第28話 新入生歓迎会終了後
~?視点~
ざわざわとした体育館。
そんな大衆の前で壇上下の脇にマイクを持つ生徒が居た。
『では結果発表です!』
”うおおおおぉぉぉ!!”
と司会の言葉に合いの手を入れる生徒達。
『では始めに鬼陣営のランキングです! 前のモニターをご覧ください!』
壇上の白い段幕に映し出されるランキング。それは今回最も人間を捕まえた鬼が上に立ち、また逆に少ない者は下の方に映し出されている。
『おっとぉ。今回の目玉の一つである氷鎧様はなんと5位! スタミナが無いという事ですが、本当でしょうか? 上位にランクインしていますね! では次に…――』
と、ランキングの感想を面白おかしく話していき、次に人間側のランキングが表示される。
『今回生き残ったのはなんと生徒会の5人に加えて3名の生徒! 合計8名が生き残りました! いや~去年に比べて大分生き残りましたね~。去年は本当に凄かった…。あ、今年も凄かったですけどね』
とってつけたようにお茶目に言う司会に笑いが体育館に広がる。一部不安の表情を浮かべていた生徒も居たが、気づく者は少なかった。
『はい、ではちゃっちゃと表彰を終えたいと思います。何でか分からないけど早く終わらせろと閣下が言っているので…いやワタクシ放送委員じゃ無いんですけどね…え?お前が話した方が面白くて盛り上がる? ぐへへ…照れる…。あ、閣下じゃありませんかどうしたんですかそんな素晴らしい顔を浮かべて…え、早くヤれ? いや戦いじゃないんですから…あ、はい。スンマセンデシタ…。』
壇上の脇でごちゃごちゃとしながらも会話はマイクを通り体育館に響いていた。
『ん?あれ、もしかしてマイク通ってた?』
数人の反応を返してくれた生徒が肯く。
『やっべ。んじゃ表彰です!』
本音をこぼして無理やり軌道修正した司会。また笑いが体育館を包んだが、次には歓声で一杯になっていた。
けれどもそんな明るい空間で不安そうな顔を浮かべる生徒は居た。彼らは頭に氷鎧の姿を思い浮かべていたのだ。かくいう司会をしている生徒も氷鎧の姿が見当たらない事をなんとなく感じ取っていた。
仮にも生徒会であるなら体育館にいれば何人かの視線がそちらへ行くのである。
しかし生徒会の面々が並んでいる席には氷鎧の姿は無かった。
『えーでは。鬼陣営の上位者3名の方は壇上へ上がって下さい。』
気を取り直した司会者が段幕に映る上位者の名前を呼んでいく。呼ばれた生徒達は壇上へ上がり立ち並ぶ。
5位である氷鎧の名前は呼ばれなかった。
『捕まえた方々への”お願い事”は後ほど配られる紙にそれぞれ書いて下さい。風紀が確認するのでくれぐれも変なことは書かないで下さいね~。鬼が玄関の前に立っているかもしれないので。あ、ガチめの方のですよ? 書かれた”お願い事”は誰がとは言いませんがお届けしますので個人個人ですませてください。あ、言っておきますがお届けする人物は絶対に探そうとしないで下さいね! どうなっても知りませんから、ホント。いや彼、引き籠もりなのでちょっと人見知りなんです。怒ると面倒なので怒らせないでね!』
しれっとホラーなことを言う司会に、ホラーが苦手な生徒は震えていた。
『鬼陣営諸君! 楽しんだかぁ!? よし、頑張った君らにはご褒美だ! あ、コレ俺が考えた言葉じゃ無いんであしからず』
直ぐに落ちをつける司会。壇上に立つ鬼陣営の生徒は今か今かと待っていた。
勝者に渡されたのは一枚のカード。
三位の者には銀色の紙。
二位の者には白銀色の紙。
