第39話 閑話 しょうもない喧嘩(の割に過激) 別視点

天辺あまべ伊兎いとside~


 ふじ(現風紀委員長)と山音やまね(現生徒会長)がくだらない事で喧嘩を始めたのは、何時もの事でした。


 しかしそれをめんどくさがって止めなかった私が居たのもまた、いつものことだった。


 ですが今回は何か違かった様で、彼らは言い争いながら校庭へと出て行きました。恐らくですがそれが唯一の理性だったのでしょう。


 彼らは何時もより殺気立っているようで、私の声に耳を傾けることもしません。これには流石に腹が立ちました。


 しかしそれと同時に嫌な予感がした。


 なので校庭へと出て教室に居る生徒の中で役立ちそうな生徒が居ないか目を凝らした。しかし放課後で、しかも部活中の生徒がほとんどで、教室に生徒は見あたらなかった。


 そしてふと生徒会室の方へ目を向けると、二人の生徒が見えた。


 それが大国と氷鎧だった。

 私は迷わずそちらへ歩を進めた。


 何時もと違う空気を纏う藤と山音に冷や汗が流れた気がしたが、見ない振りをして大国と氷鎧の下へと向かった。


 此方に気づいたのか大国が此方に向かって指を指しているのが見える。それにつられて氷鎧も此方を見た。…長い前髪で見えないが。


 そして彼らの下につくなり私は窓をノックした。すると瞬時に私の意向を察したのか氷鎧が窓を開けた。


 それを見るなり今後必要になるであろう人手を選出し、直ぐに氷鎧に助けを求めた。


 これは藤と山音を止められなかった私の責ですが、今はそんな事言っている場合ではなさそうだ。それに嫌な予感がずっとしている。


 二人が本気で戦えば、周りは怪我では済まないでしょう。念のためもしもの時は頼むように大国に視線で訴えかけておく。


 すると何をどう捉えたのか、大国は氷鎧を猫を抱き上げるように持ち上げ、此方の校庭側に一瞬にして運んだ。


 持ち上げられた本人は何が起こったのか理解出来なかったのか、ピタッと動きを停止しており、やっと動き出したかと思えば視線を彷徨わせた。


 思ったことが態度に現れるタイプなのかと思った。


 しかし今そんな事を考えている場合ではないので気を引き締める。


 私は正直に手を貸してほしいと言いました。時間がありません。


 そして彼は直ぐに了承してくれました。


 余りにも説明不足なのにも関わらず、手を貸してくれる…なんていい人なのでしょう…とは、思わないのが私です。


 正直軽く手を貸してくれることに疑心を持った。


 本来であるならば、こんなこと…お願いする立場で言えることでは無いだろう。


 それでも生きてきた環境が私をそうさせた。


 まぁ今回ばかりはそんな事を考える暇も無さそうですが…。


 早速衝撃波に備えるために二人で準備した。


 そして不意に突風が私達の間を駆け抜ける。


 私はとっさに妖力を操り、風を操ることで、校舎への被害を少なくした。それを見て学んだのか氷鎧が風の結界の手前で瓦礫と同じほどのサイズの氷柱を作り出し、勢いよく飛んできた岩を相殺したのが天辺の視界の端に映る。


 なるほど…と上から目線で思う。彼が生徒会に勧誘されるのも分かる。あの少しの間で相手の意図を察するとは、全員が全員出来ることではない。


 それに何よりも、能力がずば抜けていた。


 私は固体ではなく気体を操っていますが、彼の場合、固体でしょう。固体は生み出すのに妖力を大量に消費するらしいというのに、あの速さで生み出すとは…かなりの実力があることが伺えます。


 まぁ私も引けを取るつもりはありませんが…。気を引き締めて風の結界を校舎と校庭の狭間に置く。


 そして急速に風の結界がじりじりと削れていくのを肌で感じ取る。校庭の中心では、鬼と天狗が殴り合い、嵐が吹き荒れていた。


 その衝撃の余波だけであんなにも地は荒れ果てている。


 私は…止められなかった。止めようとも思わなかった。


 きっとこれはそんな私への罰なのだろう。人間の姿から妖怪の姿へと変わる感覚がした。


 先ほどよりも幾分か余裕が戻ってきた事を実感する。


 私にとって最も忌むべき姿。


 できれば死ぬまで見たくもありませんでしたが…それが難しいことだというのは分かっている。これは私の未熟さから来るものだから。


 …どれくらい経っただろうか。


 もう妖力も殆ど残っておらず、今では殆どの防御を氷鎧に任せっぱなしにしているように思う。


 彼の横顔を伺うと、まだ余裕そうな顔…というには真顔であるが、余力は残っていそうであった。


 そのことに最悪自分が倒れても平気そうだと考えた。


 そして終わりはやってきた。


 風紀が視線の端に見えると同時に身体から力が抜けた。倒れる…と思うが思ったような痛みは来ずに肩を強く掴まれた。


 私がソッと目を開くと視界に白髪がチラリと映り、しっかりと目を開けば見慣れない顔が映りこんだ。


 なるほど…親衛隊が入学して直ぐに結成されたのも分かるな…天辺は納得した。


 彼は心配そうな顔をしており、加護欲をかき立てる表情をしていた。一見冷たい顔をしているように見えるが、この気持ちはどこから来たのだろうか…。


 彼は私の姿に何も言わなかった。その事にホッとした。


 何か言われても今の状態で何か上手く返せる気がしなかったから。


 そして意識が薄れていき、気がつけば保健室に居た。


 だが、暫く立てるようになるまで居させてもらって、そそくさと保健室から退出した。


 氷鎧さんは私を部屋まで送ってくれました。何故そこまでしてくれるのか疑問に思いながらも私は何も聞かずに部屋へと帰った。


 彼にいつか受けた恩を返そうと思いながら。



 こうして二人の喧嘩は風紀によって抑えられ、主に二人の生徒の協力によって校舎や生徒たちにまで被害が及ばずに済んだという。


 そうして夜は更け、騒ぎを起こした者を除き静かに眠った。


 だが、どこかでしくしくと泣き声が聞こえ、寝覚めが悪くなった生徒が相次いだという。


 天辺は翌日そんな話を聞いて妖怪の末裔が居るのに幽霊も居るのかと冗談抜きで思ったのだった。

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