第15話 逆襲の一撃

「来たわ来たわぁ! 肉が来たわぁ! おかげでアタシの〝ギネス・ラブテール〟がもうビンビンよぉぉぉぉぉぉ!」


 チャージングラビットの接近に伴い、ギネス組の連中が気合いの声を上げる。

 ギネスに至っては自慢のピンクモヒカンが逆立つという始末だ。

 その鶏冠トサカにそんな名前がついていたのかと驚きである。


「だが一匹目はお前たちへのレクチャーも兼ねてる。よく見ておけよ、俺がどうやってこいつらを倒すかを!」


 しかし連中の出番はまだだ。

 一匹程度なら何の苦労もせずに倒せるだろうからな!


 故にこう伝えつつ、左拳を振り切って力を発現。

 即座に非常口・放のマークが突き抜け、チャージングラビットへと衝突した。


 それと同時に、昨日偶然に習得した軌道変化に再挑戦だ。

 左腕が軋む感覚に苛まれるも、強引に拳を空へと振り上げる。


「おおああああああッ!!!!!」


 すると案の定、昨日と同じくチャージングラビットが空へと打ち上げられることに。

 鶏よりもずっと大きいからか、空の彼方を飛ぶ小さな影がハッキリと見える。


 それも間も無く再び大きくなり、「ズズゥン!」と大地を突く。

 あの高さから落ちればいくら強靭なウサちゃんでもひとたまりも無いだろう。


『討伐成功! ピクトはレベルが上がった!』


 こういう時のへるぱの報告はいちいち死亡確認せずに済むから助かるな。

 あとはこの一発目がキチンと以前通りに用を成してくれているかどうか。


『チャージングラビットのスキル発動!〝緊急召集〟!』


 やっぱりだ!

 ってことは奴らが来るぞ!


「よ、よし、まずはあの肉を回収して――」


「それはダメだ!」


「「「ッ!?」」」


「あれは放っておくんだ! 自分たちの持ち場を離れるな!」


 そう、あれはあくまでも囮に過ぎない。

 もしあれに手を出して陣形を崩せば作戦は間違い無く瓦解する。


 目の前の一匹に囚われてはいけないんだ。

 この後の大漁を逃さないためにもな。


「ギネス班は右翼、マイゼル班は左翼、撃ち漏らした奴の引き留めは任せたぞ!」


「「「おう!」」」

「「「任せろ!」」」


「ッ!? 地響きよ! 来るわよぉ、ヤバい数が!」


「ああ、俺の足もガンガン感じ始めて来たぜ……!」


 この感覚、二日ぶりだ。

 あの時はもう敵わないと思って逃げるしかなかったな。


 だけど今は違う。

 今は仲間が大勢いるし、力の使い方もだいぶ把握した。

 情報も得て、奴らの動きや習性もわかる範囲で学んだ。


 だから後はあのウサギ軍団が俺の思惑通りに動いてくれることを祈るだけだ!


「う、おおお……!?」

「き、来やがったあああ!」


 ギネス組の連中がとうとう驚愕の声を上げ始める。

 景色の彼方から尋常じゃない数の兎影がやってきていたのだ。

 しかも一挙にして集まり、収束するようにして。


 その様子はまるで、巨大な弾丸型群生体。


「ああクソ、これでも結構肝を据えたはずなんだけどな……! やっぱ怖ぇわチキショウ……!」


 これがチャージングラビットの習性、その名も〝突貫突破〟って奴か……!


 奴らの質量と突撃力は半端じゃなく、普通の人間じゃ止めることは出来ない。

 それは奴らもよく知っていて、だからこうやって数で集まって物量で押してくる。


 故にその結果、どうしても人間側の陣形が突破されてしまう。

 仮に先頭を潰せたとしても後続が無限に続くから止めようがない。

 つまりは犠牲覚悟の一点突破戦術という訳だ。


 おそらく奴らを止めるためには攻城用の開門兵器級の武装が必要なはず。

 だがそんな大層な物を用意した所で、奴らが上手く誘われる訳もない。


 だけどな……!


「大丈夫だ、平気だ、強い俺なら、やれる……ッ!」


 そんなのと比べれば、奴らには俺たちが弱っちい人間だとしか見えないだろう。

 この集団で突っ込めば容易に突破できる雑魚なんだってな。


 だから。 


「その習性を逆手に取らせてもらうぞ、このウサギ野郎ッ!!!!!」


 両腕を引き込み力を込める。

 狙いは奴らの中央――ではなく、扇状に開いた奴らの陣形のその左右端。


 その両端へと向けて拳を振り切り、二発同時に非常口・放を放つ。


 今度は小細工なしの直線打ち。

 するとたちまち、景色の彼方で奴らの陣形の端が削られていくのが見えた。

 個体を押し返し、撥ね飛ばし、まるで陣形を凝縮させていくかのように。


 しかし何匹かは漏れ、集団の外からこっちに向かってくる。


「ピクトッ!?」


「まだだ! あいつらはまだ集団に戻せる!」


 そう感じた俺は再び非常口・放を放ち、はぐれたチャージングラビットを外側から追い立てる。

 すると数匹弾いた所で上手く誘われ、集団の中へと戻っていった。


 加えてもう一度両端へと力を放ち、集団をさらに凝縮。

 だが今度は二匹ほど集団から離すように弾いてしまった。


「あれはもうダメだ! お前たちで何とか頼む!」


「わかったわン! ギネス組、気合いを入れなさぁい!!!!!」

「「「ウオオオオオ!!!!!」」」


「だが絶対に俺の前には立つなよおっ!」


 来た。来た来たきぃたあああ!!!

 大集団がもうすぐ傍まで、先頭集団の数がわかるくらいに!


 怖い! ヤバい! ちびりそうぅぅ!

 だがもう退く訳にはいかない!


 ここで! 確実に! 仕留めきるんだ!


『ピクトのエフリクス・イマジネーション増大確認! いけますぜ~旦那!』


「っしゃあ! 一発デカいのブチかますッ!!!」


 へるぱの掛け声と共に、力が増えるのを感じた。

 今なら何でもできる、そう思えてならないくらいの昂揚感に包まれながら。


 故に俺は余裕をもって左拳を深く引き込ませたのだ。

 もう目の前にまで到達しそうなチャージングラビットの集団に意思を向けて。


 そして今、解き放つ。




「コイツがお前たちを止める力だッ!!! 喰らえぇ、〝ショォォォーーーーーーク〟ッ!!!!!」




 放ったのは押し返すだけの非常口・放ではない。

 俺が新たに創造した、殺傷能力をより上げた新技である。

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