第24話 チベスナ顔
気合いを入れ直してから数分。
「はぁっ…はぁっ…」
息を切らして走る。
オレは軽く目の前が暗くなるような気持ちに陥っていた。
そう。
結は忘れていたのだ。
―――自身に体力が無いということを。
いやぁ参った参った。
これでは捕まえられそうにないな…。
いやだからこそ去年のように漁業の如く頭を使って
能力を使ってもいいとはいえ、走り続けることが出来なければ逃げる側、人間を見失う。
しかしどういうわけか。彼らは固まった状態で逃げている為、見逃すことは今の所無さそうではある。
まぁ彼らは彼らで楽しそうに走っているので良いのかなと思……いや待て、何故自ら当たりに行く???
…い、今起こったことを有りのまま話すぜ!
まずオレは誰かが怪我をしないように、氷ではなく雪を作りだし、柔らかめなものを作る。それをオレは頭上に作り、程々の高さから降らせることで自然に勢いをつけさせて落とす。
それで足止めしようと思っていたのだが…。
まさか彼らが自ら当たりに行く動きを見せたため、思わず別のところに雪が行ってしまった。
いやうん、知ってたけどね…。
彼らが一種の変態だってことは。
でもさ。当たりに行くこと無いじゃん。
危ないよ? ホントに。
そんな事をオレが考えているとも知らずに彼らは若干残念そうに既に地面に落ちた雪玉を見つめていた。キミら兄弟か何かか?
全員同じ動きをしていた。ちょっと怖かったとは口が裂けても言わないけど。
流石オレの親衛隊と言うべきなのかコレは…。
後ろから迫る足音も怖いし、もう何か嫌になってきた色々。
因みに。
恐らくではあるが後ろから聞こえる足音は転校生だと思う。見ていないから分からないが。
結は自身の身体が少し震えていることを見ない振りをしていた。
主に後ろに迫る誰かのせいである。
若干長い白い前髪の下で、結の目が少し潤んでいた。
まぁ長い前髪のおかげ(?)で誰も、結自身すらも気づいていなかったので誰も倒れる者は居なかった。多分見られていればそれこそ地獄絵図が体育館に広がっていたことだろう。
しかしただでさえ体力が無いというのに走る足を止められないという地獄が今結を襲っていた。
妖怪の末裔だからってホラー耐性があると思うなよ!と半分キレながら、また半分は半泣きで自棄のように頭の中で盛大に喚いた。
そんな震える心も親衛隊の様子を見るなり一周回って冷静になる。
オレの震える心に連動していたのか、辺りはまた雪まみれとなっており、その下に親衛隊の彼らが居たのだ。
なにしてんの??
彼らのあまりの姿に走っていた足もいつの間にか止まり、走ったせいで荒くなっていた息も気にならないぐらい衝撃的な光景にオレの顔はスンッとなった。
いや待て。彼らがやらかした訳ではないかもしれない…。もしかしたらオレが無意識のうちにやってしまったのかも…。
よくよく彼らを見てみると、酷く幸せそうな顔で目を瞑って寝転がっている。
こいつら示し合わせたかのように同じ動きにポーズを取っている…だと!?
結は自身の親衛隊達の考えていることが分からなかった。…いや正しくは理解することを脳が拒んだ。
当然の結果なのかもしれない。
結は親衛隊達の異常さを見せつけられたのだから。
そしていっそ冷静になった頭で鬼ごっこ中という事実を思い出し、釈然としない気持ちで寝転がる彼らをタッチした。
ピピッ‥
呆気なく彼らとの鬼ごっこは終わりを告げた。
赤史の時のような電子音がどこからか鳴り、暫くしてから放送が流れる。続々と流れる名前を聞きながら彼らに声をかける。
「立て」
その短い言葉で彼らは素早い動きで立ち上がった。
先ほど何故寝転がっていたのかは聞かないことにした。というか見なかったことにした。
結はクイッと親指を体育館の方へ向けながら、短く「行け」と告げた。
「「「「はい!!」」」」
元気よく頬を赤く染めながら返事をして親衛隊達は息を揃えて体育館へと向かい見えなくなった。
彼らを見送りホッとするような、ため息を吐くような息を吐き出し気を緩めた。
彼らに命令するときは少し強めの言葉となる。
何故そんなことをするのかというと彼らが喜ぶからだ。
こんな上から目線の言葉を言うと胃が痛くなる気がするが気のせいだろう。気がするだけなのだから。
今日も彼らは幸せそうだ。
その様子を見て結はとりあえずホッとした。
役に立つことは好きだ。ただ先程のことは役に立つとはまた違うかもしれないが…まぁ細かいことは気にしないでおく。
鬼ごっこ終了まではあと少し。
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