第27話 怪我人

~?視点~


 バタバタと駆ける音が保健室の前で響く。


 ガラッ‥と勢いよく横開きのドアを開けたのは体育館で待機して風紀委員たちに指示を出していた風紀委員長、咲江木であった。


 彼の両腕には横抱きにされた意識の無い白髪の生徒。


 恐らく足でドアを開けたのだろう。ここのドアには彼の様に両腕が塞がった状態で来るものが多々いるためにドアの足下の部分に窪みがある。そのため容易に開けることが出来るのだ。


かい保険医!」


 普段冷静沈着と評判な彼が焦ったような声でこの部屋の主を呼んだ。


「おーどうした…って、氷鎧!?」


 珍しく慌てている風紀委員長をなだめるつもりで緩い言葉を返すが、彼の腕の中に居る生徒の容態を見るなり血相を変えてテキパキと咲江木に指示を出す。


 白髪の生徒。氷鎧は、首の辺りを血で染め、右耳からも血が流れ、右耳から右頬にかけて砂利がついている。申し訳程度に首もとに置いてあるハンカチは血まみれとなり役目を果たして最早使い物にならなそうだ。


 和主は咲江木に氷鎧の上の服を脱がせるよう言い、その間に包帯や消毒液などの準備をする。


 一般生徒であれば怪我人の服を脱がせる役目など頼まないが、風紀委員長である咲江木であるならば怪我人の対処の仕方は心得ていることだろうと思ってのことである。


 直ぐに準備が整った和主はまず首の傷から見た。


 ハンカチを退かすと血は流れておらず、乾いている途中のようだ。傷口に薄く氷が張ってあり、それが血を流れるのをせき止めている。


 それを見た和主は暫くは大丈夫と見て、首についた血を拭って右耳の傷を消毒した。


 手早く目立つ傷を塞ぎ終えた和主は他に傷が無いか確認した。


 すると腕に手形のような痣があるのを確認した。それ以外に傷は無さそうである。


 ひとまず一番の致命傷となる首の傷がどうにか出来そうなことにホッとする。これなら針で縫うことは無さそうだ。首の氷がいつ溶けるか分からない為早い内にガーゼと包帯で巻いておく。


 ひとまず終わった事を咲江木に伝えた和主は道具類を仕舞う。


「それで? 何があったんだ? この学園で殺傷性のある刃物を持ち歩くことなんて許可されて無かったハズだが」


 そんな和主の質問に結の眠るベッドの脇の椅子に座る咲江木が頷き答える。


「それは今風紀の者に調べさせています。丁度体育館裏で、俺が体育館に居たにも関わらず気づくことが出来なかった…。あそこには体育館に風紀委員が複数居るからと高を括って人員を配置していなかった。気づいたのは監視カメラを確認していた風紀からの連絡のお陰です。」

「で、結局犯人は?」

「…捕まってません。」

「おいおいそれはやばいんじゃねぇの?」

「ああ…」


 自分の責だと咲江木は眉根を寄せた。


「腕が複数ある妖怪ということは監視カメラで分かっています。が、それ以上のことは分からない。酷かもしれませんが、氷鎧が起きてから話を聞くことになるでしょう。」

「ま、そうだよな…」


 暫く沈黙が二人を包むが、直ぐに咲江木は立ち上がり、和主にこの場を後にすると言った。


「ひとまず氷鎧の容態は回復の見込みがあることを報告してきます。コイツの親衛隊…だけではないが、ざわついていると思うので。落ち着かせに行きます。」

「おー風紀も大変だな。おし、コイツのことは俺に任せとけ!」


 自信満々の顔でそう告げる和主に「お願いします。」と丁寧にお辞儀をした咲江木は直ぐに保健室をあとにした。


 ドアが閉まったのを見ると、視線を氷鎧の方へと向けた。


「全く前回は唐斗だろ? お前ら怪我し過ぎだろ…仲良く大怪我してきやがって…」


 まったくしょうがない奴らめ…という顔で氷鎧の眠るベッドの横の席につくと手形の腕を見る。


 病的なまでに白い肌に痛々しく残る痕に無意識に眉を寄せる和主。


 雪女の末裔ではこの肌の色は普通らしいが、やはり心配になってしまうのは、保険医として当然のことだった。


「物騒だなぁ~」


 しかし自分の役割は保険医。

 それ以上でも以下でもない。


 不用意に人の事情に首を突っ込めば、どうなるかわかったことではない。特にここは他に比べて訳ありが集まっている。


 今日もいつもと変わらず静かな保健室でちまちまと自分に出来る残りの仕事を行う和主であった。

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