第15話 鬼来たる

 騒ぎの中心である転校生達の下へ到着する。周りの生徒たちは先ほどよりもざわざわしていた。会長が居ることが大きいだろう。


 すると此方にいち早く気付いた転校生が声を上げる。


「あ!!お前等も伊兎いと達と同じ生徒会ってやつか?」


 名前を呼んで貰ったのが嬉しかったのかなんなのか副会長は嬉しそうな顔をしていた。うん、幸せそうで何よりだ。

 その顔に彼の親衛隊は悔しいやら嬉しいやら興奮やら表情に出ていた。複雑そう。今後も頑張れ。


「お前がコイツの・・・なぁ?」


 と訝しげにしげしげと転校生を見つめる会長。コイツとは恐らく副会長の事だ。会長的にどうなのだろう?転校生が副会長の何なのか検討がついているのかな?


「なんだお前!名前教えろよ!友達だろ!」


 なんて?


 不躾に見つめる会長に声を掛けた転校生。うん、ここまではいい。勢いが凄すぎだけど。

 にしても既に二人は友達だった・・・?(混乱)


「あ?なんだこいつ・・・」

「こいつじゃないです。大羅たいらです」


 副会長?


「・・・」


 会長は副会長の言葉に思わず口を閉ざした。どうやら会長と転校生は知り合いという訳でも無いらしい。そういえばさっき転校生が名前を訊ねていたな・・・と思い出す。

 

 転校生はカツカツと会長の前に行き会長を見上げる。目が見えないと思ったら前髪の下に眼鏡も着けていたようだ。夏は大変そうだな・・・などと自分ごとのように思った。


 先ほどまで隣に居た会長はオレよりも副会長が居たテーブルに近く。数歩で転校生は会長の前に仁王立ちした。因みにオレはそれを見るなり数歩後ろへ下がった。オレの耳が耐えられる気がしない。庶務の二人は平気なのか?妖怪と言っても狐だった気がするんだけど。


 少し離れた場所から会長と転校生見ると一瞬だが会長の動きが鈍るようにピタリと止まった。しかしそれは一瞬のことで次の瞬間会長は転校生に顔を近づけ(多分)キスをした。オレの居るところから見るとちょうど見えなかった。動きが止まったように見えたのは気のせいだったか?


 まぁ周りの悲鳴から察せるものもあるよね。


 体感5秒程が経っただろうか。バキィィィィィッッ!!!!!!!!という音が鳴り、副会長の時とは比べものにならない音を立てて会長と思わしき影が飛んだ。少なくとも顔から鳴っていい音ではない。


 勢いのままオレの方に飛んできたので反射で避けた。ごめん会長。オレは自分の身が可愛いんだ。


 そして後ろにあったテーブルにドッシャアアアアアア!!!!と派手に落ち。テーブルがまっぷたつどころか一部木っ端微塵になっている。今回の一番の被害者はテーブルかな・・・と若干遠くを見る。


 会長は妖怪の血をオレと同じくというかそれ以上に持っているので怪我で言うとテーブルの方が心配だ。会長が頬を腫らす所なんて見たこと・・・は体育祭の時に見たけど。次の日にはピンピンしていたし。平気だろう。痛そうではあるが。


 転校生が何やら言っていたがちょっとばかし混乱していたオレの耳は言葉と認識しなかった。難聴かな?


 粉々になったテーブル付近の煙が晴れるのを待つと煙の中でムクリと影が起き上がり少し動きは鈍いが真っ直ぐと立ち上がった。


 周りの生徒たちは大半が先ほどのキスらしき姿を見て倒れているが意識があった者達も最早立つのも難しそうだ。瀕死である。


 王道非王道と騒いでいた者達に至っては壁際に寄り目をかっぴらいてこの光景を一ミリも逃さんと見ている。怖い。


 転校生側に居た者達に至っては会長を睨みつけるか転校生に声をかけて先ほどの事が何も無かったかのようだ。ある意味猛者。いやある意味もなにもない。


 収まってきた煙から会長が出てくると、彼は首をゴキッと鳴らし転校生を見やった。ニヤリと笑って。


 ・・・。速報です。

 林道会長がドMという疑惑が出てきました。この事が一般生徒に広まれば、ドMの部下と思われてしまうでしょう。オレはどうすればいいのでしょうか?


 事態を理解することが億劫になってきた。再び視線を遠くへ飛ばす。突然だけどオレ、何時かかまくらを学校学園の屋上で作って星空観るんだ・・・!(現実逃避)


 しかしオレの意志に関係無く事態は進む。


 どこかの少女マンガのようにおもしれー女みたいなことを言い、会長はニヤリと笑いながら再び転校生に近づく。そして正義のヒーローのように転校生の前に躍り出た副会長は先ほどと変わらず会長を睨み付けた。

 

 バチバチと二人の間を電気が通った。副会長雷神ではなく風神の末裔なのでそんな筈は無いのだが幻覚が見えた気がする。


「あ!お前顔綺麗だな!名前教えろよ!友達だろ!」


 一瞬反応が遅れながら、転校生の方を向く。転校生の体は此方を向いていた。オレの周りには生徒は居ない。あるのは悲しいことに粉々になったテーブルだけだ。


 オレ、泣きそう。周りの視線が痛すぎて。


 というか前髪長いはずなんだけどお互いに。透視能力でも持っているのか?でも一応褒めてくれてありがとう。


 しかしあの声量に近づきたくない。という思いと大声を出したくないという思いがせめぎ合う。名前を教えないという選択肢は無しだ。多分会う度聞かれる。そしてそのたびに注目を痛いほどあびると思うと今答える方がいい。

(この時生徒会書記だから注目を浴びるという考えは浮かばなかった)


 でも普通このタイミングで声掛ける?え?敢えてこのタイミング?そうかも・・・。


 辺りを伺いこの状況を打破する方法は無いかと長い前髪の下から一瞬見ると、辺りが静まり返っていることに今更気付く。泣いていい?


 いやでもと頭を回転させ今名前を言えば普通の声量でも届くのでは?と考え始める。よしこれしかないと深呼吸をしてリズムを整える。


 すぅ…と息を吸い込み言葉を発そうとした瞬間。被せるようにして黄色い悲鳴が食堂の入り口から聞こえてきた。ワザとじゃないのは分かるけど少しイラッとした。


 風紀が来たらしい。ざわざわとまた騒がしく賑やかな空気が戻り始めた。


 そしてオレは意を決して転校生に近づく。一歩一歩と踏みしめているとオレの親衛隊から応援の声が聞こえた。なぜ?


 転校生と1メートル程距離を開けて立ち止まる。転校生のそばに2人、いや5人、あ、増えた。7人が囲んでいる。デカい壁だな。


 そして普通の声量でオレは名乗った。


「オレの名前は氷鎧ひょうがいゆい


 あれ・・・?と自分で名乗りながら疑問に思う。オレは今普通に名乗っていなかったか?


「おう!オレは国真くにま大羅たいら!!」


 あれ?と思っている内に転校生が名乗る。会長たちの居る方を見ると生徒会の面々が少し首を傾げて此方を見ているのが見えた。思わずオレも首を傾げる。


 バタバタと周りを囲む生徒(未だ生き残っていた生徒)が倒れる音が聞こえた。


「風紀委員会だ!!通報を受けた。騒ぎの原因はお前等か?」


 と最近見かけたばかりの面々が見えた。


 その後は風紀がテキパキと動き倒れた面々を運んだ。オレは昨日のように担架を何十個も作り少しだけ手伝った。騒ぎの原因に少なからず関わっているのは何となくだが分かっていたから。

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