第35話 付き人
赤史が号泣し周りを引かせるという技を披露してから少し落ち着いた。
「いや、技ちゃうし」
「泣き、止んだ?」
「いやそんな泣き止んだことが異常みたいな反応せんでも…」
「話し方は、元からだから」
「そうやったわ」
ほな聞き間違いか…と零して目元にタオルで包んだ氷の入った袋を当てているのを見守る。
そういえば赤史は感動映画で真っ先に泣くような人物であることを思い出した。最近観ていないな、映画。
映画というものも仲間と別れて初めて知ったモノだ。映画館に行ったことは無いが、どんなものなのかは少し気になってはいるところ。
「話を戻すが」
「うん」
「おう」
少しガラガラ声になっている赤史をスルーして話を進める。
「風紀委員長としてはこの学園に不審者、もとい不法侵入者が出たことが問題だ。それに学園の生徒にも被害が出ている」
よそからしたらそんな感じになるのか…大変申し訳ない。
「お前を責めている訳ではない。…まぁ最も、早くに教えて欲しかった思いもあるが…それも今更だ。対策を考える事が先決だ」
「うん」
それに強く頷く。
「学園長には既に知らせている。恐らくこの学園の警備が強まるだろう。後は…隣の
「それは…多分平気。姉さんが居るから」
「しかし…」
「姉さん、あっちで生徒会長やってるらしいし…」
「そうだったのか…流石に知らなかったな…」
まぁ関わる機会なんてそうそう無いしな…。
「それに…オレなんかより強いから…」
「……ッ!」
「え、結が卑下したら俺がくそ雑魚になるんやけど…」
結の言葉に衝撃を受ける二人。若干一名私情が出てしまっているが。
「…否定はしない」
「いやそこは何も言わずに流すとこやろ??」
ごめん…。
若干切れ気味な赤史の返しにしょげた。だがここで一番ダメージを受けたのは赤史である。
実際姉さんは文武両道で能力もピカイチで、オレとは比べ物にならないくらいに優秀だ。狙われる理由の一つでもあるのだろう。
「お前の姉は大丈夫なのか?」
オレたちのボケが総スルーされたがまぁいい。
「うん。強いし、それに付き人が居るから」
「付き人?」
「護衛兼世話役…?」
「なんで結が疑問系?」
「そうか…お前は居るのか? 付き人という奴は」
「居るよ」
「え! 誰やろ…」
「オレの親衛隊隊長」
「……?」
「あれ…空耳かな…」
二人して眉間に皺を寄せるのを見て、何か可笑しいことを言ったかと頭の中で首を傾げた。
オレの親衛隊隊長は名前を
幼い頃。まだ里でみんなと暮らしていたとき。彼は同い年にして体術に優れた才能を持ち、オレの付き人にされた。幼い頃のオレから見ても好きで付き人になったわけではないことは、ありありと見て取れた。
そんな無理に付き人にされた彼はオレにいい感情を持つはずもなく、全く言葉を交わすことも無かった。まぁオレが口下手だったのもあるだろう。
そんな微妙な距離感の最中、転機が訪れた。
幼い頃の姉さんは、まだ普通の少女であった。今現在はとんでもない変貌を遂げたがまぁ結果オーライだ。今は美女にイケメン要素を追加したみたいな人になっている。
そう、普通だったのだ。元は。
おままごとも服も、可愛いものも等しく好きな普通の子供だった。そんな姉に葬は一目惚れしたらしい。
幼い頃は姉とオレの顔はほとんど似通っていたので、多分中身も大事なんだろうなと、恋心とは不思議なものだと幼心に相談されて思った。
そして付き人という役目を恋心という気持ちが突き動かしたのか、葬は仕事にいつも以上に力を入れるようになった。オレが弟だからだろう。多分そこから姉の好意を受け取れればラッキーみたいな。
そこから話しかけられるようになった。まぁほとんど姉についてだったが、その頃から姉の事大好きみたいな子供だったので、嬉々として話していた。そこを気に入られたのかもしれない。
だが姉は成長するにつれ中身が男らしく…といっても口調や見た目は美少女というか美女なのだが…イケメン要素が追加され始め、里の女性にモテ始めていた。
そしてそんな彼女を見ると最近複雑な気持ちになるんだ…と零す葬が居た。因みにその頃齢10ほどである。そしてオレも同い年だ。恋とは人を成長させる要素があるのだと思った。
その頃オレは恋とは非常に難しいものなのだと彼の話を通して思った。彼は約5年ほど前から姉に一途に恋していたにも関わらず、姉の変貌(成長)ぶりを見て、複雑な気持ちになったようだ。
なお、姉がイケメン要素を追加した切欠は恐らくオレと入れ替わる為に行った変装である。だからと言ってオレが少女らしく成長した訳ではない。姉が変異種なのである。
そして姉が変装するきっかけは族長達の言葉がきっかけなので断じてオレのせいではない。
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