぐらい手伝おう。オレに出来ることならば尚更だ。――まぁ、これでオレが何か困ったときに手を軽く貸してくれるかな…という、少しの打算もあるのだが…。
そうして詳しい事情は後回しにしてこれから起こるという騒動に備えた。
そして先ほど二人の生徒が校庭の中央の方へ向かったことを思い出した。そして自ずと答えの一欠片が見えてくる。恐らく彼らが今回起こるという騒動の中心人物なのだろう。
そしてそれは途轍もない轟音で始まった。
”ドオオォォォォッッン‥‥!!!”
一迅の風がオレたちの間を駆け抜ける。顔を庇うように咄嗟にオレたちは腕を前に出した。
すると凄い勢いで突風と共に砂利が校舎やオレ達に向かってくるのが見えた。
だが、それは天辺によって防がれる。
天辺は風神の力によって、校舎と騒動の発生源である元凶との間に能力を使って、迫り来る砂利の猛威を防いだのだ。
それを見て、オレの役目を察した。恐らく大国に頼まなかったのは、彼が怪力系で、飛んでくる数々の物を防ぐのには向かないと思ったのだろう。
よく頭が回る人だと思った。きっとこういうところが生徒会に必要なのだろう。いや、ますます大国がオレを勧誘する訳が分からないが。
この学園の校庭にはほとんど物という物は置かれていない。
置かれているのはデカい倉庫に妖怪の姿として身体を動かしたい生徒の為に用意されてた岩や池などが広い校庭の隅に置かれているぐらいである。
しかしそれが仇になったのか、倉庫は此処から遠くにあり、とても守れそうにない。すまぬ。オレの力では校舎側しか守れないみたいだ。
そして騒動の中心人物である二人はというと、妖怪の姿となっていた。
片や額に角を生やし、オレとはまた種類の違う白髪に、もはや人間には見えない人外の人型。その姿は正に鬼だった。
片や天狗の面を着けて顔が伺えない黒髪の人物。カラスの様な漆黒の翼を背に生やす下駄を履いた人型。
どうでもいいことだが仮面は邪魔ではないのだろうか…。天狗のような見た目をした者の方を見て思った。
少し目を離した隙に二人はあの状態であったためか、この頃のオレはどちらが誰なのかも分からない状態であった。それどころではなかったというのもあるだろうが…。
二人を観察している間も、もちろん校舎を守るために動いていた。
オレは飛んでくる大きな瓦礫を主に対処していた。どこから飛んでくるんだこんなもの…と思っていたが、校庭の端にあった岩が減っているのでそれだろう。
拳だけでなく岩を投げているのかと衝撃を受けた。――なお、物理的な衝撃は氷を此方からも勢いをつけてぶつけ、相殺するようにして対処している。
オレが大きい衝撃となるものを粉砕し、飛び散る砂や砂利、風を天辺が風を操り校舎まで行かないように緩衝材の役割をしていた。
しかし範囲が広すぎるため、オレ達二人も妖怪の姿になってでも校舎にだけは被害が出ないように動いた。
――妖怪の姿だと能力が使い安くなるのである――
この時オレは何のためにこんな事をしているのだろうと思っては隣に居る天辺の必死そうな顔を見て頑張るかと思い直し、また何をやっているのだろう自分…と思っては天辺を見て…を繰り返してやっと終わりが見えた。
風紀が来たのだ。
終わりが見えなければオレ達二人は力を使い果たして保健室に運び込まれていた事だろう。
この頃の風紀委員長は咲江木ではなく、今ではもう既に卒業した卒業生で、オレは余り知らないが、委員長として優秀だったのは見ていてわかった。
何故なら二人が妖怪の姿で殴り合っていた間に入り、人間の姿で仲裁したのだから。
殴り合いをしていた二人を止めたかと思えば二人にゲンコツを食らわせているのが遠目に見える。痛そう…月並みな言葉が浮かんだ。
そして視界の端でふらりと倒れる人物が見え、慌てて頭をぶつけないように肩を掴んだ。倒れたのは
恐らく妖力――妖怪の力の源――が尽きたのだろう。人間の姿に変化するのも難しいぐらい消耗したらしい。
生粋の妖怪であるなら妖力が尽きれば命の危機だったろうが、そこは妖怪の末裔で良いところが出てくる。妖力が尽きても気絶するだけですむのである。これは妖怪の末裔ならではのことだろう。
オレは平気だ。ピンピンしている。オレの唯一の取り柄で、妖力の量だけは姉にも勝るぐらいだ。まぁ、体力は無いがな…。
直ぐに人間の姿…と言ってもオレの場合はどちらにしても人型で、髪色以外だと服装ぐらいしか変わっていないので紛らわしいが、人間の姿に変化して、黒髪から白髪に戻る。
この情報はいるのか疑問だが、オレの妖怪の姿の時は和服だ。というか大抵の妖怪が和装だろう。あの戦っていた二人も、オレのような浴衣の様な服では無いにしろ、和服のようだったし。
天辺は妖怪の姿のままだ。と言っても、人型であることには変わりは無いのだが…。肌の色だけが違った。
綺麗な黒髪はそのままだったが、人間の姿の時は白かった肌は、今では赤褐色の色になっている。
まぁ妖怪の姿なのだから人間の姿と違うのは当たり前なので、普通の事なのだが…何故か本人が辛そうな顔をしているのかが少し気になった。
まぁ聞きはしないが。
オレは辛そうな顔をする天辺が、妖力が枯渇しているからという理由でそんな顔をしているという解釈をする事で、知らない振りをした。
……この人分かりやすいな…。大丈夫か? あからさまにホッとしている顔をしている。天辺はどうやら自身が気にしているということはバレたくないらしい。
オレは自分が巻き込むのも御免だが、巻き込まれるのも御免だ。
こういう暴動?の騒動は比較的早く済むし、後腐れは…騒動起こした本人等が一番気にすることなので被害を抑えていた他人のオレには無い。
だが、人の気にする事を下手につつくと今後学園で暮らしていく上で、障害になりうる。なるべく穏便に済ませたい。――まぁ葬(結の付き人兼親衛隊隊長)は入学して暫くして暴力沙汰を起こしたようだが…本人曰わく正当防衛らしい。
もう手遅れな奴は放っておくとして、今は彼を保健室に連れて行こう。幸い暴動?を起こした二人は風紀委員長に連れて行かれたので既に校庭には荒れ果てた地しか無かった。
校庭可哀想…無機物でも付喪神になるように、意思が宿っているかもしれないのに…まぁ仮にそうだとしても、先ほどの騒動で致命傷だろうな…と無情にも思った。
さてこの貧弱な腕(自分の腕のこと)でどうやって保健室まで運ぶか…それが問題だ。
するとスタッ‥と身軽な足音が聞こえた。
そちらを向くと大国がこちらに一瞬で迫っていた。
なっ、瞬間移動、だと…?