一位の者には漆のような黒色の紙。
それらがそれぞれに渡された。
どれも上等な紙で、和紙と思わしき材質だ。何か書かれているが読むことはできず、流麗な字のようだが模様のようにも見えた。
渡された本人等は首を傾げて紙を見ている。
『この紙は――実は俺もよく知りません。』
その言葉にどよめく生徒達。
『まぁまぁ安心してよね! あの閣下が言うんだから凄いことが起こる…? いや良いことが起きる? ……まぁお守りみたいに思ってね! じゃっ』
次々~と誤魔化すように人間陣営の生き残った生徒を呼び出す。…鬼陣営の生徒は納得いっていない顔をしていたがしぶしぶ壇上を降りた。
一部閣下誰だよとこぼしていたが、黙殺されていた。
『ではお次は人間側の生き残り! 去年は全滅でしたが今年はなんと8人の生存者! 豊作ですね~。その中でも生徒会の皆様が生き残るとは…流石ですね!』
その言葉に脇の特別席に座る生徒会役員の約五名は当然といった顔をしていた。また、親衛隊も同じような顔をしていた。
『人間陣営の褒美は皆さんも知っての通り、指名で一名選ぶことの出来るというもの。何をお願いするかはTPO(時間・場所・場面)を考えて言ってね! 閣下に怒られちゃうからね!』
だから閣下誰だよ…と話を聞いていた生徒たちは思った。
『では人間側の生き残りの方は壇上にお上がり下さい。』
一般席から三名の生徒が立ち上がり、壇上へと上がる。生徒会が動く気配を感じないのは同じ場所に立つことすら許せない厄介な者も居るためである。
防げる問題は未然に防いでいたのだ。
『はい! では早速右の方から指名する人間を言ってもらいましょうかね。公開処刑? あはは、変なお願い事をしないという予防ですよ。物騒な事言わないで下さいよ~』
若干目を濁らせながら言う司会に少し引く人間陣営の生き残り達。
何があったというのだろう。
『えー副次的な特典は鬼の上位者と同じですが、生き残った事自体が奇跡なので8名全員にブラックカードをお渡しします。怪しいものは入ってないので安心してねー!』
余計怪しいわ、と生徒たちは心を合わせた。
そして先に指名して”お願い事”を一足先に叶えた3名の生徒は一足先に元の席へと戻った。なんだかんだいいながらも3名は満ち足りた顔をしており、他の生徒から
一部異彩を放っていた”お願い事”は筋肉を触らせて欲しいというものであった。
なお、餌食になったのは会長である。南無。
『さぁ! 最後の受賞者です! 生徒会の皆様方は壇上へお上がり下さい。』
そうして会長を先頭にして壇上へと上がる一行。その際、生徒会の座っていた専用席(兼特別席)に目を向けた生徒が書記である氷鎧の姿が見当たらない事に疑問を持ち始める。
これには赤史も疑問符を上げるように片眉を上げた。
『では始めに会計である
順番は完全に司会の気分であるようだった。
そして会計が指名したのは、転校生ではなく自身の親衛隊の隊長であった。
そのことに意外‥と思わず零す生徒もいた。何せ皆てっきり転校生を選ぶのだとばかり思っていたのだから。
それならばと生徒たちは期待した。
他の役員に選ばれる可能性が見えたから。
けれどその思いも一瞬で砕ける。
何故ならば、他の役員が揃いも揃って転校生を指名したからである。
唯一違ったのは会長であった。
指名したのは咲江木風紀委員長だった。
そのことにざわつく生徒。なおこの時咲江木は保健室で保険医と話している所である。
しかし会長の”お願い事”を聞くなり司会は大慌てでNGを出した。
何故か?
