第37話 聞き取り終了

「いや…そうすると、なんで…オレが居るって確信してなかった…?」

「居る確証が無かったから…か」


 誰かがオレたち姉弟が居ることを外に居る人物に伝えたのだと仮定すると、オレが居ることは確定として来る事になり、戦力もかなり必要になるはず。オレ達はタダで捕まってやる訳がないのだ。


 ということは偵察? いや、あんな堂々と監視カメラに映っているし…あったとしても下っ端か…


「捨て駒か…」


 その可能性が高そうだ。

 そして捨て駒とバッサリと言い切るところが実に委員長らしい。


「現実で捨て駒言ってるの初めて聞いたわ…」


 委員長の言葉に対して赤史が零す。


 まぁいくら考えた所でそれが答えという訳ではない。それよりも他に被害を出さないように対策を練る方が先決だ。


「そうだな……。学園内に不審者がでたという情報を予め流しておいて、自己防衛させるか…?」


 これは…どうなんだ? 自己防衛の行動を取らせるのはいい。というかもともと不審者というか変態が多く居るこの学園でそれは必須だ。やっぱ変わってる狂ってるなこの学園…。


「でも不安になる奴も多いんやないか?」


 赤史の言うことももっともだ。不安は人を暴走させる切欠になり得る。別の被害が増えそうだ。


 しかしだからといって外から警備を回してもらっても、敵が紛れているかもしれないという疑心は生まれる。まぁこれは不審者のことを知っている奴だけかもしれないが。


 いや、オレが疑い過ぎなだけなのか…。


「どちらにしろ、風紀体制を見直すか……」

「仕事しとる…とても学生とは思えない…」

「失礼な。これでも青春しているぞ」

「ほんまに?」

「ああ」

「じゃあ…例えば?」


 悪い顔してる。赤史は別ににやけている訳ではないが悪い顔をしているのは確かだ。


「そうだな…」


 委員長は何か考えるように目を伏せた。そして目を開いたかと思えば「秘密だ」と言ってウインクした。


「え、意味深…!」

「ウインク…した…?」

「俺もウインクぐらいするぞ…」

「(青春…学園…恋愛…? え、もしかするともしかするかも! ふぅーー!!)」


 初めて委員長がウインクするのを見た。というかそんなキャラだったか…?

 そして赤史。心の声がダダ漏れだ。


 だがこれだけは言わせて欲しい…。


「赤史。青春といえば殴り合い、だよ」

「心を読んで…!? っていや物騒!」

「おい、此処は保健室だぞ。静かにしろ」


 やけにキリッとした顔で語る結の顔は凛々しかったと、後に二人は語る――しかし物騒な物言いに思わずツッコミを入れる赤史に、そのうるささに苦言を呈する委員長。正論であった。


「そうやったわスマン…っていやいやスルーしたらアカンやろ! どこの不良漫画やねん!」

「拳で語るおとこ

「拳で語る漢…?」

「こ、拳で語る漢がなんなん…? そういう漫画があるんか?」


 その言葉に首を振り否定する。


「殴り合いといえば拳…って葬が」

「あんの隊長か!!」

「道理で物騒な言葉を使うわけだ…」


 ウチの子になにしとんねん! とばかりに嘆きながら納得する赤史。だが、どちらかといえばウチの子と言うのは葬の立場である。


 かっこいいだろ拳で語り合うって…と結は二人の反応に不満を持った。


「…ああでも、拳っていうと去年を思い出すなぁ」


 しばらくして落ち着いた赤史が思い出すように言った。


「あぁ…委員長と会長の…」

「頼むから忘れてくれ…」


 オレもつられて思い出し呟くと委員長が顔を覆った。


 まぁその反応も分かる。何故なら喧嘩の理由がよくあるお菓子のキノコかタケノコかでもめ始め、段々とヒートアップしていき最終的に相手の気に入らないところを言い合うという、典型的な喧嘩をしでかしたのだ。


 そしてオレと副会長に多大な負担がかかった事件だ。


 実際のところ。典型的なのかは疑問だが、よく揉めていそうな印象はある。そもそも何故その話に至ったのかが地味に気になる。だって会長と委員長がたけのこの里かきのこの山について話すなんて誰が想像できるだろう。想像すると笑えるけど。


 さて委員長弄りも程々にしてそろそろ話を終えよう。傷も既に治っているのだから此処に居続けるのも悪いし。


「話を戻すけど…オレの護衛は、付けなくていいから」

「…分かった。だが氷野にはお前についてもらうからな」

「うん」


 何か言いたげだったがその言葉を飲み込むかのように返答する委員長。


 これから暫くは風紀が忙しくなるだろう。いや今までも忙しかったか…。新迎が終わったばかりで忙しいというのに大変申し訳ない。今度何か差し入れしようか。


 良くも悪くも目立つ書記という役職持ちのオレにいきなり風紀委員が側につくようになったら色々言われそうだし、何よりも人手が万年不足している風紀なので、人員を借りるのは忍びない。


――なによりも。

 オレは誰かを信用する事が出来なそうだったから。


 人手を借りるのは仕事としてでなければ難しそうだと思ったのだった。

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