第34話 故郷
オレの…いやオレたち姉弟が生まれ育った里は、雪女の末裔にとって心地よい寒さの雪の降る地だった。
普通の人間がまず来ないだろう寒さの地。当時オレ達一族で生粋の人間を見たことのある者の方がまず少なく、オレもまたその内の一人であった。今では過去形になるが。
そしてそんな中、雪女の血が最も濃いと言われる血筋に生まれたのがオレたち姉弟である。
この里では女人が長である方が反発が少なく。運良く姉が先に生まれたために、いざこざは少なく済んだ。
そしてそんな折、人間がこの地に辿り着いた。
元々、大昔に人間に目を付けられた為に、拠点を転々としていたという。現在ではそこまで追いかけられることも減り、油断していたというのもあるんだろう。
案の定何も知らなかった、力も無かったオレたちは捕まった。
だが、直ぐに抜け出すことに成功した。――数人の仲間を犠牲にして。
逃げる事に成功した残ったオレ達は、たどり着いた先で拠点を作り出し、一族でも強いものたちを集めて仲間を取り戻しに行った。結果は成功したといえる。
けれど戻ってきた捕らえられていた仲間達は酷く憔悴した様子で…その頃小さかった自分には、何も知らされることは無く。捕らわれた先で何があったのかなど幼いオレには到底正解を導き出せるはずもなく、捕まればただ恐ろしい事が待っているのだと、ただ漠然とした恐怖を植え付けられた。
そしてそれから数ヶ月が経ち、また拠点を転々とし始めた。
そこではまた、どこから嗅ぎつけたのかわからないが何回も襲撃され、また一人、また一人と仲間が捕らわれていった。
ただでさえ少なかったといえる仲間は見る見るうちに減っていき、両手の指で数えられるほどになっていったとき。
族長である父と母は言った。
「お前たちだけでも逃げなさい」
「大丈夫。あなた達は一族の中でも強い子達。きっと生き延びる事が出来る筈よ」
そう言って二人と、二人を慕う大人たちは一緒に捕らわれた仲間の下へと行った。果たしてその試みが成功したかなど、今オレが此処に居る現状を見れば分かるだろう。
残ったのは幼いオレたち子供だけであった。
数は5人。
オレと姉。そしてそれぞれに付けられた付き人。
勿論姉に二人。オレに一人だ。
残されたオレたちは、まず学校というものに行くことになった。教養はあったために、成績を納めることが出来たが、突然来た異彩を放つ5人組は目立った。
まず髪色が違う…というのもあったのだろう。全員人間の姿で白髪だ。
だが一番の原因は妖怪の血。
小学生の頃は興味を誘う塊だったのか寄ってたかってきていた。
中学生の時。知性を付けて常識を身につけ始めた彼らはオレたちを化け物のように扱った。
それでも耐えられたのはひとえに姉達が何も言わずに共に居たからだ。別に何を言われようと自分の事を知っているのは姉さん達だけだと思っているから耐えられた。
そして高校に入れる年になったとき、姉の付き人の一人である
現在姉に付けられた付き人である彼女たちは、女子高の方に姉と共に居る。そしてオレに付けられた付き人は現在オレの親衛隊隊長をしている。曰わく護りやすそうだったから作ったそうだ。
現在怪我して保健室に居るため護れていないかもしれないが、この学園では守られているといえる。
それに、今日はオレが完全に気を抜いていたというのもあるのだろう。ただでさえ体力が無いのに消費してしまったのが敗因だ。無駄に心配させてしまう結果になってしまった。
しかし何故小学生や中学生の時に子供だけだったにも関わらず、今こうしてこの場に居れているのかというと。ひとえに人目の多さと、姉達の強さによるものだと思う。
それに5人の内誰かが捕まれば、直ちに無事な者が助けに行き、何としてでも逃げ延びた。復讐など二の次で…。相手方もわざわざ人目のあるところで子供を攫うようなことはしないようだったのが救いか。
だがまぁこんな話をそのままどうぞとばかりに話すのもアレなので、大分言わない部分もあったが、狙われている理由と相手の情報を伝える。
「オレ達が狙われているのは…雪女の末裔だから、だと思う…。特に姉さんが狙われてて…。それでオレたちはここに来て、学園を隠れ蓑にして少しでも安寧を得るために来た…結局、見つかっちゃったけど……。アイツ等は…”敵”は、多分人間だけじゃない。妖怪の血が流れている奴も居るんだと思う。それもかなり強い。……ごめん…コレぐらいしか知らないんだ…」
”敵”という部分で思わず声に力が篭もってしまったが仕方のないことだろう。
そしてそう言って話を終え二人を見ると、対称的な顔をしていた。一方が号泣。一方が顰めっ面して唸っている。オブラートに包んで赤史の顔が凄かった。
その顔に横で唸っていた委員長もギョッとしていた。
「す、凄い泣いてる…」
「ああ…」
「二人じで引”くな”よぉ”~」
整った顔が台無しになるぐらいに泣いている。思わず引いた。ごめん。
「ごめん…顔が凄くて…」
「ああ…」
「顔が凄い”ってな”んだよぉ”~」
何気に簡単な言葉しか言ってないな、委員長。転校生一行を正座させた勢いはどこ行った。
その後暫く赤史は泣き続け、オレたちは和主保険医にヘルプを呼びかけ、タオルを貰い、暫く赤史が泣き止むのを待つのであった。
というか何気にこんな騒がしかったのに先生が何も言ってこなかったのが不思議である。空気を読んだのだろうか…。
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