第19話 昼食

その後。


 オレと転校生を引き離した委員長に転校生が突っかかっていこうと口を開こうとしたが、それを見越したように委員長が声を上げ、騒ぎを起こした者達に反省文を書き提出するように言った。

 抜け目ないな。


 オレには昨日のぶん含めて提出するよう言われた。


 釈放だーー!!

 と、開放感満載の気持ちで食堂を出た。


 転校生。もうお前と会うことは無いだろう、、、あばよ!


 学年が違うと委員会や部活で関わらない限り、学年が違えば会うことはほとんど無い。漫画や小説で先輩後輩と呼び合うのを見かけるが、余り意識したことは無い気がする。


 転校生にうんぬんかんぬん言ってたろって?

 あれは、うん、ね。年上年下、同年代関係無くあの話し方で声かけられたらオレは同じ返しをするんじゃないかな。


 というか昼が終わりを迎えそうな時間帯だった。オレは何のために食堂へ来たんだったか、、、。なんて濃い1日…いや、この学園きてからしょっちゅうだな。


 取り敢えず購買行くか。


 普通の携帯より冷えた携帯を取り出し返信のメールが来ていないか確認すると案の定、赤史あかしから返事が来ていた。


赤史:昼飯ヨロ(*・ω・)ノ


 らしい。


 メールでは関西弁がなりを潜めるんだよな。何でだろ、あれ。


 購買へ向かうために来た道とは逆方向へと進む。

 ここの購買は朝昼晩やっている。まぁコンビニみたいなものかもしれない。オレはよく足繁く通っている為、大変お世話になっている。


 特にお弁当が旨くて…すぐに売り切れる。ここのは小説や漫画で出てくる学園の高級ご飯じゃなく、普通に懐に優しいメニューとなっている。


 そのお値段に会長達は大変ビックリしたそうだ。小中高一貫とはいえ、高校に入る前までは寮生活でなく、登下校らしいし。(それもほとんどが車で送り迎え)


 安すぎて裏を勘ぐっていた会長達を見てこっそり笑ったのはここだけの秘密だ。


 そんなお坊ちゃん学園の食事情は食堂とこの購買に助けられている。主にオレが。


 しかし、となるとこんな時間に行っても好きな商品は無いだろう。潔く安パイなものを探すことにする。赤史には適当に胃に優しそうなものでいいだろう。


 残っていたおにぎり数個に、体脂肪がなんとかとか書いているお茶、ゼリーなどを手にとり会計を済ませた。


 ガサリ‥とかなりの量になった気がする袋を見下ろす。起きてるかな赤史。一応、授業でるつもりなので急ぎ目で保健室へと向かう。


 微妙に遠く感じた。


 そうそう問題を起こした転校生ご一行は今頃風紀室だ。多分その場で反省文書かされるだろう。オレも連れて行かれなかったのは少し疑問だが自分に都合のいい状況の為気にしない。


コンコン  ガラッッ


 保健室の扉をノックし、返事を待たずに開けた。


「失礼します」


 ぼそりと言いながら保健室に入り後ろ手にドアを閉める。


「おいおい返事は聞こうぜ~」


 と保険医の和主わぬし


 それに適当に返事を返しながらここへ来た理由である赤史の居る場所を見る。カーテンに遮られて見えなかった。


 シャッとカーテンを引きカーテンを開けた。


「おーどうやった?食堂イベントは」

「開口一番がそれ?」


 顔を合わせて早々。少し言いそうではあるなと事前に予知していたが本当に言うとは思わなかった。


「はい、これ。文句は受け付けない」

「ん、あんがと」


 ガサリ‥ビニール袋をそのまま渡す。


 オレは雪にシロップでもかけて昼飯分は誤魔化す。元々食は細い方だったから特に問題は無い。シロップは何故か売っていたので買った。


「じゃあこれで失礼、するね」

「ん?なんやもう行くんか」

「授業、始まるから」

「そか」


 そう言って席に着くこともなくカーテンの下を潜り抜けドアへと向かう。そして出ようとしたところで赤史が言った。


「結もちゃんと食べるんやぞー!」


 …なんでバレたんだろ。


 赤史の言葉に適当に手を振って答え保健室を出た。因みに保険医にもちゃんと挨拶はした。


 赤史との付き合いはもう一年ほどだろうか。そんなあっという間の期間だけどオレは赤史の事をどれぐらい知っているのだろう。


 少なくとも先程の赤史のように何も言っていなかったのに何も食べていない事を言い当てることなど出来ない。いや流石に腹を鳴らしていれば気づくけど。


 あいつの良いところの一つを見つけられたのだと思うと、少し足取りも軽くなった気がした。今日を悪い日だけで終わらさないで良さそうだ。


 …まぁ反省文が唯一の心残りか。


 少し気分が下がった。

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