第33話 聞き取り 2

「では聞こう」


 その言葉にオレは始めに…


「あの、まずは、姉さんに連絡してもいい…?」


 出鼻を挫くようで悪いが、彼らに話す前に話しておいた方が良いと思ったのだ。あの姉が簡単に捕まるとは思えないが、絶対とは言えない。早めに伝えることに越したことはないのである。


「…そうだな。怪我が治ったことも言った方がいいかもな」


 了承を貰ったことでその場で電話をかけてみる。そしてワンコールもしない内に相手は出た。

 姉はいつも授業中だったり仕事さえしていなければ大概ワンコールで出る。凄い反射神経だ。


『結? どうしたの、怪我は大丈夫だった?』

「うん平気。…姉さん」

『…何かあったのね』


 オレの一言で何かを汲み取ったのか、すぐに聞いてきた。


「今日、オレたち姉弟を捜してる奴がこっちに来た」

『そう、なのね。…まぁ持った方よね』

「うん。姉さんも気をつけてね」

『ええ、それはもう。あなたの方にはアイツが居るから平気でしょうけど…気をつけてね』

「うん。…そういえばなんだけど。オレたちを探していた奴がドンピシャでオレに目をつけたんだ。オレが氷鎧結だとは気づいてなかったけど」

『それはまた…バカだったのかしらね…』


 確かに。顔も知らずに探し人を捜し当てるのは至難の技だろうに。…もしくは下っ端だったか。


「何にしろオレが氷凱結だとはあの時点で気づいてなかった。だから多分少しの時間稼ぎぐらいにはなるから、姉さんも備えておいて」

『分かったわ。…ところでなんだけど、あなたを傷つけた奴の特徴はなんだったかしら?』


 ゾワリ‥と栗毛がたった。ゾッとするほどの冷たい声。

 とにかく質問に答えなければいけないという思いに縛られる。


「…妖怪の姿しか見てないけど、腕が何本もあった。最低3本以上。黒装束着てて服で腕が隠れてたせいで何本かはわからなかったよ」

『そう。ふふふっ。わかったわ。早く怪我治すのよ。じゃあね』


 ブツッ‥と呆気なく切れた電話を見て思わずため息を吐く。

 なにげに笑い声が楽しそうだったのが逆に恐怖であった。


「終わったか?」


 すぐ近くにずっといたが、空気を読み静かに待っていた二人に向かって頷く。


 二人は少し目を見開いて話を聞いていたのは電話で話しながらも見えていた。オレが普通に話しているのが珍しいというのもあるんだろう。


「あんなスラスラ話してるの初めて聞いたかも…」


 赤史の思わずといった風に零した言葉に、委員長は頷いた。


「そう、だっけ…?」

「一年とちょっとの付き合いだけど無かったなぁ」

「まぁ、来年頃には、多分、普通に話してると思うけど…」


 やはりこういう話し方は聞き取りにくいものか…。慣れてしまえばどうってことは無いかもしれないが、普通に話した方が伝わりやすいのは当たり前だ。少し申し訳なく思った。



 委員長が質問しオレがそれに答える形式で、先ほど姉に話した内容を伝える。


「ごめん…家の厄介事、持ってきて…」

「ああまぁ、それはこの学園ではよくあることなんだが…お前の場合…余りこの学園を頼ってなかったようにも見える」

「…うん」


 頷いた。委員長の言うことは当たっていたから。

 

「オレのする事は、時間稼ぎ」


 質問に答えるようにも聞こえるが、オレからしたら独り言。


「不始末は、自分で」


 ”片を付ける”と言外に二人の耳には聞こえた。


 この時、その場の時間が止まったかのように話を聞く二人は思った。


 何故ならまるでそれが使命だとでも言うように真っ直ぐなその目が二人を見つめているように見えて、別の場所を見ているようだったから。


「それに…」


 二人から目をそらし、自分にかけられていた白い布団を見つめる。言葉は二人に聞こえないほどに小さく、もはや口を動かしただけにも見えた。


「頼る資格なんてオレには――無い」


 下を向き呟いたことで何を呟いたのかは二人に聞こえなかった。

 また結もそれを呟いたとき、無意識に言ったことだったのか、自分が言った言葉は一瞬で頭の中から消え、何かを言ったことすら忘れてしまった。


「「結/氷凱?」」


 様子が可笑しいと思った二人は結に声をかけた。その声にオレははっとして顔を上げる。


「ごめん…」

「なーに謝っとるんや。別に謝らんでも、自分から首突っ込んだんやし、何かあっても自業自得や。俺の場合」

「そうだな。俺も風紀委員長としてだけでなく、咲江木藤として、首を突っ込んでいるところもある。気にしなくていい」


 オレが謝ったことが巻き込んだことに対してだと思ったのか、励ますような言葉を受ける。ただ反射的に言ってしまった言葉なだけに、申し訳なさが再び心に残る。


「うん」


 空気を読み、オレはそう返したのだった。

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