第16話 能力の恐るべき潜在性
昔から絵を描くという趣味の関係上、マンガを嗜むことは多かった。
時には自分で描いてみたり、その難しさに頭を悩ませることが多かったものだ。
だからこそ自然とマンガ的な表現も覚えていた。
その表現を取り込んでピクトグラムにするとかもやってきた。
とても些細なことだが、そういった経験が俺の心を支えた一因だったのかもしれない。
そして今、その経験が花開く。
攻撃力を意識した俺の新しい力――その名も【ショック!】。
途端、拳の先に形成されたのは幅が四~五人ほどもある巨大なトゲトゲ。
前方だけに突起を有したそれはまさしく、マンガでよく見たことのあるマークだった。
要は人が驚く時によく出てくるアレだ。
それが今、水平に、立体になって現れた。
これもまた緑色なのは非常口・放の影響かな?
「「「グルォアアア!!!!!」」」
だがそんなマークの力なんて露知らず、チャージングラビットたちは雄叫びを上げて突っ込んでくる。
奴らにはどうやらただの板っ切れにしか見えないようだ。
「でも残念だったな、その無警戒さが命取りだあっ!」
そんな奴らへと向けた左拳に意識を集中。
すると途端に拳先が「ズドンッ!」と爆発したかのように弾けてマークが発射された。
ただ左腕にかかる負担もすさまじく、堪らず右手で掴んで支える。
それでも遂には跳ね上げられてしまい、思わず身をもよろけさせてしまった。
「これでどうっ――!?」
そんな中でなんとか視線を正面に戻したのだが。
この時、俺は驚愕を通り越して愕然としてしまっていた。
それは新しい力が想像を越えた力を発揮してしまったが故に。
オール・真っ二つである。
進路上のチャージングラビットたちが全て、音も反動も無くスパスパと二つに分かれて転がっていったのだ。
おまけに景色の先にある丘さえ真っ二つときた。
その異常な光景を前に、ギネス組も残ったチャージングラビットも唖然。
突如として大集団が動きを止めたことで、撃ち漏らした個体も遂には驚いて逃げてしまうという始末である。
「あっ! 逃がさないわよぉン!」
「いや、いい。もう逃がしてやろう。無駄に狩り過ぎる必要は無いだろ?」
「え? あ、まぁそれもそうねぇ……」
「それよりも要請班に連絡を頼む。町の連中もいないとこの数を一斉に処理するのはきついだろうしさ」
「わ、わかったわン」
気分を切り替えてこう指示すると、ギネスが発煙筒を焚いて狼煙を上げる。
これで予め町の門前に待機させていた要請班が動いてくれるはず。
傍の連中も張り詰めた緊張から解き放たれ、皆疲れるように尻餅を突いていた。
はぐれた個体をしっかり引き付けてくれていたし、今は休憩ということにしよう。
ただ俺自身は目の前の惨状に罪悪感と恐怖を感じてしまって、まだ昂りが収まらない。
自身の想像力に任せて作った力がまさかここまでの効果を発揮するとは思いもしなかった。
これがエフリクス・イマジネーション……恐ろしい力だと思う。
少なくとも安易に人へ向けて撃っていい代物じゃないな。
そうも思うと、俺は左腕に浮かんだショックのアイコンへ人差し指を充て、スマホでフリックするように弾いて消した。
『あらま、もう用済み扱いなんです?』
「今の力は強過ぎて他で使い物にならないしな。もう少し加減する形で創造し直した方がいいと思ったんだ」
『あらあら、エフリクス・イマジネーションがふんだんに籠った力だったのにもったいないですねぇ~』
「それは別の方向性で高めてみるさ。幸い、何度でも創造し直せるからな」
消す分には問題無い。
むしろ
それというのも、俺の力は幾らでも自由に組み換えが可能らしい。
もちろん限界設定値もあるようだが。
その限界が拡張性――アイコン設置のスロット数だ。
例えば非常口・放はスロット一つ分と、リーズナブルで効果も安定している。
対してショックはスロット二つ分が必要だからあれだけの効果が発揮できた。
もっとも、ショック自体がハイクオリティの出来栄えだったようだが。
どうやら技自体も創造時のイメージ次第で威力が左右されるようだ。
しかしあれだけの威力の代物はもう必要無いだろう。
もう少し威力を調整して必要スロット数を減らした廉価版が欲しい所だな。
「ピクト、町の方で発煙を確認したわ。説得が成功したみたい」
そう思い悩んでいると、ギネスが嬉しそうに駆け寄って来た。
予想以上に上手く行っているようで俺も嬉しい。
「よし、じゃあこれから町の人と楽しい楽しい解体パーティ開催だな。お前ら、行儀良くしろよー?」
「ははっ、任せてくだせぇ! 人生で一番行儀良くしまさぁ!」
「お前が行儀良かったことなんて一度もなかったろうが!」
「言えてるぜ! ギャハハハ!」
ギネス組の連中も初めての大業にもう浮かれっぱなしだ。
これから待望の肉祭りだし、その気持ちもわからなくもないけどな。
そんな大喜びの連中を前にした俺も思わず笑みを零す。
先んじて解体を始めるその姿があまりにも微笑ましくてならなかったんだ。
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