第33話 ……そう見せかけてアホの子だった件

 セリエーネがまさか自分の妄想を鵜呑みにしちゃう子だとは。

 なんというか夢女子みたいな属性を感じるな……。


「もぉ、違うよセリエーネ」


「……何がよ?」


「ピクトさんは、その……人間だよ」


 ウルリーシャももう飽き飽きしていたんだろうな。

 とうとう彼女の口から俺の正体をバラしてしまった。


 もっとも、他の住民だって俺の正体にちゃんと気付いているし、ギネスたちが仲間ってことも教えている。

 だからもうとっくにセリエーネも気付いていると思っていたんだが。


「あっははは! そんな訳ないじゃなーい!」


 これである。

 言っても聞かない子なので、ウルリーシャがとうとうイライラを床にぶつけ始めた。

 床のへこみを掴んでヘッドシェイクし、「ウヌオオオオ!」とか女の子らしくない声上げているんだけど?


 でもその矢先、突然セリエーネの顔が俺の視界を大きく遮る。


「だってほらぁ、見てみてよぉ! ピクトは私たちと変わらないじゃない?」


 すると途端、彼女の手が俺の顔を掴んだ。

 それだけでなく、いきなり俺の口に指を突っ込み、無理矢理広げ、口の中を覗き込んできたのだ。


「ンガガ!?」


 それだけでなく瞼を引っ張ったり、耳を摘まんでグニグニしたり。

 さらには顔を思いっきり近づけて匂いまで嗅いでくる。


「ほら、ここだって一緒じゃないの」


 しかもあろうことか、彼女はおもむろに俺のアンダーウェアをガバッと開いて覗き込んできたのだ。

 もちろんデリケートなフロント側を、である。


「ひょぅい!?!?!?!?!!??」


 突然のことで変な声が漏れた。

 だが彼女は構わず手を離して「スパンッ!」と閉じ、今度は腹へと手を伸ばす。


「あ、ここはプニプニだぁ! ウルリーシャと一緒ね!」


「あ、ちょおっ!?」


 その手がさらに服の中に潜り込み、するすると肌を伝って上がって来る。

 しかも胸に触れると、まさぐるように指を回してきていて。


「ほらあった~乳首もあるじゃん~。ほら、私たちと変わらないでしょ?」


「ひょおええええ!!!!????」


 突然のことで頭がスパーク!

 なんだこれ! 刺激強過ぎぃ!

 おおあああああ!!!!!


「ノォォォ~~~ット・セェクハラァァァアアア~~~~~~イッ!!!!!」


「あっちょっ!?」


 そこで理性を振り絞り、全身を捻るようにして立ち上がって無事脱出成功!

 追って来ようとするセリエーネの頭を空かさず抑えて制止する。


「いけませぇん! 年頃の女の子がそんなセクハラはダメですッ!!! いいですか、これからは他の人にこんなことしちゃダメですからねっ!」


「なんでよー! 触れないとわからないことだってあるじゃない!」


 ねーよ! 見ればわかんだろォォォ!?

 そりゃ触られて嬉しいに決まっているが時と場所をわきまえよう!


 ほら、ウルリーシャが死んだ魚のような目で震えて見ているじゃないかぁ!


「ねぇウルリーシャも何か言ってよぉ! ピクトは私たちと一緒だって」


「でもそれ、あの襲ってきた、人間たちとも、同じ、だし」


「え……?」


 顔面蒼白になったウルリーシャがまるで陸に揚げられた魚のようにパクパクと口を動かして反論する。

 だがそれがクリーンヒットしたようで、途端にセリエーネの勢いが止まった。


 そして再び俺を見て、ペタペタと顔を手で触れてきたのだけど。


 いきなり目を見開かせると、凄まじい勢いで尻を引きずって後退。

 この世の物とは思えない形相で顔を歪め、壁を背にしながら怯え叫び始めた。


「ぎぃやあああああああああ!!!!! 人間! 人間よおおおおおおお!!!!!」


 おかげで俺はこの時気付いてしまったのだ。

 セリエーネがこれ以上ないアホの子であるという真実に。


 そう、これはアレだ。

 中学生くらいで虫取り網を片手に、UFOを捕まえに行くとか言い出す奴と同じだわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る