第32話 聞き取り

 目が覚めてから数分。


 首の怪我も耳の怪我も殆ど治った感覚がする。


 赤史がオレの傷口があったと思われる場所を見てとんでもない顔をしていたせいで、思わず変な笑いをこぼしてしまった。


「くっ…ふふ…w」

「え、笑ってる…? あの結が!?」


「ふぅ…」

「いや笑い収まるの早過ぎなんですけど??」


 秒で笑いが収まった結に悔しそうに、残念そうな顔をしてツッコミを入れる赤史。そしていきなりハッとしたかと思えば写真におさめることができなかった…と肩を落とす姿に、何を撮ろうとしたのだろうと思った。


 …まさかオレか…?

 いや自意識過剰か…いやでも状況的にオレか…?


 まぁどっちにしろいいか。


「赤史は……あ、オレが捕まえたんだった」

「そやでー忘れたんか?

 あ、聞いて欲しいんやけど。あの後体育館戻ったんだけど、めちゃくちゃいい笑顔と共に拍手されたんよ。怖くない?」

「…何かおめでたい事あった?」

「いやぁ…? あ、でもいい写真は沢山撮れた!」

「そっか。良かったね」

「うんうん。ちゃんと結の勇姿も撮っといたからな!」

「それは要らないかな」


 即答である。


 自分の写真とか…正直余り見たくない。

 撮ってくれた赤史には悪いが。


「別に気にせんでもええよ」

「…顔に出てた?」

「いや? まぁこれは俺が好きでしてることだから別に気にしなくても良いと思うんやけど。結も別に撮られんのが嫌な訳じゃ無いだろ?」

「うん」


 ただオレは写真に映った自分の姿を見るのがただ単に嫌なだけだ。


「なら撮る分には万事オーケーやな!」

「著作権とは」

「クッ、コイツ痛いとこ突いてきよるな…」

「…まぁいいけど」

「いいんかい。自分を安売りし過ぎやないか?」

「別に…悪用しなければ」

「(コイツ悪用のこと分かってなさそうなんよな~)」


 何故か世間知らずと思われている気配がしてムッとした。


「はっ、いかんいかん。誤魔化されるトコやったわ」

「??」


 何かを思い出したように真面目な顔を作る赤史に首を傾げた結。


「なんで怪我してたんや、結」

「……。」


 圧が凄い。思わず黙ってしまった。


 そして何か言おうと口を開こうとしたとき、保健室のドアの方からノック音が聞こえた。


「失礼します」


 その声と一緒に入ってきたのは風紀委員長である咲江木であった。

 二人してそちらを向く。


 委員長を呼んだ張本人でもある和主はというとデスクについてコーヒーを飲んでいた。


「目が覚めたか」

「はい」


 念のため敬語を使った。何が念のためなのかは自分でも分からないが。


「話を聴きに来た」

「はい…」


 やはり話さなければいけないようだ。……いや此処は喜んだ方がいい、か。何が起こるか分からないのに、彼らに何も話さないでいるなんてこと、オレには出来そうにない。対策を考えなければ。


「そういえばだけど此処までお前運んだのソイツだからな~」

「え、そう、ですか…。ご迷惑、お掛けしました」


 ぺこり‥とベッドに座った状態で礼をした。それに気にするな、と委員長は返して話を続けた。


「傷は治ったか?」

「もう少しで完治、ですかね」

「そうか」


 ホッと息をつく様子を見て、首が血だらけの状態を見られたのだろうと思い当たる。そう思うと少し申し訳なく思った。


「見るに唐斗も怪我の理由を聞きたいのだろう?」

「ああ」


 真面目な顔をした赤史が頷く。


「海保険医。此処で話しても平気でしょうか?」

「ん? まぁ他に誰も居ないしな~途中で他の生徒が来たら流石に止めとけよー」


 それを了承と受け取った委員長は頷き此方を振り返った。


「では聞こう」


 そうして聞き取りは始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る