第21話 新生流民区大紹介!中編
先に工房を見せてしまったのは少しやり過ぎたかな?
おかげで想定よりも少しスケジュールが遅れてしまっている。
だが問題は無い。
引き込めば引き込むほど俺たちの計画はより完成度を増すんだからな!
「次の施設は我が流民区自慢の共同食堂ですが……その前にあの畑をご覧ください」
「……フン、規模が大きくなっただけの普通の畑ではないか」
「ええ、まったくもってその通りでございます。ですが商人との商売によって得られた種や苗木のおかげで今後の収穫が楽しみとなりましょう」
「まったく、余計な知恵ばかり付けおって」
ただ唯一、領主はマイペースを崩さない。
女神像はすでに腰裏に回した手の中だ。
それに畑が至って普通なのは間違い無い。
こちらはへるぱから育成方法を学んではいるものの、どこでも採れる野菜の種や果物の苗を植えているだけだから。
それなので特に説明をする訳でもなく共同食堂へ。
すると到着する前にさっそくと彼らの様子に変化が訪れる。
「「「……ッ!?」」」
「こ、この香ばしい香りは?」
「まさか肉……!?」
どうやら食堂から放たれる匂いに気付いたようだ。
途端に彼らの、主に兵士の足取りが早まった。
さらに食堂の様子を目の当たりにした時、彼らが驚愕を見せる。
「「「こ、これは……!?」」」
「なんだ、あのスープ料理は……!?」
彼らが目にしたのは今まさに流民が食している物。
どんぶりに箸やフォークを突っ込み、思うがままに啜り食らう。
そこから漂う香りは肉脂の風味さえ放ち、人の食欲を存分にそそるのだ。
その名もラーメンッ!
小麦と醤油のハーモニーが奏でる至高の料理なりッ!!!
「あちらは試行に試行を重ねて産み出した〝メーン〟という創作料理にございます」
「き、聞いたことが無い名だ……」
「ただ水を入れて捏ねた小麦粉の塊を細く切って茹でただけの代物ですが、肉と香味料を煮込んだ汁と絡ませることによって無類の美味へと昇華するのです」
へるぱ曰く、一応この世界にもラーメンの原型らしい物が存在するらしい。
しかしその殆どがうどんよりも太く、完成度は日本のラーメンとは比にもならない。
だから俺は前世の知識から、子どもでも食べやすい細麺を作ることに決定。
スープに関してはド素人なので、それらしい調味料をへるぱに聞いて選定、商人に頼んで調達してもらったものを購入した。
後は少し前に手に入れたチャージングラビットの肉と共に煮込んでスープ完成。
そこに麺を入れれば旨味溢れる醤油ラーメンの出来上がりである。
前世で食べた物と比べたらインスタント食品以下かもしれない。
だがそれでも前世の美食を忘れられない俺にとって、この芳醇な味わいはこれ以上ない救いになったぜ。
「だ、だが肉は早々手に入らんはずだ! 一ヵ月前のチャージングラビットの肉が残っている訳でも――」
「いいえ、まだだいぶ残っていますともぉ!」
「なっ!? 馬鹿な!」
おおっとさすが領主、ただの馬鹿って訳じゃあないか。
この香りの理由に気付いてしまったようだな。
「あの時の肉がそんなに長持ちする訳が――」
「いえいえ、こちらの食堂には長期保存用の冷凍庫がありますのでねぇ?」
「「「冷凍庫、だとぉ……!?」」」
そう、この食堂の強みはラーメンだけではない。
それらの食材を長期保存可能な冷凍庫が存在するのだ。
……いやぁ、コイツの設置は急務だったから大変だったぜ。
なにせチャージングラビット討伐作戦から帰った直後に急造したからな。
食堂の地下掘りに内部舗装、氷の製造と苦労したもんだ。
だがおかげで今でもチャージングラビットの肉が保存できている。
これで我が流民区はあと一年戦えるであろう!
なれば領主たちにお土産を渡すことさえ苦ではない!
「さて、お越しいただいた皆様には是非とも食して頂こうと思いまして――」
「まさかメーンを……!?」
「いえ、こちらの食堂謹製のパンを是非」
だけど領主たちの顔がぬか喜びから一転して無表情となった。
そんなに落胆しなくてもいいのに。
ただここのパンも美味しいのでどうか楽しんでもらいたい。
こちらもへるぱの知識をふんだんに盛り込んでフッワフワの出来栄えだぞぅ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます