第53話 望むのは贖罪か、断罪か
「っつう訳でチェックメイトだ、国王さん?」
「お、おのれぇ……!」
結局は俺の力頼みになったが、最後まで上手く行って助かった。
おかげでこうして国王さんに一手を掛けることが出来たってもんだ。
それに手はず通りなら外の兵士は今頃バーギュや息のかかった兵が抑えているはず。
後先まで完璧すぎて笑いが止まらんね。
「ガルテニアスよ、わたくしはかつてハッキリと願ったはずです」
「ぬ、ぬう!?」
「いつまでも変わらぬ繁栄と、人々が笑顔でいられる裕福さを忘れぬようにと」
後は女王様が大昔と同じように国王との直接対話を果たせば終わり。
諭すか裁くか。それはこいつの態度次第だ。
「しかし今の繁栄など虚勢に過ぎません。民衆に笑顔はありません。よってかつて結んだ古の盟約は不履行であるとし、この女王エーフェニミスが現王たるあなたに裁きを下しましょう」
「お、おのれ、長く生きるだけの長耳が……!」
「まぁなんと嘆かわしい。かつて己の祖が築いた戒めさえも守れぬ愚か者でしたか。これではかつてこの国を守ろうとした方々が報われませんね」
なんだかちょっと女王様も怖い感じがするが、まぁ演技だと思おう。
生き残った兵士も腰を抜かしたままだし、国王を追い詰めるには丁度いい。
「では女王エーフェニミスが現ガルテニアス国王に告げます。あなたに進むべき道を二つ授けましょう。一つは己の行いを悔い改め、強権と王位を棄てて普通の人として生きるか」
「な、なにぃ……!?」
「そしてもう一つは、その強情のままに断罪を受け入れるか」
「ううっ!?」
「その選択肢だけは与えましょう。さぁ選びなさい」
これで女王様の伝えることは伝えきった。
後はこいつの出した結果で俺が動くだけ。
「わ、わかった、選ぶ……」
「どちらをですか?」
「それは――」
さて、どう出るんだい国王さんよ……?
「――エルフの女王エーフェニミス、お前の死だ」
途端、国王の目がギュルリと黒く染まった。
しかも奴は顎が外れんばかりに口をガパリと大きく広げていて。
そして俺が唖然とする最中、奴の口が真っ白に輝いて――
「死ぃねええええええええええええ!!!!!!!!!」
突如として爆光。
視界が一挙にして真っ白に塗り潰される。
同時に「ギィィィーーーン!」という轟音にまで晒されながら。
その恐ろしい圧を前に、俺は堪らず武器を落として身を庇っていた。
あまりの眩しさに顔をも背けて。
まさかこんな逆転方法があったなんて誰も予想がつく訳ねぇだろぉ……!?
「……あれ?」
だけど不思議にも何も起きない。
吹き飛ばされるかと思ったのに。
それで目を見開き、奴の方へと再び眼を向けたのだが。
すぐ目の前に、光る壁があった。
半透明の壁が奴の放つ攻撃から俺たちを守るように覆っていたのだ。
「こ、これは!?」
「ひょ、ひょええええええ!!??」
「ピクト様! 危ないですからお下がりください!」
その声に気付いて咄嗟に振り向けば、女王様が左腕を伸ばして光を放っていた。
今の一瞬で彼女がこの壁を形成したのだろう。
しかしその顔はとても辛そうだ。
あまりの圧力に突き出した腕もが震え、右腕で支えるほどだった。
それほどまでに国王の放つ攻撃が強いということなのか……!?
――いや、実際その通りだ。
現に今、俺たちの背後の壁がすべて吹き飛び、空もが露わになっている!
その事実に、堪らず一歩二歩と後ずさる。
でもそんな最中で互いの放つ光が収まっていて。
「ククク……さすがはかつて勇者と共に先代の邪王を討ち取った者、やはり生半可とはいかぬか」
こんな声と共に国王の姿が露わとなっていく。
だがそこにはもう人らしい姿は残されていなかった。
衣服はおろか皮もが茶色に焼け爛れ、顎に至っては千切れ落ちそうなほどだ。
そんな状態にも関わらず喋れているのがあまりにも奇妙でならない。
「そのことを知るあなたは何者ですっ!?」
「お前の察しの通りだよォ……!」
「「「ッ!?」」」
「クヒヒヒッ! ワシは人間を棄てて邪王様のしもべとなった者! 忠誠を誓うことによって永遠の命と人知を超えた強さを得たのだあ!」
まさかここでも邪王だとか勇者って存在の名を聞くことになるとはな。
しかもよりにもよって国王様が悪側の一味だったなんて冗談にも程がある。
「そしてもうかつての勇者はいない! 貴様一人となった今、このワシを止めることが出来るかなあああ!?」
「いけない、ピクト様! ギネス様! 下がってください!」
「う、おおおお!?」
しかも冗談にもならない現実がまだ続く!
奴の体がどんどんと膨らんでいくのだ!
焼けた皮がひび割れ、剥がれていく。
めきめきと音を立てて膨張し、際限なく大きくなっていく。
これにはもう俺たちも逃げる他なかった。
兵士たちすらもただ怯えて逃げ惑うばかりだ。
そして謁見の間の端にまで追いやられた時、俺たちはとうとう目の当たりにする。
それは謁見の間の高い天井さえ衝くほどの巨体。
国王の醜さだけを肥大化させたような巨大な肉塊。
そうとしか言えない奇妙な化け物が俺たちを見下ろしていたのである。
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