第22話 新生流民区大紹介!後編

「では食事を堪能して頂いた所で、最後にお見せしたい所があります」


 パンを一人一つ与えると、今度は流民区の最奥へと歩き始める。

 そしてとうとう最後の見せ場へと辿り着いた。


 ……流民区自体が狭い故に、設備はそこまで多く作れない。

 それに一ヵ月という短い期間だったから、これだけが限度だった。


 だがこれでも生活するのには充分過ぎた。

 その具合を確かめるには丁度良い一ヵ月だったよ。


 だから最後はその集大成を見せてやる。

 この流民区が長いこと願ってやまなかった夢の形をな!


 さぁフィナーレに度肝を抜かせてやるとしようか!


「こちらが我々の最も誇る設備、浄水施設付きの浴場でございます!」


「よ、浴場だとォ……!?」


 領主たちに見せつけてやったのは生活の要、水源浄化設備&共同浴場。

 へるぱの助言で精製した疑似コンクリートをふんだんに使用した大型建屋だ。

 町から流れ出てくる汚水の浄化を一挙に引き受けつつ、皆の体と心も綺麗にしてくれる。


 おかげで今は設備から直接水を汲むことさえ可能!


「こ、ここの水は飲めるのか?」


「えぇもちろんです。特製の浄化槽を介することで汚物をしっかりと除去します。おかげで生活するための水はここから採取できるようになりました。今の料理や畑に使われる水もこちらから汲んだものなのですよ」


 これで恐ろしい遠くの水源へと行かなくても済む。

 今まで犠牲になった人が多かったからこそ、この改善は何より大きい。


 ほぉら、さっそくと兵士たちが下流の水にも興味を示したぞ。


「では設備から流れ出ている水も綺麗なのですか?」


「ええもちろん。そのまま飲むことさえできます。そう、そこの子どもたちのように戯れることもね」


 施設の下流では今もミーネら子どもたちが楽しそうに水遊びしている。

 もちろんヤラセで用意した演出だが、元々水遊びを推奨しているで問題はない。


 汚水が通っていた部分の土は取り除き、コンクリートで埋め直してある。

 これで集落を通る水は再汚染されることもなく全て安全だという訳だ。

 おかげで以前のような汚臭とは完全におさらばである。


 ついでにコンクリートには香料を混ぜているからとてもフローラル!

 浴場にもへるぱ自慢の果物石鹸があるからすごくフルーティ!

 やはり清潔とは香りだよ領主ゥ!


「それで、下流にあるあの箱状の物体は?」


「あぁあれですか。あれはトイレです」


「トイレ……それってまさか!」


「その通り、水洗トイレですとも!」


「「「水洗トイレだとおおおお!!!??」」」


 ハハハ、気付いてしまったか我が流民区の秘密に。

 紹介するつもりはなかったんだがぁ~~~あ~やはり気付いちゃったかぁ~!


「あ、ありえん! 水洗トイレは王族や上級貴族しか使用できないほどに高価な代物のはず! それを流民如きに造れる訳がない!」


「いやいや、工夫すれば誰だって使用できる代物ですともぉ」


「「「じょ、冗談だろ……!?」」」


 いいえ本当ですとも。

 前世のパワフルな機械式トイレと違い、すべて蛇口式とお粗末だが水洗に違いはない。

 おまけに言えばウォシュレットも付いているから衛生面でも完璧である。


 拭く紙がない世界だからこそウォシュレットが最も輝く時。

 飛び散るから汚い? 洗えばよかろうなのだ。

 共同トイレだからこそ皆で洗えば怖くない。


「いかがでしたかな? 我ら流民の技術の粋は」


「まさかこれほどまでに発展しているとはな、正直驚かされた」


「ええそうでしょう。今や首都の一般設備よりも優れていると自負いたしましょう」


 ここまで見せつけられれば領主も認めざるを得まい。

 この流民区が以前とは違う最新式設備の塊へと変わったことをな。


 実際、例の商人にもこの設備を紹介した際に同じ感想を貰った。

 首都でさえここまで優れた設備を有した区画は存在しないと。

 故にこの設備を整える技術を買われ、商売の話も上手くいったのだ。


 これも全て流民区に住む人々の生活のために。

 全世界笑顔化計画の一歩と言えよう。


 さぁ、ならばどう出る? バーグ・オムレツさんよ?

 ここまでして流民区の皆を買わない理由は無いよな?


「貴様、何が目的だ? どうしてこんな設備を見せる?」


「単に、流民区の皆が持つ技術や努力を認めて頂きたいがため」


「ふむ?」


「彼らに敵意も犯意もございません。普通の人でございます。町の方々と協力し、手を取り合える素晴らしい人材にございます」


 だからこそ買ってもらおう。

 お前の裁量で、彼らの想いを。


「ここまで仕上げられる彼らの能力はいつか貴殿の礎を築く力となりましょう。それを流民風情と片付けるなど、もはや愚策なのではないでしょうか」


 これで伝えたいことは全て伝えたぞ。

 これでも俺はまだ、お前に幻滅しちゃいないんだぜ……?


「……いいだろう、ならば代表者たる貴様に言い渡そう」


 途端に緊張が張り詰める。

 そんな中、奴が今初めて俺に対して全身を向けてきた。

 これが奴なりの誠意の証なのだろうな。


 だったら、その誠意の答えは……どうだ?



 

「これより即刻、貴様ら流民はこの地より退去せよ。施設・設備は我が町が全て接収する。以上だ。猶予はそれほど無いと思え」

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