第25話 奇襲

 残り時間後5分。


 残り時間わずかとなり人間側も見かけなくなってきた。

 体育館の近くに居るからか盛り上がる声が体育館の中から聞こえてくる。


 オレの足は棒きれのように疲れきって僅かに震えている。

 やはり無理に走ることはよくないな。


 少々走ることへの言い訳のようだったと自分でも思うが実際今オレは今すぐにでも寝転がってしまいたい気分だった。

 もう風呂に入ることすら億劫で地べたでもいいから眠りたい。


 結は現在、キレのある動きを見せた親衛隊達を見送りのっそりと酷く鈍い動きで歩いていた。疲れているのも関わらず歩いているのは止まれば直ぐに足の力が抜けて立っていられなくなることをうっすらと解っているからである。

 そのため歩きながらうつらうつらとしており、今にでも立ったままでも寝てしまいそうだ。


 ドローンは残り少なくなった人間を追っているため鬼である結には憑いていなかった。


 体育館に居る親衛隊達は愛しの人たちを映せ映せと鬼に捕まってから何十回も繰り返しているため、いい加減鬼の忍耐袋も知らず知らずの内に破れそうな危機に瀕している。


 大人しい者でせいぜい知り合いが画面に映っていないか目を凝らすだけで親衛隊達のように目を血走らせてはいない。

 温度差が酷い体育館であった。


 そんな盛り上がってるな…としか寝ぼけた頭で考えていない結は先ほど見ない振りをした(足音)恐怖心を忘れていた。


ジャリ‥


 そう、迫り来る足音と共に結は夢から醒めるかのようにハッとした。…が完全に脱力していた体はあっという間に倒れこみ、背の高さも意味を成さず砂利の上に倒れ込んだ。


 …口に砂利入った…最悪。

 ぺっ、と唾と纏めて口に入った砂利を掴まれる腕に構わず吐き出す。


 誰だと首を捻ろうと動かすがガンッ!と割と強めに頭を押さえつけられた。


「ッ…!」


 痛い…絶対耳に傷出来てるだろ…。

 意外と頭は痛くないが横を向く顔のせいかお陰か耳が貴い犠牲となった。いや顔面地面に擦り付けるよりかよっぽどいいんだけど。


 しかしこんな状況にもかかわらず、何故こんな冷静なのかといえば、オレの気質といえる。


 幼い頃に散々泣いていたせいか、感情を出し切ったかのように今では慌てることにすら体力を消耗すると思い、感情はしっかりあるが表に出にくくなったのである。


 さて、こんなことを言っている場合ではないことは明白だ。


 これでも親衛隊持ちで役職に就いている生徒はこの学園で比較的大切にされる。のにも関わらず、今のこの状況。


 意味が分からない。


 え、ホント何事?

 と思うがピンと先ほどの足音の事を思い出す。

 

 転校生か?

 そう思った結だったがその考えは直ぐに否定されることとなる。


「動くな」


 その言葉と共にヒヤリとした(恐らく)冷たい物体が触れる。


 いや動くもなにもオレはもう動けませんけど??(半ギレ)


 そうなのだ。

 既に結は力尽きていたのである。


 見たら分かるだろう?と心の中で圧を掛けた。まぁ口に出してないから意味ないのだけど。ケッ、と言わんばかりにむっすぅ‥と眉を寄せた。


 しかし動くなと言われただけで話すなとは言われていない。(屁理屈・正論)ので、話す。


「だ、れ?」


 頭を押さえつけられているせいで話しづらいが口の端を上げて無理やり話す。


 ギチリ‥と後ろ手に掴まれた腕が軋む。


 痛ったっっ!え、痛い。普通に。

 骨にひび入ってる?いやちゃんと調べないと分からないけど。


 未だ耐えられる程の痛みな為か、結はまだキレる余裕があった。


「黙れ。お前は俺の問いにのみ答えればいい」


 委員長来て!速急に!この人絶対不審者です!!


 かつてないほどに元気よく(心の中で)大声を出す結は話の通じない相手に遂には死んだ魚のような目をした。


 疑ってごめんね転校生。

 というかあの子どこ行ったんだろう? 途中から視界に映らなくなったような気がする。あの恐怖の足音の正体はコイツか?


 聞こうにも聞く耳もってなさそうなんだよな…。


 なんでオレがこんな目に遭っているんだと真面目に考え出そうとしたところ。それを遮るようにオレの上に乗っている男が言葉を発した。


「お前は氷華ひょうかの一族を知っているか?」


 ピクリと地面に面している耳が反応した。

 それが見えていない男は反応無しと見て、次の質問を続けざまにした。


「では氷鎧ひょうがい姉弟は?」


 結は長い前髪の下で切れ長の目を見開いた。


 その反応を見て何かしら知っていると見た男は更に体重を掛けて重圧を与え、圧を掛けた。


「どこだ。何処に居る!」


 首に当たる何かが首に食い込む。ピリッとした痛みが一瞬走った。


「はな、す、わけ…無い、だろう?」


 ああ、こいつの質問に答えてしまった。


 何だか可笑しくて今にも笑い出しそうだ。ああ、本当に面白い。目的のモノは目の前に一つあるというのに全く気づきもしない。


「っ…何が可笑しい!」


 くつくつと身体を震わせるオレに声を荒げる男。


 あれ、そういえばコイツ、オレの手も頭も抑えた上にナイフ(?)も首に突きつけている状態ではないか?え、待って、腕何本あんの?と、妖怪の末裔という考えをどこかへとやった結は真面目にそんな事を一瞬だが思ったのだった。


 だが当然そんな事を考えている場合ではないので直ぐに思考を切り替える。そして男が狼狽えている隙に掴まれた両腕の手のひらを無理やり男の方へ向けて勢いよく雪を放射した。


 まぁオレの作り出した雪なので手加減はしている。骨は何本か貰ったかもしれないが。


 突然の大量の雪に受け身をとることもできずに直撃した男は勢いのまま体育館の壁にまで雪と共に流された。


 今オレがやったのは火炎放射や水鉄砲などの程よく勢いのある攻撃力のある技(?)である。


 しかしタイミングをミスしたのか首に添えられていたナイフが刺さり、首の傷が悪化したが敢えて氷で塞ぐことはせずポケットに入っていたハンカチで止血する。意識すると余計に痛みを感じそうな為、意識は男へ向けたままだ。


 いや、若干痛みが主張し始めている為、早く解決したい。


 しかし先ほどの即席雪放射は生温かったのか、男は直ぐに立ち上がり、戸惑った声と共に獲物を捉えた目をした。


「なっ…お前まさか…」


 その言葉を待っていた。


「二人…には、手を出さ、せない」


 至極真面目な顔をしてオレは言った。


 ――嘘を、だが。

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