第17話 解体祭り開催!

 動物の解体作業となると俺はやったことが無いからパス。

 ただ最大の功労者ともあり、ギネス組の連中も潔く許してくれた。


 そんなこんなで戦闘終了から一時間くらい経った頃だろうか。


「おや、君は確か二日前の……」


「お? 門番さんじゃないですかぁ。 ドーモドーモ!」


 地べたに座って解体作業を眺めていると、やってきた門番さんに声をかけられた。

 それで振り返ってみれば……おお、まぁなんと大所帯をお連れで。


 見た限りだと兵士が五人、それと町の住民らしい人たちが何十人も。

 いずれも道具を下げ、ざわざわと騒ぎながらの御登場だ。


「ここに倒れてるのは全部チャージングラビットです。皆さんにもおすそ分けするので好きなだけ解体しちゃってください! 全部タダでーす!」


 だからと俺も声を張り上げ、町の人たちに急ぐよう手振りでも煽る。

 すると途端に人々が嬉しそうにしながら肉塊へと走っていった。


 こうなればもう大騒ぎだ。

 老若男女、立場にすらわき目もふらずに捌き、剥ぎ、次々袋に詰めていく。

 そうして袋を持って走る人を眺めつつ振り返れば、町の方からもまだ人が来ているのが見えた。


「しかし本当にいいのか? お前たちが倒したのに」


 ただ、兵士たちは俺の傍に佇んだまま。

 彼らはきっと住民たちを見守るつもりでここにいるのだろう。


「そんなこと言っても俺たちだけでこの数を処理するのは無理ですからね。なら町の人も喜んでもらった方がいいと思って」


「随分と太っ腹だ。そんなこと、昨今の裕福貴族でも言い出しはすまい」


「それは俺の祖国でも同じですね。ま、母数が多過ぎてどうしようもないってのもあるとは思いますけど」


「それはまた随分と繁栄した大国の出なのだな、貴君は」


「いやいや、しがない島国ですよ。アニメやマンガやらの文化がやたら発達した、ね」


「?」


 その代わり俺の与太話には付き合ってくれるようだ。

 どこまで伝わるかはわからないけど、暇潰しには丁度いい。


「しかし最初はまさかとは思ったが、本当に奴らを倒してしまうとは……まるで夢のような光景だよ」


「ですが壁守兵も戦闘の様子を目撃したという話ですし、きっと間違いでは無いのでしょう」


「もちろんだ。この光景を目の当たりにしてどう疑えるものか」


 兵士の中には「自分も解体に参加したい」と言いたげな者もいる。

 彼らにとってもチャージングラビットはご褒美みたいな存在らしい。


 だから門番さんにそっとそのことを伝えると、さっそく動いてくれた。

 物欲しそうな兵士に指を差し、肉の方へと視線を誘導していたのだ。


 そうなると三人の兵士もが解体に参加することに。

 兵士と住民、流民が入り混じる微笑ましい光景の誕生だ。


「門番さんも行ったらどうだい?」


「いや、私はいいよ。妻がすでに来ているしな。ほら、あそこだ」


「おっ、綺麗な方じゃないっすかー。もう夫婦水入らずで一緒に作業すればいいのにぃ」


「そうもいかんさ。これが我々の仕事だからな」


「自分も付き合いますよ」


「すまんな」


 それで残った門番さんと兵士さんとでお祭り現場を眺め続ける。

 時には会話を挟み、時には差し入れのお菓子とお茶を貰って舌鼓をしたり。


 町の住民も友好的で、俺への差し入れだけでなく流民組に手伝うなどのこともしてくれている。

 言うほどの隔たりはなさそうで俺としても安心だ。


 ただ一方で門番さんと兵士さんは退屈そう。

 というのも、他の魔物もチャージングラビットの縄張りには来ないらしい。

 おかげで何事もなく、気付けば夕方に差し掛かろうとしていた。


 こう時間も進めば人も知恵を絞るようで、終盤に差し掛かると荷車まで現れ、捌く前の死骸を直接運ぶ者まで現れた。

 もちろんそれでも問題は無い。無駄にするよりはずっとマシだろう。


 それに死骸の数はまだまだ沢山ある。

 流民区の住民にも同様に運ばせてこれなのだから、もしかしたら今日中に処理しきるのは無理かもしれないな。


 ――だなんて、そんな予感を肌で感じていた矢先のことだった。


 途端、背後の方で「ざわざわ」と騒ぐのが聞こえる。

 それでふと振り返ると、馬に乗った集団が来ていることに気が付いた。


「あれはまさか、領主様!?」


「お? もしかして町の一番偉い人かい?」


「ああ。あのリーベルト南方壁街市民区を守る領主、バーギュ・オムレス様だ」


 なんだか随分と美味しそうな名前だ。

 そう思い、どんな人かと眺めてみたのだが。


 ……名前とは裏腹に、なんだか随分と陰険そうな親父だった。

 長髭に骨ばった頬、髪はオールバックで目つきがかなり細い。

 それでいて軍服っぽい身なりと、平気で人を殺していそうな雰囲気だ。


「あの方は貴族で領主でありながら数いる将軍の一人でもある。容赦なく敵の首を刎ねるその惨忍さ故に〝首切り侯〟とも呼ばれる御方だ」


 おっと、見立ては大正解だったらしい。

 門番さんがボケっと見ていた俺に耳打ちで教えてくれた。


 でも、まさか俺の首まで刎ねられたりとかはしないだろうな?


 そう心配していると、その首切り侯とやらが馬に乗ったまま俺たちの傍へ。

 門番さんたちが敬礼する中、座ったままだった俺を鋭い眼で見降ろしてくる。


「貴様がこの魔物どもを倒したと聞いた」


「え、ええ……まぁ流民区のギネス組と協力した成果です。――ってあ、座ったままですいません!」


「構わん。そのままでよい」


 お? 思ったより融通の利く人だな?


 だなんて思っていたが、俺に向けられていた視線はすぐさま死骸の方へ。

 それに釣られて俺も同じ方を向いてしまった。


「御苦労だった。もう帰って良いぞ」


「――え?」


 だが次に発せられたのは耳を疑う言葉だった。

 思わず領主の方へ向き直してしまうくらいに。


 しかし領主は俺になど見向きもせず、また淡々と言葉を連ねるだけで。


「仲間を連れて帰るがいい。これ以上お前たち流民があの肉を採ることは認めぬ」


 そのあんまりな言動には門番さんたちも狼狽えるほどだ。

 そして当然ながら俺や、傍で聞いていた者たちも。


 ただ、このおかげで気付けたことが一つある。

 それはこの流民制度という歪みが間違いなく、この領主のような貴族から生まれているのだということだ。

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