第22話 妄想が現実に(誰かの妄言)
「はぁっ…はぁっ…」
息を切らして走る。
オレは軽く目の前が暗くなるような気持ちに陥っていた。
◇
鬼が放出されて数分。
早くも既に鬼によって数人の生徒、人間が捕まったようだ。
人間は捕まったら自分の足で体育館へと向かう。
ドローンや監視カメラを駆使して捕まった瞬間を捉えて放送室から捕まった生徒の名前が放送される仕組みだ。正直何百人と居る生徒の名前を呼ぶのは記憶力お化けなのかと思う。
…ん? お化けって妖怪のことだった気が…?
まぁいい。
それよりも今は対象を探すことが先決だ。
度々風紀委員が壁際に立って待機しているので安心感を感じられる。風紀と仲の悪い不良からしらたたまったもんじゃないかもしれないけど。オレには関係の無い事だ。
つくずくこの学園は凄いな、と思う。
何故なら自分以外の妖怪の末裔沢山居るし、何か序列出来てるし、変態多いし。…やっぱ最後のはナシで。
この学園に入学してからというもの。荒波に受け身をとりながらも流され続けて早一年。転校生が来たことで更なる大波が迫り来る予感がする。
とてつもなく嫌な予感である。
して、そこの。
何をしているんだい?
赤史。
ガサリ‥
「あっはー。バレちゃったか~」
茂みからひょっこりと姿を表した特徴的な赤い髪。
よくこんな派手な色が茂みに隠れられていたな、と思う。
「いやーまさかバレるとは…俺も鍛えが足りひんな!」
こいつストーカーになったりしなよな?
と、冗談半分本気半分で心配した。
「そんな近くに居たら、捕まえちゃうよ?」
オレと赤史の距離は僅か数メートル。走ればギリギリ届く距離だ。鬼の陣営には目立つ頭は見あたらなかったのでこいつも大方人間だろう。
「なにそのセリフ萌え…ブツブツ」
急にブツブツ言い出した。
何時もの事である為、とくに何を思う事は…無いことはないが何を言っても無駄だったので既に諦めの境地だ。
ふと思いつく。
「赤史。会長達のいる場所、知らない?」
無駄に情報通の赤史に聞けば、答えが分かるのではないかと少しばかり期待した。
「ん?会長達?それならさっき親衛隊に捕まってたよ(囲まれていたという意味)」
「……!」
「ん?」
驚愕の表情を浮かべるオレに首を傾げる赤史。
そのことに目もくれず、オレは頭を抱えた。
なんということだ…。
既に捕まっているだと?
見損なったぞお前ら!
脳内で少しばかり罵倒し、予定外の事態に頭が混乱していた。
結は赤史の言葉をそのままの意味で受け取った。
これにより会話が食い違う。
「…全員捕まったの?」
「そやで(ただ単に人間側の親衛隊の者たちに囲まれたという意味)」
「そう…ありがとう。教えてくれて」
うなだれていた顔を上げ、シャキッと背筋を伸ばす。
そして思い出す。なぜここに赤史が居るのかという疑問を。
「何で居るんって、そりゃ俺もランキング上位者の一人やで? 誰だって追いかけ回されたくないやんか。そういうことや。ということでおねしゃす結様仏様」
仰々しく右手を差し出しながら直角90度でお辞儀する赤史。
最後の方に無駄に言葉を飾ったことにフッとこっそり笑いながら自身の右手を赤史の手に重ねる。
ピピッ‥
どこからか電子音が鳴り、すぐさま放送が流れる。
『2-S。
何か体育館の方向から”うおおおおぉぉぉぉ!!”と、盛り上がる声が小さく聞こえた。何をそんなに盛り上がって居るのだろう。
というかもうそんなに捕まっていたのか…。体育館からの声を聞いて思う。それに会長達の名前も聞き逃していたのかもしれない。
体育館では、壇上の上で大きなモニターが映し出され、現状のドローンが撮している映像が流れている。音はない。映像だけだ。
初めからついている監視カメラは後から弄れないようになっているため、風紀が有効活用している。
しかし思い出してほしい。二人の行動を。
90度に綺麗なお辞儀をして何かを言いながら右手を差し出す赤史。
そしてそんな赤史を
さてこれを見た上でこの学園の生徒がどう思うか。
答えは単純。
カップル成立の証である。
この事実を当人二人が聞けば首を振るだろう。
言葉を聞けと。もしくは読心術でも使ってみろと言うだろう。
しかしそこに二人は居ない。
誤解が加速し、生暖かい目で見られることだろう。まぁ赤史辺りはどこかの親衛隊に刺されるかもしれないが…。
そして二人の知らぬ間に誤解は進み、赤史が体育館へと着くと、謎の拍手にガチめの「は?」を零したという……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます