第30話 暴走馬車を止めろ!
『一番打者、バッターボックスに入ります。打者は背番号1910番、ピクト・グラム選手』
へるぱがいつの間にか用意された実況卓に座り、マイクを片手に語り始める。
スーツ姿につけ髭で語る姿は妙に様になっているな。
『さぁ、相手の打球が迫ります。脅威の五台体制にピクト選手はどう立ち向かうのか~~~!』
どう立ち向かうかって? 決まってるだろう。
真正面から迎え撃つんだよォォォ!
「な、なんだあの緑顔の奴は!?」
御者がようやく俺に気付いたみたいだが関係無い。
林道は狭い。そこに立ち塞がっているから逃げも隠れもできないぜ!
「まぁいい、このまま轢き殺してやる!」
『野盗軍の第一球!』
迫る馬車。
轢き殺さんばかりに足を上げる二匹の馬。
だが俺は体勢を低くし、その上で飛び出した。
手に掴んだ「!」マークに力を籠めて、馬車の傍を走り抜けるように。
さらには全身を捻りつつ、その巨大なバットで薙ぎ払いながら。
故に、馬車が爆ぜた。
それも荷台を除いた車輪部だけが木っ端微塵に。
「アアアー――……」
「「ブヒャルル――……」」
そして御者と馬は弾かれ、一瞬にして空の彼方へ。
馬車の荷台は走り抜けていた勢いのままに地面へと落ちて滑り停まっていく。
『ホォーーームラァーーーン!!!』
いい感じだ、問題無い。
しっかりエクスクラメーションの力が発動しているが故の結果だった。
コイツのパチンコ球化能力は何も全てにとは限らない。
対象はあくまでも生物と着衣物のみで、無機物は対象外。
それでもって無機物への効果は、不可逆的な破壊衝撃である。
俺の力の特性を最大限に生かした調整だ。
物程度なら心置きなく壊せるしな。
そして、今の一発で扱い方は大体わかった……!
『第一球、ピクト選手が見事に制しました! さぁ続きはどうなるのかー!? 第二球、第三球が迫ります!』
さらにやってくる二台目と三台目。
一台目を吹き飛ばされた惨状を前にしても今さら止められはしないようだ。
ふと背後に視線を向けると、残された荷台の中がチラリと見えた。
人が沢山乗っていて、怯えるように固まってこっちを見ている。
でも心配しなくていい、すぐ終わらせてあげるから。
「なんなんだあれは!? チクショウ、なんとしてでも抜けろぉーーー!」
そう感傷に浸る間も無く、無粋な声を上げた御者が馬車を突撃させてくる。
だが感覚を掴んだ俺を止められる訳もなく。
二台目。
三台目。
力の限りに「!」バットを振り切り、同じように車輪部を打ち砕く。
当然ながら御者も馬一緒だ。暴漢に慈悲は無い! 馬は巻き込み御免!
続くように荷台が地面を滑って動きを止める。
すると狭い林道の入口が塞がれ、もう馬車の通る隙間がなくなった。
これを見た後続の四台目、五台目が堪らず勢いを抑えていく。
突っ切るのは現実的じゃないとさすがに悟ったらしい。
ただその代わり、御者や荷台に乗っていた奴らが剣を抜いて降りて来る。
よく見れば背後からも三人ほど。合計六人か。
先の荷台の中にも隠れていたようだ。
「おおっと動くな緑野郎! コイツラがどうなってもいいのかぁ!?」
「――ッ!?」
しかもなんてこった、こいつら人質を取りやがった!
妙な所で悪知恵が働きやがるッ!?
人質を取ったのは背後の一人。
泣き叫ぶ娘の背中を掴み上げ、首に短剣を突きつけている。
反吐が出るくらいに汚い奴らだ……!
「お、おいおい人質かよ、お前ら本当に見境ないんだなぁ……?」
「う、うるさい! 計画のためにはいざ仕方のないことなのだっ!」
計画……?
奴隷にして売りさばく算段でもしていたのか?
「そんなことより、早くその武器を捨てて投降しろ! さもなくば……!」
「いや、いやああああ!!!」
クソッ、人質の叫びが心に刺さるかのようだ。
これはもうやむを得ないか……。
さすがに観念し、「!」バットを任意で消す。
すると野盗どものせせら笑いが聞こえてきた。
「よぉし、そのままにしていろよぉ……!」
でもこのままじゃ俺がやられてしまう。
人質を諦めるしかないのか……!?
「――鋼裂破拳【マッスルインパクト】」
「え――」
だがそう思っていた矢先、空気が激しく揺れた。
それと共に衝撃波が走り、森がざわめき、「ッパァーン!」と破裂音が響き渡る。
そして振り向けば、木々にも負けないほどに巨大な人影が立っていた。
「「な、なんだ!?」」
「「コイツは!?」」
「――ギネスかあああ!!!!!」
そう、その姿はまさしく筋肉野郎!
奴がすかさず現れ、人質を取った野盗をブッ飛ばしたのだ。
しかもさらには俺を斬ろうとしていた奴の頭と足を掴み取って持ち上げていて。
「んぅおおおお!!!!! リフティングブレイクゥゥゥ!!!!!」
「ぎゃ、ぎゃあああああ!!!!!?????」
他の野党が慄く中、そいつを海老反り状に捻り上げて軋ませていく!
おっとこれ以上はもう何も言うまい! 凄まじい惨状しか待っていない!
突如現れたギネスを前に野党どもが怯みを見せる。
その隙を狙い、傍にいたもう一人へと即座に走り込む。
「ショックッ!」
「げっふぁあああ!!?」
そして腹部にトゲ弾を撃ち込み、容赦なくブッ飛ばしてやった。
これで背後を取っていた奴らは全員片付けたぜ。
「っとまぁ演技はここまでだ。さぁどうする!? お前らに逃げ場はねぇぞ!!?」
ギネスが来たのは偶然だが、それも利用して残った奴らにカマをかける。
鼻で笑いつつ、余裕を見せて堂々と立ちはだかってやったのだ。
「う、うう、クソ……この
完全な劣勢を前に、奴らも腹を決めるしかなかったようだ。
残り三人となった野盗はとうとう剣を落とし、膝を突いて降参した。
『いやーパーフェクトゲームでしたな。常にこうありたいものです! ピクト選手の今後の活躍に期待したい所ですね!』
ま、俺だけの活躍じゃないがな。
どういう訳かギネスが来てくれて助かった。
そういう意味でならギネスにMVP賞を授けてやりたいもんだ。
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