第27話 グリーンマン・ヒーロー!
「知らないの!? グリーンマンはグリーンマンだよ!」
「知らないよぉ……どこで知ったのそれ?」
「秘密!」
「「……」」
少女二人が炎に囲まれる中で決死のコントを続けている。
正直、そろそろ熱いので退散したくて仕方がないんだけど?
「と、とりあえず逃げないと炎に巻き込まれてしまう。あっちに逃げれば炎から逃げられると思うから、早く逃げた方がいい!」
ひとまずタイミングを見計らって退散を促す。
見た感じは俺と同じか少し下ってくらいの歳の子だし、状況がわからない訳もないだろう。
そう思っていたのだが。
「……ねぇピクト、あなた強いんでしょう!?」
途端、セリエーネが立ち上がって俺の腕を掴んでくる。
しかも視線をまっすぐ向けて来ていて。
「え? あ、ま、まぁ強いよ? 一応これでもスキル使えるし? 男としてもその、結構強いよ!」
「ほんと!?」
この距離感はちょっと初めてでドキドキしてしまった。
自分でも何言ってるのかわからなくなってしまうくらいに。
そんな俺にもセリエーネは嬉しそうな笑顔を向けてくれていた。
「ならお願い、私たちを助けて!」
「え……?」
ただその笑顔もすぐに険しくなり、腕を両手で掴んでゆすってくる。
思うままに懇願し、目も震わせながらに。
「人間が私たちの里に炎を放ったの! それに同胞も何人も攫われているのを見たわ!」
「なんだって!?」
「このままじゃ私たちの里が無くなっちゃう……だからお願い、助けて……っ!」
ついには感極まって涙まで流してしまった。
俺の腕を掴んだままに項垂れて、膝も突いていて。
セリエーネのその悲しむ姿に、俺もウルリーシャも黙って聞くしかなかった。
「……わかった」
「「――ッ!?」」
でもそんな様子を見せられたら黙っていられる訳が無い。
こんなに健気な子が涙を流して懇願して、それで動かなきゃ後で絶対後悔する。
だったら今はやるべきだよなぁ……!
『ヒュー! かっこいい! ヒューヒュー!』
茶化してくるへるぱを無視し、セリエーネを引き上げてウルリーシャにも手を伸ばす。
そうして二人を立たせると、自慢げに自身の胸をトントンと叩いて見せた。
「なら俺がそいつらをブッ倒す。けど道がわからないから案内を任せていいか?」
「も、もちろんよ! 任せて!」
セリエーネはどうやらかなりやる気らしい。
少し怯えは見せたが、強情な子なのかすぐに振り払ってしまった。
「で、でもセリエーネ! 私たちだけじゃあの数は無理よ!」
ただ一方のウルリーシャはすごく怯えている。
あんまり勇気が無い子なのか、「はわわわ!」と手を振って忙しそうだ。
「ならウルリーシャは一人で逃げる! 私は行く! それだけよ!」
「で、でもぉ……!」
「だけどウルリーシャの魔法があればもしかしたら少しは楽になるかもしれない。だから……」
「……わ、わかった、私も行くよ」
魔法! 魔法が使えるのか彼女は!
すげえ! 見てみたい! まだ見たことないんだよな~魔法。
――だけど今はそれどころじゃないな。
「こっちよ、ついてきて!」
セリエーネがもう勢いのままに走り出していた。
そこで俺もウルリーシャの手を引き、一緒に走り始める。
するとあっちからもギュッと手を掴んでくれたのでなんだか嬉しい!
今まで野郎ばっかりだったからなぁ~~~!
『チッ、肉体がある者同士の馴れ合いを見てへるぱちゃんは不愉快を禁じ得ない』
しかし画面端でへるぱが不快そうに舌打ちを連呼するので気分が台無しである。
ひとまず嫉妬画像には無視をキメてセリエーネについていく。
その最中、セリエーネが切り株の傍を屈むように走り抜けていて。
そんな彼女はいつの間にか小さな弓と矢筒を掴んでいた。
隠していた武器だろうか。どうやらもう彼女たちの生活圏には入っていたようだ。
「二人ともあんまり無理はするなよ? 最悪、俺を置いて逃げるんだ。相手がわからないから勝てる保証も無いしな」
「嫌よ」
「お、おい……」
「関係無い人を巻き込んだのに自分だけ逃げるなんて絶対に嫌」
セリエーネはほんと強情で、でも筋が通ってる子なんだな。
だからこそこんな所で死なせたくはない。
「この先くらいか?」
「ええそうよ!」
「なら君はウルリーシャのことを頼む!」
「ピクトはどうする気?」
「そんなの決まってる!」
そう言い切るとウルリーシャの手をゆっくりと離し、セリエーネに託す。
そしてそのままセリエーネの横を走り抜けた。
狙いはその先、人間の集団!
いるいる、溜まっているのが丸見えだぜ!
「――突撃あるのみ! 俺はこういう時ほど小細工が苦手なんでね!」
相手の実力は未知数。
おまけに数も全員とは限らない。
しかし俺のエフリクス・イマジネーションってやつが感じているぜ!
この戦い、俺一人でもやりきれるはずだってな!
そう感じ取ったが故に、拳を構えて突撃する。
そんな俺の右人差し指は、新しく構築したばかりのアイコンへと触れていた。
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