それは会長が委員長を殴らせろと言ったからである。
遂に頭が逝ったのかと副会長は心の中で思ったが、口には出さず、むしろ自身も副委員長の姿を思い描いていた事を周りは知らない。人のことを言えないだろうと結が居れば思ったことだろう。
堂々と暴力を行おうとしている会長に一年生は呆然としていた。むしろ二、三年生はあーうんうんとばかりに去年を思い出していた。
何せ去年は乱闘があったのだ。
そのせいで校庭は1ヶ月使うことができず、多大な被害を学園にもたらした。なお、この騒動は二人がトップへと登り詰める前の出来事である。そして衝撃はそれだけでなく乱闘後、本人等は無傷であったという。
今、トップに居るのはひとえに二人の人望と優秀さ故。
この騒動の際は現副委員長は居らず、その時中学3年だったがために居なかったが、居れば確実にこの騒動に乗っかって副会長と空で戦っていただろう。(お忘れかもしれないが副会長は風神。副委員長は雷神の末裔である。)
そんな光景を思い出す二、三年生。全員遠い目をした。
きっと思だしたくないことも思だしたのだろう。
『あーっとこれは…え? 本人が良いと言えば良い? 絶対ダメだって…無茶だって…。』
閣下と思わしき人物と話す司会。
『というか風紀委員長どこやねん…』
思わずどこかの誰かと似た口調になった司会者。
そこで壇上に上がっていた転校生が疑問を零した。
「なぁ、結は居ないのか??」
近くに居た生徒会の面々に聞く転校生。そのことに眉を寄せる面々。
「それがさ~鬼ごっこ終わってから見てないんだよね~」
と声を下げて他の生徒たちに聞こえないよう話す会計の貴鳥。
「ああ、
「ちょっと、めったなこと言わないで下さいよ」
「「そうだよー」」
会長の言葉をとがめるような声で言う副会長に、賛同する庶務の双昏兄弟。
彼らは転校生に気を取られてはいるものの、何だかんだ言っても仲間意識を持っている。去年からの付き合いでも今年からの付き合いでも、結は立派な生徒会の一員と認識されているのだ。
そんな彼らをジッと見つめた(?)転校生は唐突に…
「オレ、
とのたまった。
呆気にとられた周囲だったが慌てて止めに入る。
「なんだよ! おまえ等も気になるんだろ! なら良いじゃないか!」
壇上で騒ぐ転校生にひたすら冷たい視線を向ける者も居れば、その言葉に納得を示す者も居た。
そこで体育館の後ろにある出入り口が控えめに開かれる。
そこには咲江木の姿。その事に気づいた者からざわめきが広がり、やがて全体に広がる。
『あーっとえーっと、ちょうど良いところに風紀委員長が来ましたね! お聞きしたい事があるんですが良いでしょうか』
そう聞く司会者に頷く委員長。
『えーとではまず一つ目に、あちらの会長様が指名で咲江木委員長を選びましてですね…曰わく殴らせろ、とのことです。断っていただいても当然大丈夫ですからね』
微妙に聞きづらいと思ったのか、司会は氷鎧の話題を後回しにした。さして違いはありはしないというのに。
「そうだな…」
壇上に居る会長達を見上げる。
「殴り合いならいいぞ」
しれっとした顔で言う咲江木に司会が思わず「い、いいいんですか!?」と噛みまくりで聞き返した。
「殴り合いなら、な」
つまり一方的に殴ることはさせないと。当然の結果であった。
「ふっ、遂に貴様と決着をつけるときが来たようだな」
「ああ、前回は邪魔が入ったからな…(まぁ許可も無いのに暴れたからだが…)」
なにやらただならぬ因縁があるようだと新入生一年は思った。
『あ、あの~。』
「「なんだ?」」
気まずそうに司会が口を挟む。二人が同時に返事を返したことで余計に圧がかかっているように感じた大衆。二人と会話することに気まずさを覚えた司会者であった。
『氷鎧様はどうされたのでしょうか?』
「ああ…元々それを知らせに来たんだった。アイツは今、保健室で寝込んでいる。鬼ごっこ終了時に外に倒れていた。」
その言葉を聞きざわめきが広がる。中には泣きそうな顔をしている者も居た。
「恐らくスタミナが切れたんだろう。」
その言葉にあからさまにほっとしたような空気が漂う。結は学園で癒やし系の一人であるためか、皆過保護気味な様である。なお、結にスタミナが無いことは周知の事実であった。
――なお本人は体力は無いが運動神経は良いと堂々と言っていたという。
咲江木は嘘は言わなかったが、言葉が足りていなかった。
血生臭い事になっていたなんてことを知れば、せっかくの一大イベントがそれ一つで台無しになってしまう。それは避けねばならなかったからだ。
ひとまず信じてくれたことにホッとしながら、その事をおくびにも出さずに早く結が目覚めるのを願う咲江木であった。
これにて新入生歓迎会は終了…かと思いきや、最後の最後に転校生が結のお見舞いに行くと騒ぎ出し、それを生徒会面々が止め、壇上の上でごたごたとしながらも幕を閉じた。
――なお数時間後保健室に訪れた転校生一行だったが、五月蠅いという理由で保健室に入れて貰うことは出来なかったという。
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