第29話 攫われた女王を追え!

 リディスを追って彼らの里を駆け抜ける。

 セリエーネとウルリーシャ、それと無事だったもう一人の剣士も後を付いてきている。


 しかし状況は最悪だ。

 走り抜けた先所々に人の遺体らしい体が幾つも倒れているのが見えた。

 森の住人側が主で、ポツポツと野盗どもってとこか。


 まともに見るなよ俺!

 ドラマの新人警官みたいに吐き散らかしちまいそうで怖いからな!


 ……ただ思ったよりも平気だ。

 これも転生時の再構築のおかげなのだろうか?

 それとも炎と戦いの最中で緊張状態だからなのか。


 まぁもっとも、今は炎と煙が渦巻く中でも何の苦もないが。

 途中でウルリーシャがかけてくれた妙な魔法のおかげで熱さを感じないのだ。

 こんな便利なものがあるなら最初から使って欲しかったなぁ。


「奴らは同胞をエントランス側に連れ去ったと聞いた! どうやら女王陛下だけでなく民衆をも攫う気らしい!」


 そのおかげかリディスは火に目も暮れず女王とやらを追っている。

 でもこんなんじゃもう森だって全焼は避けられないだろうに……。


 これではもはや何のための戦いかわからないな。


「やはりか、いたぞ!」


 哀愁に浸っていた最中、そのリディスの声でハッと我に返る。

 それで気付けば正面に馬車らしい物が幾つも見えた。

 箱型の荷台の、黒塗りで随分と豪華そうな造りの代物だ。


 ただ、もう既に馬車は走り始めている。

 一方で手前の広間には捕まったであろう里の人たちがまだ座らされていた。

 きっと積み込みが間に合わないと悟ったのだろう。


「ちい! 奴らめ、我々が来ていることに気付いていたか!」


「先ほどの戦いを見ていた者がいたのかもしれません!」


「間に合うか!?」


 それを追うようにリディスたちがさらに加速。

 だがその瞬間、周囲の草葉の陰から四人もの野盗が飛び出してくる。


「ちいい!?」


 それをリディスはかろうじて跳んでかわすが、体勢を崩されてしまっていた。

 もう一人の剣士は受け流すことで何とか耐えるも、進路を断たれて進めない。


「ええーい!」


 立ち塞がった野盗の一人の肩にセリエーネの矢が突き刺さるも、相手は怯んだ程度でまだ抵抗しようとしてくる。

 まるで死に物狂いだ。どうしてそこまで戦えるんだ、こいつらは!?


 そこで俺は右腕に備えていた非常口・放を盾代わりにして突っ込み、強引に全員を弾き飛ばしてやる。

 しかし増援がまた現れ、どうしても先に進ませてくれない!


「行かせるものかよ、女王は頂いたぜ!」


「クソッ! 女王陛下が行ってしまう! このままでは森から出てしまうぞ!?」


「どうしよう!? どうしよう!?」


 ダメだ、リディスもセリエーネも完全に動揺しきっている。

 剣士も応戦で手いっぱいだし、ウルリーシャは迷っていて動けない。


 だけど俺もあの馬車に追い付く手段が思い付かない。


 どうすればいいんだ!?

 どうすれば助けられる!?


『ああーっとお! そういえば今そこのイケメンがなんか言ってたような~~~?』


 ――ハッ!?


 森から出てしまう?

 出口から、出てしまう?

 ……そうか、その手があったッ!


 何も追う必要はなかったってなぁ!


「リディスさん! ここは任せる! だから女王様は俺に任せろ!」


「何ッ!?」


「ど、どうする気なの!?」


 思わず笑みが零れた。

 こんな単純なことに気付くのが遅くなった自分が間抜けに思えて。


 だが説明している暇は無い。一発勝負で行く!


 この力はまだセットしていないが、イメージだけはすぐに創れる。

 なんたって使うだけなら延々と使ってきた力だからな!


 しかし出来上がったコストは――スロット3!?

 おいおい、元々が1だっていうのに随分と高価じゃないか!?


『仕方ありませんよぉ、効果が効果ですからぁ』


 まぁいい、もう出来たしこれで行く。

 代償として両手の非常口・放を削除しセット完了だ。


「それじゃあ行ってくる!」


「どこに――」


「はあああ……【非常口・出】ッ!」


 すると途端、俺の体が緑の輝きに包まれる。

 同時に視界に映ったのはやはり、非常口のピクトグラムで。




 そして瞬きをした直後にはもう、俺は森の外に立っていた。




 それで振り向けば、開けた道から見覚えのある馬車の御登場。

 見えるだけでも五台、いずれも大急ぎで加速中なようだ。


「さぁて、それじゃあ大事な物を返してもらうとしますかぁ……!」


『かぁ~っとばせぇ~~~ピ・ク・ト! フゥー!』


 へるぱたっての要望もあってか、気分は既に四番打者。

 故に俺は自然と、昔テレビで見たバッターの如く「!」マークを立て構えていた。

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