「俺が運ぼう」
そう言って天辺を背負った。この人やはり瞬間移動して…!
と、半分冗談半分本気で大国の動きの速さに目を疑っているとスタスタと大国は歩いて保健室の方に歩いて行った。
置いていかれた…。
保健室は生徒会室と同じく一階にある。
…ので、比較的近い場所に保健室はあった。
大国が送ってくれるならばオレは行かなくても平気だろうが少し気になったので出遅れながらもついていく。
――人はこれを心配という――
そしてその後、妖怪が枯渇しただけで命に別状は無いとのことで、無事自分の足で立てるぐらいに回復した天辺はオレに礼を言って多少ふらつきながらも寮へと帰った。まぁオレも一人部屋なのでそこまで一緒だったのだが。
途中ダッシュでオレに突進してきた葬についてだが、柔い雪玉を投げ当てる事で不問にする事にした。柔い雪にしたのはせめてもの優しさだ。身長変わらないぐらいの奴から突進されたら誰だってバランス崩すよね。
慌てていた理由は敵襲かと思ってオレを探していたらしいが、見つからず。終いには風紀委員に勘違いで取り押さえられていたのだという。なにやら騒動に乗っかって、葬も喧嘩に加わろうとしたように見えたらしい。
え、何? あれ喧嘩だったのか…。この頃のオレはその時初めてアレが喧嘩であったことを知った。
まぁ葬については完全なる日頃の行いというやつだろう。いつも喧嘩しているらしいし。本人も――咲江木と林道とはまた違う――喧嘩を繰り広げていると言っていた。
なんかライバルも出来たらしいし。楽しそうだな…コイツ。エンジョイしてるな…良いことだけど。
そんなこんなで誤解を解いたらしいが、その時は慌てていたせいで襲撃ではないことに気づかなかった様だ。
なんか怒るに怒れないな。突進してきたせいで頭を打ったが不問にしようと、第二撃目として打ち込もうと雪玉を持ち掲げていた腕をソッと下げた。
天辺についてだが、葬が突進してきた時には既に寮部屋に戻っていた。早く休ませた方が良いだろうと先に送っていたのだ。
話はすんだとばかりにオレはバイバイと寝ぼけ始めた頭で葬に手を振り振り返ることなく自分の寮部屋のドアを開けて占めた。扱いが雑なのは幼なじみだからというのもあるのだろう。
そして即席のふかふか雪ベッドを作りそこに寝た。多分数時間で溶けるが、ちょうど夕飯頃の時間になるだろう。床がベチョベチョになる心配は無い。何故ならオレの作ったベッドだから。
そうして騒がしくも校庭が半壊した事件は幕を閉じたのだった。
――――
―――
――
そして夕飯頃になり目を覚ました結は昼に比べると比較的静かな食堂で赤史と会った。
あの赤点を取った赤史だ。
赤史はやつれた顔をしており、思わずどうしたのだと聞いた。
天辺に聞かなかったのにも関わらず、赤史には聞いたのは、聞いた方が面倒が少ない相手だからというのもあるし、単に付き合いの長さの差でもある。
どうやら赤点を取って教室で補習を受けて居るときに外の騒動が気になって見ていたら、赤史のいる教室に岩が飛んでくるのが見えて、心臓が止まるかと思ったという。
目を瞑って衝撃に耐えようとしたが待てども待てども衝撃は来ず、何事も無かったかのように轟音だけが聞こえてきたらしい。
そして何回も勢いよく岩が飛んでくるのが見えては一瞬で消えを繰り返し、幻覚を見ているのではと思ったらしい。
赤史…ごめん、それ、オレかも。と、心の中で謝った。
いや、岩投げたのはオレでは無いけど。むしろ守った方だが。
なんかやけに集中して飛んでくる箇所あるなとは薄々思っていたが、赤史の居る方だったのか。ツイてないな、赤史。
その日オレは申し訳程度に赤史に定食についていた唐揚げを2つ贈ったのだった。
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