第21話 新入生歓迎会当日

 新入生歓迎会当日。


 会長と風紀委員長が体育館の壇上で歓迎の言葉と注意事項などを話していく。


 二人は統率力があるので下手に下の者に任せるよりも確実だ。

 もしやらかせばマジの鬼が迫ってくる事になるのだ。そんなバカな真似をするものは居ないだろう、…多分。


 体育館の空気は最高潮に達しており、皆健気に会長と風紀委員長の言うことを聞いて大人しくしていた。


 既に鬼と逃げる人間側は分けられており、鬼は数十人。人間は数百人。とんでもない比率だが鬼ごっこなら当たり前だろう。


 そうして放送委員会の委員長がマイクを持つ。


『え~開始のカウントダウン…の前に!なんとお知らせがあります!』


 そこでん?と、オレは嫌な予感を感じた。恐らくチラッと頭をよぎった考えが最悪だったからだろう。


『なんとなんと! 去年までお仕事で参加出来なかった生徒会の皆様が! と・く・べ・つに! 参加することになりました~!!』


 一瞬の静寂が体育館を包んだ後、体育館中に歓声が響き渡った。


「は…?」


 と、オレは呆然とするしかなく。小さくこぼれたドスの効いた声は歓声にかき消され、キャラ崩壊は誰にもバレる事は無かった。


 どういうことだと生徒会面々と放送委員を見るが、特に慌てる様子もなく、オレ以外の生徒会面々が放送委員会の話を聞いていた。


 ……ほぉ?

 オレは察した。

 お前ら分かっていたな?


 意図的にオレに話していなかったのか、と言われれば気まずそうな顔もせずに居るのでそういう訳では無いようだし。


 オレにも話が通っていたことになっていた、ということか?


 誰だ?この話を通したのは…と、オレが黙って眼孔を鋭くさせ思っていると。


 風紀委員の長二人が生徒会面々の座る方へと来た。


 絶対文句言われるヤツ~!

 容易く想像できる光景に軽く頭を抱えた。


 生徒たちが盛り上がっている中オレはお通夜気分で雪だるまを練っていた。これがオレなりの精神を落ち着ける方法なのだ。もうだめだ…冬眠できたらいいのに…いやダメだ。冬に眠ったら雪と冷たい空気に触れられない。


 眠るなら夏の間、夏に眠ると書いて夏眠かみん。仮眠とかけたらおもしろ…く、はないか。


 オレ数年後生きてるかな…年々気温上がってるし…不安だ。ダメだ。現実逃避をしたはずが結局不安になってどうする。


 そんなことを考えていると……


「おい、そんな話は此方に来ていないぞ。どういうつもりだ」


 と既に怒りがにじみ出ている風紀委員長。正論だし。


「ふん、このイベントを盛り上げるには丁度いいだろう?」


 オレの怒りボルテージが少し溜まった。


「全く…これで問題が多発したらどうするんだ…」


 まったく頭が痛いという風に委員長は頭を抱え、深い溜め息を吐いた。まったくだよね。


 ここで今更生徒会が参加しないとなればそれはそれで暴動が起こるだろう。そのため生徒会が参加すると大々的に言った手前、それを取り下げるのは得策ではなかったのである。



『ではでは!生徒会の皆様にはくじを引いて貰います!赤い色を引いた方一人が鬼となり、その他は人間となります!』


 会長と風紀委員長がバチバチしている中。その隣の副会長と風紀副委員長、天野あまの嶺鹿れいかは静かに睨みあっており静電気がバチバチとなっているように見える。風紀副委員長の天野は雷神の末裔で、副会長が風神であることに互いに何か因縁があるようだ。


 まあ、何時もの事である。


 そんな中。放送委員会の委員は会長たちの様子に気づいているのかいないのか、そのまま司会を進めていた。


 目の前に箱を出されたため、コレがくじ引きの箱なんだろう。躊躇いつつも腕を入れて一本の棒を取り出した。


 どうやら一斉に見せるようで、先に引いていた奴らは色の付いた部分を手で隠していた。オレもそれを真似て手で隠した。


『では、せーので掲げて下さい。せーの!!』


 赤い色の棒を引いたのは…


 ……オレだった。


『なんと!生徒会書記である氷鎧様が鬼となりました!』


 おおおおぉぉぉ!!と、体育館でオレの親衛隊がたぎっていた。楽しそうで何よりだ。しかし何故凍らせて欲しいのかがよくわからない。凍傷なるよ?


 その他の生徒は会長たちが鬼じゃなくて残念がっていたり、鬼の生徒はとてもとても嬉しそうだったり。中には生徒会役員の一人の親衛隊も居るようだしで、なんだかんだおお盛り上がり。


 まぁ一部オレを睨んでる生徒が居るが。

 何なんだろう。自分が鬼になりたかったからといって睨むのはどうかと思うのだが。そうは思わないか?生徒会の諸君。


 そもそも何故こんな歓迎会一つに盛り上がっているのかというと。


 鬼が捕まえた人間側の生徒に一つ常識の範囲内でお願いという名の命令が行使出来る。無論無理な願いをすればどうなるかは目に見えていることだ。しかし去年は鬼が出た。どういうことか……分かるな?


 人間側はというと、逃げ切れば指名で命令出来る人物を決められる。正にハイリスクハイリターン。指名命令以外にも、逃げ切った時間が長いものは順位で表され、上位者にはプレゼントもある。(逃げきれなくても多くの時間を逃げ切ると褒賞がある。)


 この報賞は鬼も同じで、より多くの人間を捕まえるとプレゼントが貰える。なにが貰えるかは勝ってからのお楽しみ。


 鬼になることで得するのは、多くの人間を捕まえることが出来れば多数の生徒に軽い命令をする事ができるということ。

 人間になることで得をするのは、逃げ切ることが出来れば指名で命令出来ること。


 どちらがいいかは人によりけりだろうが、オレは鬼で良かったと心底思う。ホント良かった…。だって追いかけられないから。


 追いかけられることに若干の恐怖を覚える自分には到底人間は向かないのだ。いかんトラウマが…。


 放送委員の司会がカウントダウンを刻む。


 人間側はとっくの昔に逃げている。


 くくく…オレは生徒会役員の奴らを捕まえに行くことにしよう。

 最近仕事が溜まっているからな…。


 というか最近生徒会室で見かけないんだが何しているんだろう?


 そんな疑問を抱えながら合図に合わせてオレは駆け出した。

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