第30話 目覚め 2
パチリ‥目が覚めた。
オレンジ色の光がカーテンから入り込み、暖かな気持ちになる。
なにやら声が聞こえた気がしたが、眠かったので二度寝を決め込もうとする。が、聞き馴染んだ声が聞こえ、まるで本に描いたような母の様だと思った。
あと5分と零せば的確なツッコミが入ったことにひとまず満足し、潔く起き上がった。
「おはよう」
「いやいやマイペースが過ぎるて」
「?」
「まぁ…ええか。おはよう」
しょうがないといった顔で挨拶を交わし、さりげなく起きあがるのを背に手を添えて支えた赤史に少し衝撃を受けつつも礼を言って起き上がる。
別に補助が無くても起き上がることはできただろうが、楽が出来たことに変わりはないのでいいのだ。ただあまりにもさりげなく支えてきたのでコイツは将来活躍するだろうとずれたことを思った。
「傷は? 痛くないか?」
和主の代わりにそのまま聞いてしまう赤史。
そう聞かれたオレは首にソッと手を当ててツキリ‥と痛む感覚に内心眉を寄せる。
「紙で軽く切った、みたいな痛みがする」
「マジか。やっぱ妖怪血が濃いせいか…? 流石に治るのが早いな…」
「え、これより酷い怪我してたんか…?」
前の二人の会話とも呼べない会話に結が今よりも酷い状態であったと察してしまった赤史。
にもかかわらず話を続ける二人。
「立てるか?」
「はい」
「じゃあ点滴も早いとこ外すか。別にお前には必要ないとは思ったんだがな、過保護な奴がつけろって煩くてなー」
その言葉に首を傾げて赤史を見るが、首を振っているため違うらしい。誰だ?
その疑問に答えるように和主は言った。
「お前の姉貴だよ」
「え”っ」
「え?」
上から順に、和主、結、赤史である。
今まで聞いたことのない濁った声を出す結にどうしたのだと言うように頭からハテナを飛ばす赤史。それに構わずオレは疑問符で頭が一杯になっていた。
何故まだ連絡していないのに知っているというのか、何も知らないハズの人物が知っているという事実に一瞬体が震えた。その人物が自身の姉というのもあるのかもしれないが。
「なんで…」
「あー。お前の姉貴に、”弟に何かあったら私に連絡してください”みたいなこと言われたから、身内だし、心配してんだろうな」
「そう、ですか…」
姉さんは此方の教師といつの間にか連絡を取っていたらしい。いつの間に…。
うん、怖い。我が姉ながら。
どうやらオレは怖がりだったようだ。
おかしいな…誘拐されても冷静でいれたのに。まぁ家に無事帰ったら滅茶苦茶泣いてたんだけど。
「新入生歓迎会は、終わった…?」
「ああ、そのことな。うん、終わった。結は5位だったわ。おめでとさん。まぁ上位者が貰えるヤツは惜しくも無理だったけどな~。ドンマイ!」
器用にウインクしながら何故かグッジョブと親指を出してきたので、その指をガシッと掴み、本来曲がらない方へと少し傾けた。
衝動的に。
「あいたたたたっ!」
「…ごめん、イラッときて。つい」
「いや、謝って済むなら風紀もいらんわ!」
赤史はパッと放された指をさすり、痛みを和らげようと自分で指を握った。
「風紀もいらない…あっ警察もいらないってのと同じ意味か。巧いなー」
一人和やかに学生二人の会話を聞いていた和主が感心したように零した。
「これあげるから。許してね」
そう言って結が渡したのは一つのビー玉のように透き通った小さなキーホルダー。
「? なんやこれ」
「御守り」
「何故に??」
「最近、物騒だから」
「こんな大胆な自虐初めて聞いたわ…」
じと目で結を見つめた後に、ふと手に乗ったキーホルダーが氷のように冷たいことに気づく。
「これ…もしかしてだけど…」
「うん。オレが作った」
「多才やな~」
もはや真面目につっこむ事を諦めたような目でキーホルダーと結を見る赤史であった。
そしてそんな二人を見つめる人物がいた。
「…先生も。あげる」
「ホントか? 今更無しとか言うなよ?」
「生徒相手に何言っとるんやこの人…」
ジッと二人を見ていた和主の視線に耐えきれずに作ることを伝えた。ぎゅっと右手を握り締め、赤史に作ったものとは違う形の物を生み出した。
作り出したのはボールペン――のオブジェ。
教師がキーホルダーを付けるのは難しいのではと勝手に思ったのもあるが、生徒とお揃いは何か不味いのではと思ったからである。
オレが作り出しているため、この世に唯一無二と言えるのだし。まぁオブジェなので使えるわけではないが。
因みに。
「普通に持ち歩いたら、1ヶ月で溶けるから」
「またか…」
「なん、だと…?」
「先生は…保健室に居ること、多い、から…。多分2ヶ月は保つ…?」
恐らく…多分…。
最後は先生に向かって言ったためか、急に王道ワンコらしい片鱗が見えた結だった。
だが最終的に溶けるという事実が初耳の和主はかなりの衝撃を受けたようだ。和主はよくプレゼントを貰う方であるが、氷を貰うのは初めてであったために、心が踊っていたのである。
当然の事だが、氷は溶けるもの。ただそれだけのことなのだ。
「あ、風紀呼ばなきゃだったわ」
ふと思い出したかのように和主は呟き、電話の方へと歩いて行った。
そういえばオレの鞄無事かな…。
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