新入生歓迎会

第20話 歓迎会準備

 いきなりだが新入生歓迎会である。


 桜の花弁から青々しい葉に変わり終わった時期。この妖怪学校では新入生を歓迎する会が行われる。


 今日はその準備期間中だ。


 準備はひと月前から始まり、数日で新入生歓迎会で何を行うか決め、残りの数週間で準備を行う。そしてこれらを引率するのが生徒会となる。


 これには当然生徒会以外の全てとは言わないが、多くの委員会も関わることになるため生徒会は忙しい。


 歓迎会について書かれたチラシは歓迎会の二週間ほど前から張り出され、広報委員会が活躍している。歓迎会当日も参加している生徒たちの姿を写真に収め、歓迎会終了後に掲示板に新しい新聞が載る。アルバムに載ることも多々あるそうだ。


 赤史がこの委員会に入っているので結構身近な存在に感じるチラシ。知り合う前だとほとんど見向きもしなかったのでちょっと損していたんだな…という気持ちになる。


 意外と面白い事が書かれていて、暇なときに通りがかったらつい見てしまうようになった。


 赤史が言うには広報委員会の委員長は、委員会の仕事を他の委員に任せて趣味に走っているそうで大体委員会を纏めるのは俺なのだと赤史が言っていた。


 それは委員長としてどうなんだ…? とは思ったものの、それで委員会が成り立っているとなると何も言えない。


 その委員長も時々広報委員の欲しがるような写真を入手しては委員に渡しており燃料投下しているようなもので、それで作業効率が上がっていると考えると余計に何も言えない。


 なんなんだあの広報委員長は。

 赤史も苦労しているんだな…。

 


 新入生歓迎会だが、会長と風紀委員長が歓迎の言葉を話した後にあるイベントが今回の主役だ。人によっては会長と委員長の言葉の方に重きを置いている者も居るようだが。反応がヤバかったので飛ばす。自主規制(?)というヤツだ。


 今回の目玉イベントは鬼ごっこ。


 中にはマジモンの鬼が居るため追いかけられる側からすれば、たまったものでは無い。


 ただ追いかける側の鬼も逃げる人間側も互いに害を与えるなんてことがあれば、真っ先に風紀に目を付けられて鬼より早く捕まる。というか風紀委員長が鬼の末裔だったな…。

 

 このイベントには高等部の全学年が参加する。まぁ例外としてこのイベントに関わる委員会委員たちは参加しない。もう完全にスタッフである。なんかこの事に転校生や誰かやらが異議を唱えたらしいが知らない。オレは知らない。


 鬼ごっこをする際の範囲は、学園全体――は流石に女子校もあるので男子校周辺数百メートル内が行動範囲である。


 空を飛ぶことや寮内に引きこもるなどは禁止。当然、風紀に目を付けられる行動など以ての外、論外である。


 普通の人間も居るので周囲と協力して捕まえるも逃げるもよしだ。何かに同化して隠れてもいい。


 最早鬼ごっこでなく隠れ鬼のような気がしないでもない。


 そして鬼役の配役は、完全にくじ引きの運である。


 なので足の早いものだけでなく走るのが遅く、あまり鬼に向いていない生徒も居る。なので協力する生徒が多い。


 去年は頭のいい生徒が追い込み漁かと言いたくなるほどうまい具合に捕まえていて圧巻だった。もうみんな学んで今年はそうは行かないだろうけど。…いや学年が違えばそうはいかないか?


 妖怪の末裔でない人間が不利だと言う者も居るが、何らかの能力を持っていても人間と同じ身体能力の者も多い為、バランスは別に悪くない。


 妖怪の末裔は、人間の血が濃ければ人間の姿になることは容易いが、逆に妖怪の血が濃いと人間の姿になることが不得意となる者が多い。


 オレの場合。雪女の末裔で元から人型なので変化しやすいというのもあり、そこはあまり困ったことはない。


 唯一疑問があるとすれば、何故か人間の姿の時が白髪で、妖怪の姿の時が黒髪なのかが小さい頃からの疑問だった。普通逆では?


 今では当たり前の事なのでたまにどうしてだっけとは思っては直ぐに答えを諦めている。特に不便が有るわけでも無かったので。


 思えば生徒会の面々は大体人型だったな…と思う。会長は天狗。副会長は風神。会計は桂男。庶務の二人は狐。そしてオレは雪女。


 庶務の二人は人型の妖怪の末裔では無いが、もともと化けるのに長けた一族なので苦ではないらしい。


 そういえば副会長と風紀副委員長を会わせるのは得策では無いのだった。これから嫌でも顔を合わせなければいけないので副会長の機嫌が最高直下をじりじりと記録していることに恐怖を覚える。


 風が吹き荒れている。


 あ…オレの書類……。


 意外なことに、会長と風紀委員長よりも副会長と風紀副委員長の間の方がより溝やら亀裂やらが深い。まぁ生徒会と風紀で険悪なことに変わりは無いんだけどな…。


 もっと普通に接する事は出来んのかとはこれまで何十回と思ったものだが、やはり思っているだけでは何も変わらなかった。


 当然の結果である。

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