第8話 待ちぼうけ

 翌日。


 あの後、別の風紀委員が何人か入ってきてその場をテキパキと片付けた。オレはというと風紀委員の一人に誘導され、朝にも来た風紀室へと行った。


 そこで写真を撮った携帯を預けたり、見たこと聞いたことを話しひとまず解放された。


 オレはそのまま保健室へ向かい、赤史の容態を見に行った。赤史はまだ目を覚ましておらず、オレは寮の門限が迫るまでずっとそこに居た。


 ついでにカバンも持ってきていた為当初の目的は果たせたといえる。


 保険医もその場に居たが、特に何を言うでも無く「門限までには帰れよ」とだけ言われた。とやかく言われないのは素直に嬉しかった為少し笑って返事をした。


 なんか目を剥いていた気がするがそんなに意外だっただろうか?


 まぁいい。


 しかし待てども待てども赤史は目を醒まさなかった。とうとう寮の門限時間が迫った為重い腰を上げて最後に額に置かれた氷を変えてオレは寮へと帰った。


 オレは役職持ちのため一人部屋だ。正直見ず知らずの他人と暮らすとか考えられなかったので大変助かっている。気の使いすぎで直ぐにダウンしそうだったし。 


 とまあこれが昨日の話。


 昨日は早めに寝て、今日も早起きをして学校へ持って行くモノを整理した。何か足りないと思ったら、昨日のハンカチだった。まぁどこにでもありそうなものだし問題は無いか。言っておくがオレは物を大切にするタチだ。まぁもったいない症とも言うかもしれない。


 準備を整えて外へと出る。ドアの鍵は自動で掛かる仕組みになっている。これを知ったとき言い知れぬ怖さを感じた。何故かはオレにも分からないが。


 寮長室の前を通り、受付部分に明かりが付いていないことからまだ寝ているのだろう。と鞄から鍵を取り出す。生徒会特権というものだ。


 この時間寮を出ることは寮長の許可なしでは普通は出来ないが、風紀委員や生徒会に限ってはそうではない。


 他の委員会もやることは多いが、それを上回る量がこの二つの委員会だ。なので特別に用意された鍵となる。紛失したら・・・恐ろしいことが待っている、らしい。オレは今の所紛失したことは無いためそんな事は余り気にしていない。


 ガチャリと専用の出入り口を使い外へ出る。この扉もドアを閉めれば自動で鍵が掛かるらしい。金かけてるなあ・・・。


 今オレが向かっているのは生徒会室だ。


 あ、当然後で保健室にも行くよ。もう目が覚めていたらいいと思うが、あいつが目を覚ましたときに隣に居れたらな・・・。


 そんな事を考えている内に生徒会室の扉が見えてきた。


 鍵を差し込みドアを開ける。


ガチャリ


 扉を開けた先には誰も居ない空間。辺りには真っ暗闇が広がっている。パチリと明かりをつけテキパキと乱雑に置かれた書類を整理する。整理整頓するのは好きなため、特に苦では無い。


 パソコンを用意し、30分内で出来る仕事を出来る限り終わらせた。


 持ってきたカバンに書類とパソコンを入れ生徒会室を退出する。


現在の時刻は5時45分。


 大分早く来すぎた気がしないでもないがさして問題は無いだろう。


 離れた場所にある保健室へ向かった。15分程かけて保健室へと到着した。


コンコン


 扉を軽く叩くと中から声が聞こえたためガラリと開けた。


「よ~」


 と声をかけてきたのは保険医だ。何時ものんびりというかのらりくらりしている。妖怪の末裔であるらしいが何の妖怪かは知らない。まぁ知るつもりも無いのもあるか。


「まだアイツは目ぇ醒ましてねぇぞ~」

「そう、ですか、、、えっと、、、早い時間、に、すみません、、、」

「気にすんなー」


 と軽い調子で返されホッとする。余り気にされていない事が一番楽だ。


 にしてもずっと起きていたのだろうか。患者(?)が居たら気は休まらないだろうことはオレでも分かる。教職はやはり大変そうだと思った。


 保健室へ入り扉を閉める。


 そういえば昨日置いていった氷は無くなってしまったのだろうか?何日持つかより冷たさを重要視したから直ぐに溶けてしまっていても不思議じゃない。


 赤史の下へ行くと保険医の言う通り赤史はまだ目を醒ましていなかった。額の横にはしおれたハンカチだけが残っている。氷は溶けてなくなったらしい。


「たぶん昼頃までには目ぇ醒ますだろー」


 と見かねた保険医が一言。


「早く、起きてよ。赤史」


 お前の見たがっていた食堂イベント見逃すぞ。早く起きて欲しかったので独り言を零す。


 赤史がこうなってしまったのは自分のせい――だなんて思わない訳では無いが。害を成したのはあいつ等で、そいつ等が害を与える理由を与えてしまったのはオレだ。


 微妙な立ち位置だ。


 赤史は何を思って言わなかったのだろう。嘘でも本気でも言えばあいつ等は引いたかもしれないのに。


 本をいくら読んだって現実とはやはり違うもので。人の気持ちなんて計りたくても正確に計るなんてことはオレには出来ない。


「早く、起きろよ、、、」


 そして教えてくれ。

 何でそこまでして言わなかったのか。

 たった一言「氷鎧結には関わらない」と言わなかった事。


 オレは赤史に対してオレと話してくれるいい奴という単純な目でしか見ていない。オレがあまり深く考えないたちなのも大きい。


 深く考えてしまえば、果たしてそれは自分の意志なのかと言うような考えが出てくるから。余り考えないようにしている。


 自分が思考を放棄して、怠惰だということは痛いほど分かっている。計算式で言えばオレは、式を見て計算をせずに答えを求めているようなものだろうし。


 ただ分かっているのは、赤史が起きるまでオレに出来ることは、待つことだけだということだ。

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